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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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少しずつ理解していくイリステラ

 執務用の屋敷も見学したイリステラは、ミュゼルが良い環境で過ごす事が出来ていると知り、ひとまず安堵していた。結婚してから扱いが変わる事などもあり得るために、心の端で心配はしていた。ミュゼルの立場は第三夫人となるので、そこが心配の原因でもあった。

 だが、それが杞憂だと分かり、胸の中にあった心配事が解消され、すっきりとしていた。

 そうして日中を過ごしていき、夕飯の時間になった。一通りの防衛設備を確認し、これから製造予定のものも確認出来たライルは、一安心しながら屋敷に帰ってきていた。


「夕食はいつもこんな感じなのかしら?」

「いえ、今日は少し豪華にしています。歓迎の料理ですので。全部メイド製ですが」

「そういえば専属の料理人は雇っていないのよね。メイドだけでこのクオリティを仕上げるのは……中々凄いわね。味もしっかりと美味しいわ。持ち帰りたいわね」

「うちの専属メイド達ですので、申し訳ありません」

「専属?」

「元々セレーネが住んでいたうちの別邸で働いていた面々だ。王都の便利さよりもセレーネといる事を選んだ者達だからな。交渉は骨が折れるどころか、テーブルに着くかも分からんぞ」


 セレーネの屋敷で働いているメイド達は、今よりも遙かに好条件であっても、靡く可能性が限りなくゼロに近い。そもそも条件の良い本邸勤務から別邸に転勤を望む者すらいた程だ。


「慕われているのね」

「セレーネ自体が気さくだからな。働きやすい環境なんだろう。クロとも遊べるしな」

「クロって、あの外ではしゃいでいた大黒猫よね。メイド達が全力で走っている姿は初めて見たわ」

「クロは追いかけっこが好きなので、私が仕事で遊べない時などはメイド達が遊んでくれてます。あの体格ですのでメイド達も全力で走らないと相手を出来ないんです。おかげで良い運動になるそうですよ」

「まぁ、それはそうよね」


 イリステラも目撃したメイドとクロの追いかけっこは、メイドが全力疾走で逃げるクロを追いかけるというものだった。王都であのようなメイドの動きを見る事は決してないだろう。それほどまでに特殊な光景となっていた。

 夕食を綺麗に食べた後は、お風呂の時間となる。浴場はかなり広いので、イリステラはセレーネ達と一緒に入る事になった。ライルは騎士団の宿舎に用意されているシャワー室にて済ます事になった。この辺りは屋敷に住む全員が女性である事にライルが気を遣っただけだ。

 いつも通りセレーネはカノンに洗ってもらう。イリステラは、ミュゼルを洗ってあげていた。


「お義姉様は、ご自身で洗う事は出来るんですか?」

「出来るわね。これでも妹は沢山いるから、そのお世話もしていたのよ。基本はメイドに任せる事が多いけれど、メイドも有限だもの。姉は自分で出来るようになった方が良いでしょう? 私よりもあなたはちゃんと出来るの?」

「出来ますよ。カノンがそうできるように教育してくれましたから。それはそれとしてカノンがいる時はカノンにやって貰いますが」

「ライル様が言っていた基本的に甘えん坊というのは、こういう事だったのね。それにメイドがあなたを慕う理由にも納得がいったわ。他のメイドにも似たような感じなのね。人間たらしという感じかしら。うちのウルスラとミロクが懐くのも分かる気がするわ。あの子達の場合、憧れのお姉さんという感じでしょうけど……まぁ、そんな感じはないわね。助けられた時の印象がそのまま焼き付いている感じかしら」

「お二人の前では、なるべくお姉さんでいるようにしてますね。カノンの他にもお手本になるような年上は多いですから」

「まぁ、本性がばれたところで、大して痛くもないでしょうね」


 イリステラからすれば、セレーネの魅力はそこがバレたところで何も変わらない。結局こういう面があっても、有事の際にしっかりと行動する事が出来る判断力や行動力は変わらないために、しっかりと魅力は残っているからだ。

 そうして、身体を洗い終えた後で湯浴み着を着たセレーネ達は、イリステラを連れてサウナへと移動した。


「王城にはないから新鮮な感じがするわね。あら? この子って……」

「はい。温調スライムです。ですが、この子は特別仕様で本来では上がらない温度まで上昇する事が出来るんです。この子に水を掛ける事でサウナにするという感じです。なので、絶対に触れる事のないようにお願いしますね」

「そんな温度まで上がるのね。そうなって、この子は大丈夫なの?」

「はい。そもそも熱と冷気に耐性がありますので」


 セレーネ達がクッションの上に座ると、カノンが水を掛けて温度を上げていく。じっとりと汗を掻く中で、イリステラは良い香りが広がっている事に気付いた。


「良い香りね」

「はい。アロマオイルが入った水ですから。長居する訳では無いですけど、少しでも落ち着けるようにという感じですね」

「まぁ、良い香りでも、この暑さはキツいものね。フェリシア達もよく入るの?」

「いえ、私はそこまで入りません」

「私もです。どちらかと言うと、メイド達が入りますね」


 サウナの利用者は、セレーネ達よりもメイド達の方が多い。セレーネ達は好きじゃないというよりも湯船の方が好みだった。


「私達は、偶に入るくらいが丁度良いですね。さて、そろそろ水風呂に入って汗を流してから、普通に湯船に浸かりましょう」

「そういうものなのね」


 イリステラはセレーネ達のやり方に従って、サウナを終え、普通に湯船に浸かる。


「あの中はどうなるのかしら?」

「今は、少しずつ温調スライムが自分の温度を調整して冷ましているところですね。常に暑い状態が続く形ではありません」

「そうなのね。まぁ、それが良いかもしれないわね。それにしても広い湯船ね。メイド達も同じ湯船に入るのよね?」

「はい。そういう設計ですから。時折、マリアナやナタリアも入りますね。皆で入る方が楽しいですから」

「これもこの子が人気の理由かしらね。ところで、いつもそうやって入っているの?」


 イリステラはカノンに寄り掛かっているセレーネをジト目で見ていた。


「え? あ、はい。小さい頃から、この形ですので。これが一番落ち着くんです」

「ああ、そういえば、カノンはずっとセレーネの専属でお世話をしていたのだものね。そういうものがあっても不思議ではないわね」


 カノンとセレーネの関係を認識したイリステラは、セレーネがカノンに寄り掛かっている理由に納得していた。セレーネの事を知る度に、イリステラはセレーネに親しみを覚えるようになっていた。

 それはセレーネが自分には理解できないような存在ではなく、本当にただの甘えん坊な少女だという事が分かっていくからだった。

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