ゴーレム貸与契約
屋敷に入り応接室に移動したところで、カノンがお茶を用意し部屋の外に出る。そこで会合が始まる。
「レッドブラッドの開発は順調に進んでいるようですね。他の区も同じような進み具合ですか?」
「いえ中央区の他はまだ壁の建設中です。あと少しで終わるようですが」
「なるほど。そちらが完成すると良いですね。あっ、そうです。工業区で扱う魔術道具の論文を読みましたよ。まだ全体発表はしていませんが、かなり良いものですね」
「ありがとうございます」
工場用の魔術機械に関しては、特に大きな問題はないため、論文にして提出していた。ナタリアも確認して問題がないと判断されている。そうしてヒナタの元まで来ていた。
「あちらは貸し出しをするのですか?」
「いえ、魔術機械に関しては貸し出しの予定はありません。まだ色々と決めないといけないこともありますので」
物が大きい事に加えて設置や魔術陣などの確認を正確に出来るのは、セレーネ、ナタリア、リーシア、ミーシャしかいない。この内、リーシアとミーシャは、身内としてセレーネを手伝っているのでこうした設置派遣などは行われない。
セレーネ本人が出るのもナタリアが留守にするのも現状では好ましくない。
更に言えば、整備面での懸念もある。しっかりとした整備をしていなければ、何が起こるかわからない。そのための整備のマニュアルなども出来ていない為にすぐに貸し出しをしようという予定はまだなかった。
「確かにどんなものも取り扱い方を間違えたら、危険ですからね。それにしても魔術機械。良い名前ですね。この大きさと機能では道具というより機械の方が適しています。これを機に多くの魔術機械が生まれて欲しいものですが……」
「【思考演算】が基本なので厳しいですね」
セレーネが作る自動で動くようなものは基本的に【思考演算】を中心に構築されている。そして、【思考演算】をまともに扱える研究者はごく僅かしかいない。
そのごく僅かな研究者は、全てカルンスタイン領に集まっている。
その研究者を増やすための場所が学術都市である。
「最近は魔術道具ばかり開発しているのね。セレーネちゃんの新しい魔術には期待しているのよ?」
「えっと……外には出せないものが多いので」
「危険なものなの?」
「直接的な戦闘魔術もありますが、どちらかというとこれまでの前提をぶち壊しにするようなものです。ナタリアからは、もう少し使用感などを確認してから、時を見て発表すると言われています」
「その時は事前に私に直通で書類を送るように伝えておいて。こっちでも発表時期を調整出来るから。内容によってはこっちでも保管してからになるかもしれないわ。セレーネちゃんの【空間接続】の魔術陣みたいな感じでね」
「あれって今も発表はされてないですよね?」
「そうね。【空間転移】はそもそも技術的にも難しさがあるからいいけど、【空間接続】は比較的簡単に使えるでしょう?」
「【空間転移】と比べたらその通りですね」
【空間接続】と【空間転移】は、効果自体は空間の跳躍である事は同じなものの難易度は【空間転移】の方が遙かに高い。そのため【空間転移】を扱う事が出来る者も極僅かに限られていた。
「まぁ、そもそもセレーネちゃんの研究は、あまり世間に出せないものが多いのよね。下手に活用されると大事故に繋がり兼ねないから」
「現状、そこまで大きな事故が起こった事はないですけど、その危険性は魔術道具も魔術もありますね。【空間倉庫】も下手すれば、中に閉じ込められる事になりますし」
「ゴーレムに関しても、今の安全性の確認が終わるまでは市販も何も出来ないでしょう? スライムに関しては消費者側の注意が必要になる点があるだけで、スライムの活動自体に危険性はあまりないという事で販売が決定したみたいだけど」
「それでも安全性を高めるために制限を加えたものはありましたね。セレーネさんが考えた温調スライムは、温度の上限と下限が人が火傷せず凍傷を負わない程度にしてあるでしょう?」
「そうですね。そこは、しっかりと配慮しました」
「ただ、この配慮をし過ぎると、そもそも物を売るというところまでいけなくなります。ある程度の危険性は許容し、消費者側の管理に任せるのが一番です。注意文にしっかりと記載しておけば、消費者側の責任になりますので」
これに関しては、セレーネは多くの人に言われており耳が痛かった。自分が責任を負いたくないというよりも、自分が開発したもので、事故を起こし被害を出したくないという考えが大きい。だが、これはある程度許容しなければ、物を売る事自体が難しくなる。
セレーネも直さなければならないところだと自覚しつつも、やはり皆に安全に活用して貰いたいという考えは抜けきらなかった。
「さて、最初の雑談はこのくらいにして、本題であるゴーレムに関して決めましょう。今回貸し出しをお願いするのは、倉庫整理用のゴーレムです。既に、カルンスタイン領で安全確認も済み、他の領への貸し出し及びセレーネさんから離れた場所でも安全に活動するかどうかの検証に移行するという形で宜しいですか?」
「はい。マリアナとも相談し、その形が一番体外的な説明としても適しているとなりました。マリアナ」
「はい」
セレーネに促されて、マリアナは今回のゴーレム貸与に関する書類をヒナタとヒルデブランドに差し出す。
「注意事項なども記載しておきました。こちらを良く読んだ上で、使用して頂けると幸いです。貸与する数は最大で五体。制限として、活動する場所を倉庫内のみにして貰います。この部分だけは厳守して頂きたい。ゴーレムの盗難があり得ますので」
マリアナの説明を受けながら、ヒナタとヒルデブランドは書類に目を通していく。そこに疑問点があれば質問する事になっていたが、マリアナが丁寧にまとめた書類に疑問点はなかった。寧ろ、疑問に思うであろう場所には、細かく補足がされている程だった。
「分かりました。この契約で受けます」
「私を良いわ」
「では、こちらが契約書です」
マリアナが出す契約書にヒナタとヒルデブランドは、即座にサインをする。
「そういえば、リンドの契約はどうするのかしら?」
ヒルデブランドは、この場にいないリンドの契約書はどうするのかと気になっていた。
「ルージュ閣下とは、先日王都にて契約を交わしました」
マリアナが様々な報告などをガンドルフにするため、王都を訪れた際にリンドとは契約を交わしていた。
そこで本格的な貸与はヒナタとヒルデブランドとの契約が済み次第という風に決められた。
「そう。まぁ、リンドは既に試用を手伝った事があるから話が早いのよね」
理由を察してヒルデブランドは納得した。ひとまずこれでゴーレム貸与の契約を結ぶ事ができた。この会合の一番の目的を果たした。




