肥料魔術薬の研究
三週間後。年明けもセレーネは、変わらずに実験室に籠もっていた。
様々な薬草などを選び、成分を分析。その成分の配合などによって、どういう効果をもたらすものなのかを小型のプランナーなどで検証をしている。
現状は植物観察をしているような状態だった。今日はカノンとマリアが交代しており、マリアも横で植物を見ていた。
「う~ん……こっちの配合の方が良さそう。こっちはしおれてきてるもんね」
「どちらかというと、毒っぽくなっているのかもね。一応、植物の中で成分が変化していないか調べた方が良いと思うよ」
「そっか。じゃあ、葉っぱを千切って調べよっと」
まだ出て来たばかりの葉を容赦なく千切り、内部成分の分析を始める。出て来た成分を思考機に掛けて、元々の薬の成分などと比較。同一成分が含まれているのかどうかを調べるのと同時に、植物本来の成分の他に異常な成分が含まれていないかを確認する。
「特に問題はなし。そのまま取り込んでるみたい。しおれている方は、単純に植物に対して良いものじゃなかっただけかな。後は、これが抜けるかどうかだよね?」
「人体に毒ではないとしても、味とかに影響があるかもしれないし、下手したら他の食材の成分との組み合わせで毒に変じる可能性もあるからね」
「基本は希釈して少しずつ使う感じが良いのかな。もう少し検証が必要そう。こっちの研究は時間が掛かりそうだね」
「仕方ないよ。正真正銘生き物を相手にする研究だから。薬として用いたりする場合、魔術薬の研究はかなり時間を必要とするみたいだしね。それこそ、リーシア様みたいに真祖で長い時生きていないと精通するまでに至る人は少ないって話らしいよ。そもそも魔術薬自体がかなり難しい分野っていうのもあるけど」
「そういえば、そんな話も聞いた事がある気がする。普通は研究をどんどん引き継いで完成させるんだっけ?」
「そう。でも、これはどの分野でも同じ。大きな研究になればなるほど、一人で完成させられるとは限らない。研究に費やせる時間も限られている訳だしね。ここら辺は、私達との大きな違いかな」
無限の時間がある真祖にとって、時間が必要になる研究は特に普通の研究と変わらずに行う事が出来るものである。そのためこういった実験に関しても時間が掛かるという認識はあっても、普通にやりきる事が出来るものという風に考えてしまう。
だが、普通の寿命を持つ人間達からすれば、自分の代で完成させられるかどうかすら分からない事もある。魔術薬の研究となれば、それが当たり前とすら言われている。
魔術薬を研究する者が少ない原因は、この研究期間の長さにも原因があると言われていた。調合の難易度が高い事が大きな原因だというのは変わらないが。
「大変だねぇ」
「真祖様は呑気だねぇ」
この会話をしながら、セレーネは追加の実験として投与し続けた場合と投与をやめた場合の対照実験のために、魔術薬の調合の下処理を行い、マリアはそれを手伝っていた。
「そういえば、病気対策の方は?」
現在作っているのは肥料のみであるため、家畜の病気対策の魔術薬はどうしているのかマリアはふと気になった。
「う~ん……成分の分析に時間が掛かってる感じかな。割と毒の一種とかを微量使ったりするから」
「ああ、なるほどね。魔術薬にするってなると、毒が薬に早変わりとかもあり得るらしいしね。魔力を関連させるとここら辺に大きな変化があるから色々と予想しづらいよね」
「うん。毒が多すぎると、逆に毒が強くなるとかもあり得るから、その調整が難しいかな。まぁ、毒の分析が思考機で出来るから、そこは助かってるかな。現状分かってる毒の情報を全部入れたし」
「セレーネの研究が他の人よりも早く進む一番の理由が思考機だよね。普通の人は自分で分析結果を文献とかを参照して調べないといけないけど、その部分を自動でやってくれるわけだし」
「まぁ、そうだね。普通の人の研究ってあまり見ないなぁ。ナタリアの研究は?」
「ナタリアさんは……大分おかしいかな。あんな速読が出来る人はあまりいないし、情報処理能力が高いから、普通の人よりも分析が早い気がするかな。後は、理解力も高いから他人の研究の理解も早いでしょ?」
「まぁ、私の研究をすぐに理解してくれるしね。時々困惑してるけど」
「まぁ、セレーネはおかしいからね」
セレーネの頬が大きく膨らみ、マリアをジト目で見る。そんなセレーネの頬をマリアは左右から圧し込んで空気を吐き出させる。この辺りは幼馴染み故の遠慮のなさがある。
「それにしてもセレーネの発想力は、どこ由来なんだろうね」
「先生の授業とか研究室関連かな。基礎を調べる内に、色々な発展が気になるようになって、こうしたいああしたいが浮かぶようになった気がするし」
「まぁ、研究を始めたのが、中等部からだから、そこら辺での経験か。学術都市がセレーネの量産場みたいになったら、凄い事になりそうだね」
「う~ん……素材の競争になりそう」
「確かに……後、下手したら世界が崩壊するかも」
「どういう意味?」
「そのままだね」
「むぅ!」
むくれるセレーネのご機嫌取りに、マリアが頬を揉む。これがご機嫌取りになる辺り、セレーネがまだまだ子供であるというように見られる。
「セレーネは変わらないねぇ。赤ちゃんの時もこうしてあげると喜んでたよ」
「私もう大人なんだけど」
「大人っぽくはないかなぁ。根っこは変わらないって事だね」
「むぅ……」
セレーネとマリアのやり取りは本当に赤ちゃんの時の事を知っているからこそのやり取りだった。
遠慮のないマリアとのやり取りはセレーネにとって不快なものではなく、気が楽で楽しいものとなっていた。仮に尻尾があれば、不機嫌そうに見えていても尻尾が揺れていた事だろう。
セレーネとマリアは、そんなやり取りをしながら魔術薬の調合を続けていった。マリアがしっかりと時間配分などをしているので、休憩や食事なども挟んでいる。
一日掛けて肥料魔術薬を量産し、継続して投与し続けた結果どうなるのかの検証を始める事になる。この研究は長期間にわたって行われる事になる。




