突然の手紙
地下道の視察を終えた翌日。セレーネは、工場に設置するための機材の製造をしていた。生産スライムの調整により、工場機械の部品を正確に作り出す事が出来るようになっていた。そのため生産速度はかなり早くなっている。
そこに手紙を持ったフィアンナがやって来る。
「セレーネ様。作業中に申し訳ございません。こちらの執務室にセレーネ様宛のお手紙が入っておりましたので、お届けに参りました」
「ん? 手紙? 誰から?」
「クリムソン侯爵家からです」
「何だろう? お父様かな」
セレーネがキリの良いところまで作業をしている間に、カノンが手紙を受け取って封を切った。そして、手が空いたセレーネに手紙を渡す。
セレーネは手紙の内容を読んでいく。
「うわっ……聞いてよ、カノン。お兄様がいつの間にか結婚してた。つい最近結婚式もやったって。私を呼ばなかった理由が、私がかなり忙しそうになっていたからだって。そりゃあ、工場とかが完成しそうだから、かなり忙しいけどさ。結婚式くらい呼んで欲しいよね」
セレーネは少しむくれながらカノンに愚痴をこぼす。帰り損ねたフィアンナは、ここで聞いていても良いものなのかと葛藤していた。
「あっ、しかも新婚旅行に行くって。私達はまだ行ってないのに。まぁ、そんな暇は全くないんだけど」
「まだ何が起こるのか分かりませんから、長期間離れる事が厳しいので仕方ありませんね。どちらに行かれるのかはお伝えになっているのでしょうか?」
「ん? う~ん……あ、ここだって。観光名所なんてないのにね。えっ? 本当にここに来るの?」
セレーネは何度も手紙を読み直す。だが、どう読んでもカルンスタイン辺境伯領に来るというように書かれていた。
「えぇ~……本当にお兄様とイリステラ様がここに来るって。フィアンナ、マリアナを呼んできて。私も執務室に行くから」
「かしこまりました」
フィアンナがマリアナを呼びだしている間に、セレーネは生産スライムを収納して、準備を整えてから執務室へと向かう。スライムを片付ける必要があったため、先にマリアナとフィアンナが到着していた。
「フィアンナから事情は聞きました。ライル様がいらっしゃる日は決まっておられますか?」
「えっと、さすがにすぐには来ないみたい。三週間後くらい」
「準備は整えられそうですね。イリステラ様もいらっしゃるのですね?」
「うん。新婚旅行だから。ついでに、クリムソンの当主も継いだってさ」
セレーネがそう言うと、マリアナとフィアンナの表情が固まる。セレーネとしてはいずれはそうなると知っていたので、特に驚きはなかった。
ただし、マリアナとフィアンナが固まった原因は当主を継いだという点にはなかった。原因はその先にある。
「クリムソン家当主様がいらっしゃるとなると、色々と練らなければなりませんね……」
「え? 別に私の家族だし良いんじゃないの?」
「ご家族でもお相手は当主様ですので、それ相応の迎え方があるのです」
「でも、お兄様は、特に歓待とかは要らないって書いてるよ?」
「…………」
セレーネの言葉を受けて、マリアナがセレーネの傍に移動する。マリアナの意図を察したセレーネは、ライルからの手紙をマリアナに渡す。実際にその記述があったため、マリアナは難しい顔になる。
「そもそも第二王女様のイリステラ様がいるのは良いの?」
「王位継承権を放棄されており、現在はクリムソン家に嫁いだ形ですので、ライル様の肩書きが優先されます。ミュゼル様と同様です」
「ふ~ん……まぁ、お兄様の事は……うちのメイドって、私しかお世話してなくない?」
「はい」
「う~ん……まぁ、適当で良いか。お兄様とイリステラ様の部屋はちゃんと準備しておいて。食事は普段通りでいいや。今のうちでそこまで豪華な食事は無理でしょ?」
セレーネの確認にマリアナとフィアンナが顔を見合わせる。アイコンタクトで会話をしてから、マリアナが答える。
「今後の開発費なども考えて、大分厳しいかと。多少開発に遅れが出てもよろしければ可能です」
「それはお兄様も望まないだろうから、普通の食事でいいや。うちの中でもある程度豪華な感じにしておこう。後はミュゼルからイリステラ様の情報を得て、好物を用意する方向で。ただ問題は、来てもやることないよね?」
セレーネの確認に、マリアナとフィアンナだけでなくカノンも難しい表情になっていた。まだ開発途中の領地であるために、本当に観光名所などがない。
新婚旅行で来られても困るというのが現状だった。
「そもそもお兄様は何でうちに来るんだろう?」
「お手紙には書いてないのですか?」
「う~ん……特にないかな」
セレーネとマリアナが唸っていると、フィアンナがその答えを思い付く。
「久しぶりに妹と会いたいという事では?」
そう言われ、セレーネはきょとんとしていた。そして、その可能性を考え始める。
「…………結婚式で会ってるし、普段からそこまで会わない生活がずっと続いてたから、特にそういう事はない気がするけど……あっ! イリステラ様か!」
ライルとは特に年単位で会わなくても普段通りという印象があるため、セレーネとしては理由にはならないのではと考えていた。だが、ライルと一緒に来るイリステラに関しては、元々王城でミュゼルと会っていたために、妹に会いたいと思っているのではと結論付けた。
「じゃあ、ミュゼルと話せる機会を作るのが良いか……」
セレーネがその方向で考え始めると、フィアンナがカノンに近づいて小声で話す。
「ライル様とセレーネ様って、そこまで仲良しじゃない?」
「ううん。普通に仲良し兄妹だけど、そもそもライル様が忙しかった事やセレーネ様がレッドグラスにいた事もあって、会わない事が普通だったから、そこに思考がいかないみたい」
「そうなんだ。ちょっと心配しちゃった」
今のセレーネは通常運転であり、それでもライルと仲が悪いかとなると、決してそんな事はなく会えば仲良く会話をする。
二人の様子をフィアンナは見た事がないため少々心配になっていたのだ。
そんなこんなでセレーネ達は、ライル達の来訪に向けた準備も進めていく事になった。




