自動化のための開発
マリアナが仕事に戻った後、セレーネは設計図を転写で三枚ずつ作ってから、一枚ずつまとめてナタリアに送る。これは論文の内容の一つなので、しっかりとナタリアに提出する必要があるのだ。
「これで良し。じゃあ、工業機械の自動化を考えようかな」
「スライムは良いの?」
今日の担当のマリアが、セレーネの執務机にお茶を置きながら尋ねる。
「まだ最適化が終わらないんだよね。大分難しい魔術陣にしたから、割と苦戦してるみたい」
「セレーネが納得出来る段階までいかないと駄目っていうのが大きそうだね」
「ふふん」
「威張るところじゃないでしょ」
マリアはお盆をセレーネの頭に当てながらそう言う。
「むぅ……」
セレーネは唇を尖らせながらお茶を飲む。
「まぁ、いいや。総合研究室の仕事だから、これもナタリアに報告する必要があるかな。マリア、連絡しておいて」
「マリアナさんが連絡するから、こっちに連絡が来ると思うけど? こっちから連絡したら、ナタリアさんも困惑する気がするよ?」
「大丈夫、大丈夫。マリアナがそこら辺を終えてから来ない訳がないから。ナタリアも承知してると思う」
「そう? じゃあ、連絡してくるね」
マリアがナタリアに総合研究室の仕事でセレーネが工業機械の自動化をする旨の連絡をしている間に、セレーネは工業系の本を【空間倉庫】から取り出して読み始める。詳しい機械の事が載っている訳では無いが、ある程度どういうものがあるのかは把握出来る。
セレーネが魔術道具を作る上で、参考にしようと購入したものだ。たいして参考にはしなかったが、こうして別の用途で参考にする事が出来る。
そんなセレーネの元にジト目のマリアが戻ってくる。
「ナタリアさんは承知してなかったよ。かなり驚いていたけど、この街の工場でのみ使うなら問題ないってさ」
「あっ、そっか。あの錬金術の魔術陣と同じような感じになりかねないから、そこら辺は気を付けないか」
「そういう事みたい。まぁ、錬金術の時よりも根本的な改変じゃないから、あまり気にしないでも良さそうだけどね」
「そっか。まぁ、そもそも【思考演算】のコアを取り付けるのとコアが制御出来るように調整するだけだから、そこまで大掛かりな変更はないんだけどね」
「その調整が大掛かりだと思うけどね。ナタリアさんが資料を送ってくれるらしいから、それを参考にしてって」
「資料って、工場に設置する機械の事?」
「うん。元々ナタリアさん手動で作る事になっていたらしいよ」
「へぇ~、ナタリアも困惑だっただろうね」
「その通り。全くもう……」
そんな話をしていると、扉がノックされる。素早くマリアが動き、扉を開けて相手を確認してから招き入れる。
「ユリーナさんがいらっしゃいました」
他の人の目があるために、マリアは丁寧な口調になって報告する。
「失礼します。こちらナタリアより工場で使用する機械の設計図及び資料です。ナタリアの設計なので、従来の機械とは異なる形などになっております」
「あ、そうなんだ。なるほどねぇ。うん。分かった」
「それとナタリアより言伝があります」
「ん?」
セレーネは、ナタリアからの苦言かと思い若干苦い顔をしながらユリーナを見る。
「これまで以上に細かく報告書を上げるようにして欲しいとの事です。工場での利用という事もありますので、ナタリアも内容を理解しておかなくてはいけないという理由です」
「ああ、なるほどね。了解」
「では、失礼します」
資料を渡したので、ユリーナはナタリアの元に戻っていった。
「……さすが、ナタリア。分かり易いし、整備がしやすいようになってる。機能的にも色々と応用が利きそうだし、このまま製作しても良さそう。ここにコアを取り付けるとなると……うん。いけそうかな。マリア、紙」
「はいはい」
マリアが大きな紙を用意し、そこにセレーネが設計図の内容を転写する。そして、転写した紙の方に書き込みをしていく。ナタリアの設計図は設計図で取っておく事にしたのだ。
「一応、設定を変えられるように【投影結界】による操作も含めるか。魔術陣自体は簡単だし、ナタリアの魔術陣に干渉はしない。この魔術陣綺麗だなぁ……新しい錬金術の魔術陣ももっと綺麗になって欲しいんだけどなぁ」
セレーネは、自分の魔術陣が綺麗にならない事に対してむくれながら、机に広げた設計図にコアの設置場所などを書き込んでいた。
(セレーネって、本当に魔術陣が好きだよね。基礎魔術を重点的に習ってから、綺麗に整った魔術陣が好きになったんだっけ。逆にそっちに拘り過ぎるようになったっていう問題があるけど。
まぁ、そのおかげで無詠唱魔術が使い安くなったり、多重魔術陣の形成がしやすくなっているんだけど)
マリアは、そんな事を思いながらセレーネを見守っていた。
実際、セレーネが綺麗な魔術陣に拘るのは、基礎魔術を重点的に習い、基礎化の作業を研究として行っていた事が大きかった。綺麗に整える事がその魔術の本質をしっかりと表す事が出来るというようにセレーネは認識している。
そして、魔術陣を整えれば、自分自身が使いやすくなるという点もセレーネが拘る理由の一つだった。
そうすれば、魔術道具にする際にも大きな問題が生じにくく、他の魔術と組み合わせやすくもなる。セレーネの研究において、それはかなり重要なものだ。
「うんうん。よし。この形が一番良いかな。必要な資材の追加発注を掛けて……この感じだと一、二週間で完成するかな」
「早いねぇ。それじゃあ、発注書をナタリアさんに渡してくるね。ここから出ないでよ?」
「は~い」
ナタリアの元に向かうマリアと入れ替わりで、ユイとメイが入って来た。
「マリアからセレーネを見張るように言われたのだけど、何かしたの?」
「何もやらかさないようにって事だと思うよ。何か仕事?」
「報告書を届けるついでに休憩よ。メイ、お茶をお願い。セレーネも休憩にしなさい。どうせ、根を詰めるでしょう?」
「だって、面白い研究は夢中になっちゃうし」
「だから、強制的に休みにするって事よ。愛しの妻のお願いよ」
「むぅ……ユイって、ちょっとズルいよね。そう言われたら断れないもん」
「何だかんだで甘いセレーネが好きよ」
「むぅ……」
若干むすっとしながら、セレーネはソファに座り、隣に座ったユイに寄り掛かった。ユイは、セレーネの頭を撫でながらゆったりと休憩する。
頭を撫でられているセレーネも嬉しそうにしながら、ゆったりと休憩していった。それは、ナタリアに発注書を届けたマリアが帰ってきても続いた。




