乾燥機の試用
一週間後。セレーネが作業をしている実験室にフェリシアがやって来た。
「セレーネ。頼まれていたものの試作品が出来たわよ」
「ん? ん~……あっ、乾燥」
「忘れていたのね……まぁ、良いわ。ひとまず問題点を書き出しておいたから読みなさい」
「は~い」
セレーネが問題点を読んでいる間に、フェリシアは実物を取り出す。セレーネは実物を見ると、目を丸くしていた。
「これ……普通の干すやつじゃない?」
「空間を作るよりも、これが一番適していると判断したのよ。ナタリアさんにもしっかりと確認しておいたわ」
「ふ~ん……洗濯物の判断を【思考演算】で行うから、量産がし辛い。普通の服を干しにくいから基本的にタオル用になりそうか……まぁ、確かに。それで考えたのが、ハンガーラックを同様の機構で作るって事ね。確かに空間を作るよりも他のものを乾燥させる危険性はなくなるか……これ薬草を干すのに使える?」
ピンチハンガーを見たセレーネは、ハサミ部分で薬草を摘まんで乾燥させられるのではと考えた。フェリシアは困った子を見るような目でセレーネを見る。
「普通に【空間倉庫】の乾燥室に入れなさい。そっちの方が崩れる心配もないでしょう」
【空間倉庫】には、湿気が適していない素材などを保管するための乾燥室が存在する。普段薬草などの乾燥をしているのもその乾燥室だ。
フェリシアの指摘に、セレーネは唇を尖らせる。
「あそこに入ると肌がカピカピになるんだよねぇ。かといって、ゴーレムに頼むとちゃんと回収出来るか分からないし」
「全く……後で調整してあげるわ」
「やった。フェリシア大好き」
「はいはい。取り敢えず、これをメイド達に使って貰う予定なのだけど、念のため家主のセレーネに許可を貰いたいわね」
「ん? 別にフェリシアの家でもあるし、気にしないで良いのに。どうせ、皆もフェリシアのお願いなら聞いてくれるわけだし」
メイド達は自分達が仕える主人に甘い。そして、その妻となった三人にも甘い。厳しいのは、食事の献立くらいなものだった。この辺りは好きなものばかりではなく、栄養バランスを考えた献立となっている。
「それじゃあ、皆に渡してくるわね」
「うん。ちゃんとレポートも頼んでね」
「分かったわ」
フェリシアは、マリアを連れて今日の洗濯を担当しているメイドの元に向かう。
「ちょっと良いかしら?」
「フェリシア様。如何されましたか? マリアさんから洗濯物をは受け取っていますが」
フェリシアが洗濯場に来た事で、メイドの一人はフェリシアが洗濯物を持って来たのかと考えた。
「忘れ物ではないわ。ちょっと試しに使ってみて欲しいものがあるのよ」
「はい。何か新しいものを開発されたのですね。フェリシア様という事は、スライムではありませんね」
「ええ。乾燥機よ」
「乾燥機?」
フェリシアが乾燥機と言って取り出したものが、ピンチハンガーとハンガーラックだったため、メイドも少し困惑していた。
「これに干すだけで、少しずつ水分が抜けていくわ。一応、理論上は天日干しと変わらない速度になるはずなのだけど、その辺りも含めて使用感を調べて貰えるかしら? 実際に洗濯をしているあなた達の方が気付ける事があるでしょう?」
「なるほど。では、一つだけ。乾燥機に関しては、下着などは少々使いにくいと思います。特にセレーネ様方の下着は高級品ですので、乾燥機の使用は生地を傷める原因にもなったりしてしまいます」
「なるほど。それなら適当な新品の下着を使ってどうなるか調べてみた方が良さそうね。そっちはそっちで調べてみてくれるかしら?」
自分で洗濯をした事がないフェリシアでは気付く事のない点だったため、フェリシアは納得したような頷く。ただし、フェリシアが作った魔術道具が、この通りになるかどうかは分からない。そこで、しっかりと下着も乾燥機で干してどうなるのかを調べて貰う事にした。
これに対して、メイドは笑顔で頷く。
「かしこまりました。レポートの提出頻度はどのくらいでしょうか?」
「出来れば毎日欲しいわね。翌日に前日のレポートを提出する形で頼むわ」
「かしこまりました」
そこからフェリシアが乾燥機の使い方を伝え、紙面でも渡す。これによりメイド達にフェリシアの魔術道具の試用中という事が共有される事になる。
「頼むわね」
「はい! お任せ下さい!」
洗濯担当のメイドは両拳を握って、やる気十分で返事をする。それを見たフェリシアは、マリアを連れて総合研究室の研究棟へと向かって行った。
残ったメイドは、フェリシアから受け取った紙をもう一度読んで使い方を復習してから、洗濯物を干していく。その中で、新品の自分の下着を使って下着を掛けた場合の変化も確認していく。
やるべき仕事が増えたのだが、フェリシアに頼られた事が嬉しいため終始ご機嫌だった。セレーネの屋敷で働いているメイド達は総じてそういう人材となっている。
翌日。フェリシアの元にレポートが届く。朝食後に、レポートを読んでいく。
「ひとまず使用感は問題なさそうね。下着の方も使えなくはなさそうという感じらしいわ」
「それはものによっては生地が傷むという事でしょうか?」
マリアの確認に、フェリシアは頷く。
「一応、自分の下着では問題なかったらしいわ。だから、今日は別の高級下着でやってみるらしいわよ」
「まぁ、メイドの下着は安物である事が多いですしね」
「マリアもそうなのかしら?」
「私はこれでも子爵の娘でしたので、そこそこ良いものを使っています。母から送られて来る事もありますので」
「そうなのね。結構良い給料を貰っているのだから、しっかりとしたものを買えば良いと思うのだけど」
「庶民感覚は抜けないものみたいですよ。カノンさんも比較的安めの方を手に取りがちみたいですし」
「普段お世話になっている分、メイド達に贈り物であげようかしら」
「何人かのメイドは葛藤するでしょうね……こんな高級なものを身に着けて良いのかと」
「気にしないでも良いと思うのだけど」
「あっ、そういうところセレーネっぽいですね」
「…………長く近くに居すぎて思考が移ったかしら」
フェリシアは、少しだけ顔を赤くしながらそう言う。セレーネと同じだという事が嫌なのではなく少し嬉しく感じているからこその反応だった。




