ライルとイリステラの来訪
三週間後。セレーネ達はレッドブラッドの門の前に集まっていた。そこにルージュ公爵領から魔動車が走ってくるのが見えてくる。
そして、セレーネ達の前で止まると、そこからライルとイリステラが降りて来た。イリステラは、ミュゼルと同じ金髪を首辺りで切りそろえている少し勝ち気な女性だった。
「お兄様、お義姉様。ようこそ、カルンスタイン辺境伯領レッドブラッドへ」
「ああ。元気だったか?」
「勿論! というか、ちゃんと結婚式に呼んでよ。【空間転移】があるから、一日二日くらいだったら問題ないのに」
「そういえばそうだったか。だが、何があるか分からないのが領地の開発だろう。それも最初の開発だからな。専念させてやりたかっただけだ」
ライルはそう言いながらセレーネの頭を撫でる。そうしてセレーネとライルが兄妹のやり取りをしている間に、イリステラとミュゼルも姉妹のやり取りをする。
「ス、ステラお姉様……ようこそ……」
「久しぶりね。元気にしていたかしら?」
「は、はい……ステラお姉様も……お元気そうで……」
「そうね。いい加減、私とも目を合せて話しなさい」
イリステラはミュゼルの頬を掴んで自分と目を合わせさせる。イリステラの強気な目を見て、ミュゼルは緊張してしまっていた。
「どうして私と接すると、こんなに緊張するのかしら。実の姉よ?」
「目が怖いのでは?」
ミュゼルとイリステラの会話を聞いたセレーネは率直に言う。セレーネの正直さに、その場の全員が苦笑いしてしまう。イリステラとミュゼルを除いて。
「目?」
イリステラは、眉を寄せてセレーネを見る。傍から見ればイリステラがセレーネを睨んでいるようにも見える光景だった。
「お義姉様の目は、ぱっちりしてますけど、眉を寄せると怒っているようにも見えますよ」
「セ、セレーネちゃん……!」
ミュゼルは慌てるが、イリステラは目の周りを揉みほぐし始める。そして、ライルの方を見た。
「ライル様。私の目は怖いでしょうか?」
「時折睨んでいるようにも見えるが、イリステラがどういう人間かは知っているからな。俺は全く気にしていない」
「そうですか。ミュゼルは、人一倍怖がりだものね。少し気を付けるわ」
イリステラはそう言いながらミュゼルの頭を撫でる。そうしながら、セレーネを手招きした。子犬のように近づいたセレーネの頭も撫でる。
「正直なのは良いけれど、相手は選びなさい。人によっては傷つくわよ」
「お義姉様は、そんな感じじゃないと思いまして」
「…………本当にライル様の妹が疑わしくなる程似てないわね」
「そうですか? でも、私達はお姉様も含めて、全員あまり似てないかもです。ね、お兄様」
「まぁ、確かにな。セレーネは、気を遣わなくても良い相手と見ると、遠慮なく懐くからな。そういう点では俺ともテレサとも違うだろう」
セレーネ、テレサ、ライルは、似ている部分も確かにあるが、大部分は似ていない。研究者、魔術師、騎士として、それぞれが大成しているため、得意分野にも違いがある。
この辺りは、兄妹姉妹と言えど、絶対に似るとは限らなかった。
「そうなのですね。私もミュゼルとは大違いだから、人の事は言えないかもしれないわね。セレーネから見て、私はどう見えるのかしら?」
「う~ん……ひとまずお義姉様としか言えないですが。でも、さっきのミュゼルとのやり取りから、意地悪なお義姉様ではないと思います」
「そう。まぁ、良いわ」
イリステラは、セレーネの頭をもう一度撫でる。その耳はほんのりと赤く染まっていた。セレーネの率直な感想を聞いて、少し照れているためだった。
「セレーネ様。そろそろ」
長い事門の前で会話をしているので、マリアナがセレーネに耳打ちした。それを聞いて、セレーネも自分がいる場所を思い出した。
「それじゃあ、そろそろ中にどうぞ。お兄様が街並みをじっくり見てみたいって言ってたけど、まだそこまで見応えのあるような場所じゃないよ?」
「セレーネが作る街だからな。今後レッドグラスとも交易をするだろう? 必要なものを確認しておいた方が良いと思ってな」
「ふ~ん……まぁ、今は必要なものばかりだけどね」
セレーネはそう言いながら、ライルとイリステラをレッドブラッドに招き入れる。ライルとイリステラは、しっかりと整った道とある程度完成しつつある建物を見て、少し驚き、その奥にあるセレーネの屋敷の壁を見て更に驚いていた。
「自分の屋敷も壁で覆ったのか」
「執務も中でやるよ。それ用に屋敷も建てたからね。マリアナが、辺境として、防衛の面を考えた時に壁は建てた方が良いって」
「なるほどな。防衛面でも色々と考えられているようだ。後で見て回るか。しかし、かなり広いな」
「うん。向こうには工業区で、あっちには農業区があるよ」
「隣には学術都市だったか」
「うん。まだ建設も始まってないけど、同等規模か、もう少し大きくなる予定。生徒が沢山くるかもしれないから」
「まぁ、来るだろうな。セレーネの話は、騎士団でも聞いたからな」
「論文でも取り寄せてたの?」
「ああ。俺が置いておいた。セレーネの論文は難しいな」
「他の人は読めたのかな?」
「いや、全く理解出来なかったからな。全員で悩みに悩んで大笑いしていたぞ」
「分からないが限界に達すると笑いたくなるよね。私は嘆きながらカノンに突っ込むけど」
「カノンも大変だな」
「慣れていますので」
兄妹の話をしながら進んでいる後ろで、イリステラはユイやフェリシアとも話をしていた。
「ユイは変わらなさそうね。フェリシアは、結婚式で少し話したわね。ミュゼルとは仲良くやれているかしら?」
「はい。一緒に作業をする事もありますし、普段から会話もしていますので」
「あなた達が仲良くしているのは良いことね。こっちも母親同士の仲が良いからあまり拗れる事はないけれど、他の貴族の中には拗れているところもあるらしいわ」
「さすがに人ですからね。私達は学園やアカデミーで一緒だった事もあり、元々友人というのも大きいかと」
「確かに、年齢が近いのもあるかもしれないわね。常に若い女性に現を抜かす人もいるみたいよ」
「セレーネは特に気にしないですね。基本的に、周りは年上ですし」
「わ、私達も年上ですし……ね……」
「あなた達、これから永遠に生きるという事を失念しているわね」
イリステラの言葉に、フェリシア、ユイ、ミュゼルは顔を見合わせる。
「まぁ、あなた達も老いるわけじゃないから、あまり変わらないかもしれないわね」
イリステラが最後にそう付け加えた事で自分達がからかわれていたことに気付いた三人は何とも言えない表情になっていた。それを見て、イリステラは意地悪に微笑むのだった。




