ミュゼルとセレーネ
二週間掛けて五体のゴーレムを作ったセレーネは、ナタリアから送られてきた耐火金属用の素材から耐火金属の調合を行っていた。結局素材を大量に仕入れて、セレーネが調合する方が費用を節約できる事が分かったからだ。
そんな調合を続けているセレーネをミュゼルが撮影機で撮影していた。セレーネが作った映像撮影機能付きの撮影機を改良して、ある程度の小型化をしたものだった。
その機能試験とセレーネの姿を映像として保存したいというミュゼルの要望から許可を出していた。五分程撮影した後、その撮影した映像を【投影結界】を出す魔術道具にて確認する。
「色は問題なし……拡大機能も機能してる……これ以上は外付けレンスで調整できるようにして……動きの連続性も問題ない……映像の質も問題なし……」
ミュゼルは、自分でも気付かない内に確認事項を口に出していた。それを耳にしたセレーネはいてもたってもいられずに、ミュゼルの元まで向かう。
「どんな感じ?」
「あ、え、えっとね……一応、全部の確認事項は満たしているよ……」
ミュゼルはそう言いながら映像を最初から流す。それをセレーネも確認していく。
「ちゃんと私も実験室も分かるようになってるね。うん。良いと思う。ただ問題はブレかな」
「う、うん……か、確認事項にはなかったけど、これは私も気になったよ……撮影の仕方が悪いのかな……?」
「人が撮影している以上、ぴったりと止めるのは難しいと思うかな。これもこれで味とする事も出来なくはないけど……カノンはどう思う?」
セレーネは自分の後ろにいるカノンに意見を求める。セレーネの周りには忌憚のない意見を出せる者が多いため、こういう時は複数人から意見を求める事が多い。
「私も味にはなると思っています。誰かが撮影してくれているという思い出作りにも適してはいるかと。ただ、それと同時にしっかりと撮影して欲しいという風に思う方が出て来る事が予想されます」
「う~ん……万人が全員納得するようなものを作るのは不可能だから、ある程度は切り捨てるとして、なるべくならブレを軽減出来るようになると良いかな。このブレは写真にも影響するだろうから」
「しゃ、写真は一瞬だから……そ、その一瞬だけピタって止まれば良いしね……」
「うん。後は人が持たない事を前提とした何かを作るかな。撮影機が自立するような感じで」
「じゃ、じゃあ、撮影機を支える棒?」
「そうだね。棒の先に撮影機を固定して、下の方に自立出来る足を用意したら良いかな。一応、監視用の撮影機は天井に固定して高い位置から見下ろすように付ける事にしてるしね。そうしたら映像のブレがなくなるのは確認済みだから、それが一番良いと思う。
そういえば音楽の時に楽譜を押さえるようなものってなかったっけ?」
音楽に傾倒している訳では無いので、セレーネはこの辺りの知識がうろ覚えになっていた。
「譜面台の事ですか?」
「それだ。あれって、三つの脚で安定してたよね?」
「はい。科学的な実験でも三脚台という三脚で安定するものを使っています。安定という点で言えば、三脚あれば十分というところでしょう。ですが、問題が一点」
「問題?」
現状の話では、セレーネにとって問題となる事はなかった。安定するのであれば、三脚だけで十分だろうからだ。だが、その考えの中に撮影する場所は含まれていなかった。
「撮影する場所が必ずしも平坦であるとは限らないという事です」
「あっ! そうか……こういう床なら基本的には三脚を普通に出すだけで十分だけど、外になったら地形によって地面がボコボコしている事もあり得る。三脚の長さを調整できるようにする必要がある……それに加えて、調整した長さでしっかりと止まらないといけない。この辺りは結構難しいかもしれないね。何度も出し入れして、耐久性を確かめたりしないといけないし」
カノンが口にした問題から、その解決法まではすぐに思い付いたが、解決法にもある程度の問題がある事まで気が付いてしまった。
結局のところ、その辺りは割り切って壊れたら買い直すという事にするべきだという事はセレーネも分かっているのだが、出来る事なら長持ちさせたいというのが、研究者としてのセレーネの考えだった。
「セ、セレーネちゃんの【座標指定】は使えないかな……?」
「固定にって事?」
「う、うん……」
セレーネは【座標指定】を利用して物体をある位置で固定するという事が出来る。具体的な指標が必要になるため、地面からどの程度の位置かやレールからどの程度の位置かなどの地面やレールという固定する場所を指定するための何かが必要となる。
これを関節に活かしつつ制御出来るようにしたのが、ゴーレムの関節だ。ただし、これはゴーレムの中にある【思考演算】とその他様々な情報が必要不可欠となる。
なので、そこまで融通の利くような調整が出来るかは不明だった。
「あっ、カメラ自体に付けるんじゃなくて……べ、別の器具でカメラを固定する感じ……」
「つまり、地面に置いた何かが【座標指定】を持っていて、指定した位置にカメラを置く事で固定するって事?」
「う、うん……」
「う~ん……どちらにしても難しいかな。【座標指定】の指定する空間が固定なら出来なくはないけど、自由に動かせるようにするってなると、調整する人が大変だと思う。割と繊細だし、縦横を固定させて高さだけ調整出来るようにすれば……いや、それでも調整のために魔術陣を弄る必要があるかな。【投影結界】から操作を可能に……ううん。そもそも高さをどうやって表記すれば良いか分からないし、実際どこの空間を指定しているのか分かりにくい……それを分かり易くする? 【座標指定】をそのまま表示させれば、高さ自体は分かりやすいか……これならいける?」
難しいと言っておきながら、段々と理論を構築していく。だが、それでもセレーネにとって難しいという印象は変わらない。
「撮影機だけを対象としないとかなり危険なものになるなぁ。識別用の術式を入れる? それしか認識にないようにする。撮影機にこれ以上詰め込むのはなぁ。魔術的なものは便利だけど、確実なのは外付けかな」
「け、懸念するべきことが多いって事……?」
「うん。出来なくはないけど、撮影機に術式を入れて認識させる必要があるから。ここが機能しないと意味がないからね」
「じゃ、じゃあ、どっちでも良いように考えておくね……」
「うん。それが良いと思うよ」
セレーネのアドバイスを聞きながら、ミュゼルの撮影機調整は続く。




