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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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嬉しい来客

 翌日。実験室にてセレーネが生産スライムと一緒に耐火金属を調合していると、急な来客があった。だが、その来客はセレーネにとって嬉しさしかない客だった。


「セレーネ」

「あっ! リーシアちゃん! ミーシャちゃん! シローナちゃん!」


 ちょうど作業のキリが良かったため、セレーネは勢いよくリーシアに抱きつきに行った。リーシアはセレーネを難なく受け止めて頭を撫でる。

 結婚式の際に会っているが、こうしてセレーネが治めるカルンスタイン領に本格的に住むという事を実感して嬉しさが極まっていた。


「ラングリドから街の壁が出来上がったと聞きました。同時に私達の屋敷の建設も依頼したと。ですので、少し気が早いですが、こちらに来ました。しばらく屋敷に泊めてくれますか?」

「うん! 良いよ! カノン!」

「はい。お部屋の用意をします。リーシア様、申し訳ないのですが」

「セレーネの面倒は任せてください」

「ありがとうございます」


 リーシア達を全面的に信用しているため、カノンはリーシア達にセレーネの事を任せてメイド達に指示を出しに向かう。


「今は錬金術の研究ですか?」

「ううん。ただ素材を調合してただけ。これから大型の魔術道具を作るの。ちゃんと言うと魔術機械かな。えっとね」


 セレーネは、テンション高めに設計図を引っ張り出して、リーシア達に見せる。リーシアは興味深げに、ミーシャは少し驚きながら、シローナは楽しげに設計図を見ていた。


「こんな感じで工場に使う機械を作るの。大量生産ができるようにするのが目標だよ」

「なるほど。ゴーレムの制御を利用して精密な動きをより高い精度で実現しようということですか。なかなかに面白いですね」

「鋳造の熱に耐えられるように耐火金属を調合しているのですね。確かに今の素材の相場からすれば、自分で調合する方が多少安くなります」


 ミーシャも錬金術を扱うため、素材の相場などはしっかりと把握していた。その辺りをナタリアに全任せしているセレーネとは大違いである。


「このくらいなら私が採取してきてあげるのに」

「採取するのも時間が掛かるでしょう。個人的な研究ではなく街の発展に必要なのだから、なるべく早く用意しないといけないのですよ。現状材料は足りているのですか?」

「うん。試作品を作れるくらいには」

「それであれば、まだ必要になりますね。シローナ、十分な量を確保できますね?」

「うん。なるべく早い方が良いよね?」

「いえ、量産する際に必要になります。品質と量を重視して集めて戻ってきなさい」

「は〜い。それじゃあ、セレーネちゃん、またね」


 シローナは、力強くセレーネを抱きしめると、【空間転移】で素材の採取に向かった。急いで出て行ったシローナは、しっかりとカノンに採取に出るという報告はしていた。部屋を用意してくれるカノンに、無駄な仕事をさせないためだ。


「わぁ、シローナちゃんって相変わらずだね。ゆっくりしてから行けば良いのに」

「最近は家でゆっくりとしていたので反動で外に出たいのです。それにセレーネのためになる事ならなんでもやりたいのでしょう」

「ふ〜ん……まぁ、またゆっくりしてくれるよね」

「はい。採取が終わればゆっくりとするでしょう。ただ採取も数ヶ月程度で終わるので、すぐにまたどこかに採取しに行きたいと言うでしょう」


 シローナに関しては、実の母であるリーシアが一番理解している。シローナが何をしたいのか、何故したいのかも含めてだ。

 今回の場合、単純に外で身体を動かしたいという気持ちとセレーネがこの先困る事になりかねないという事もあり、セレーネのために動こうというのが大きかった。リーシアが指示を出さずとも自ら申し出ただろう。


「さて、一つ聞きたいのですが。錬金釜を使っていないのですか?」

「ん? うん。あっ! そうか。論文は発表してないもんね。錬金術を釜無しで出来るように調整したの。今使ってるのは、従来の法則を使った錬金術で、その法則を壊したもの作ったよ」


 セレーネの説明に、リーシアとミーシャは互いに顔を見合わせた。


「セレーネ様。それは錬金術の根本を変えたというように聞こえるのですが」

「うん。この子みたいな生産スライムを作るのに、法則を全てぶっ壊そうと思ったら出来ちゃった。結局この子を作るには法則が必要だったんだけどね。まぁ、新しい素材を作るための子も作ったから、暇になったら新しい素材を作って貰って分析しようかなって感じ」

「発想の飛躍が凄いですね。私達の世代は法則を作ってより正確性を上げるような研究ばかりでしたから、少々奇抜に思えますね」

「ふ~ん……リーシアちゃんの時代はそんな感じなんだ」


 リーシアが表に大々的に出て生きてきた時代が、それぞれの法則をしっかりと定めて安定化を図るような研究ばかりだった事もあって、セレーネのように法則を壊すという発想がなかった。

 その時代の考え方が完全に刷り込まれていたのだ。こうしてセレーネが法則を破りながら安定化させている事を知り、固定観念に囚われそうになっていた思考が打ち壊されるのを感じていた。


「多重魔術陣ですか。これもセレーネが開発したものでしたね。確かに安定して動作しているのであれば、この形の方がやりやすいでしょう。場所を選ばないというのも大きいです」

「そうですね。出先でも調合出来るのは助かりますね。こちらの耐火金属は、まだまだお作りになるのですか?」

「うん。色々と加工したりするから、余分に用意する事になってるの。加工ミスがあったりしたら困るからね」

「では、私も手伝いましょう。釜をお借りしますね」

「うん! ありがとう!」


 ミーシャは、セレーネの釜無し錬金術を扱える訳では無いので、通常の釜を使った錬金術でセレーネの手伝いを申し出た。

 人手が欲しいと思っていたので、セレーネも感謝して手伝って貰う。家族だと思っているリーシア達に対してそこまでの遠慮はしないのだ。

 セレーネは、ミーシャに手伝って貰いつつ、生産スライムと共に耐火金属の調合を続けていく。リーシアは、カノンとの約束通りセレーネを見守りながら、初めて見る生産スライムの動きを興味深げに観察していた。

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