起動試験
それから一週間。セレーネは調整に調整を重ねるために騎士団に手伝って貰いながら、何度も組み立てと解体を繰り返した。騎士団は全く新しい訓練だと思いながら、力の限り手伝っていた。
一つも文句が出てこない理由は、セレーネが油まみれになりながら作業をしており、何度も組み立てて調整用にメモし、頭を悩ませている姿を見ているからだった。
作業の中心にセレーネがいる事が不満を抑える要因になっていた。
そして、今日は調整の最終段階であるコアの接続を行う。
「背中にコアを入れるのは、嬢ちゃんが管理しにくいんじゃねぇか?」
背中に乗ってハッチを開いているセレーネにベネットが意見する。馬型ゴーレムは、伏せた状態でセレーネの身長と同じくらいの高さをしている。そもそも大型のゴーレムという事もあって、かなりの大きさをしているのだ。
そんな馬型ゴーレムのコアは背中のハッチを開いて入れる方式になっている。
「上の方が落ちる可能性が低いから。下に入れてハッチが開いちゃって、コアが落ちるとかあったら危ないでしょ? 私がメンテナンスをするのに不便なところがあるだけだから、特に問題ないよ」
「そうか。カノンに支えられていなければ格好も付いたな」
ベネットの指摘通り、背中に乗っているセレーネの腰をカノンが手を伸ばして支えていた。セレーネがあまりにもフラフラしているので、カノンが心配した結果だ。
ベネットの指摘に、セレーネは頬を膨らませる。
「ベネット減給」
「んなっ!?」
「ベネット減給っと……」
「おい、マリアナ!? マジなのか!?」
「冗談だけど」
減給が冗談で済んだため、ベネットは安堵していた。結局のところ給料の使い道も大してないのだが。
「さてと、起動するから皆は離れててね」
セレーネの言葉に従い、騎士団達が遠巻きに見守る。セレーネの傍にはカノンしかいない。
それを確認したセレーネは、コアを中に入れて接続させていく。そして、馬型ゴーレムを起動するのと同時にカノンがセレーネを引っ張って抱き抱えながら、少し離れる。
暴走する確率は限りなく低いが、動き出した場合、立ち上がる事は確実だった。そうなるとセレーネを回収しにくくなるので、カノンが抱える事になったのだ。
馬型ゴーレムは、セレーネ達の見守る中で立ち上がる。
「姿勢維持は問題ないね」
ここまではセレーネも心配していなかった。そもそも二本足で立つゴーレムが出来ているのに、四本の足のゴーレムが立てないわけがないと考えていたからだ。
「お~い、ここまで歩いてきて」
セレーネの命令を聞いた馬型ゴーレムは、セレーネがいる方向を向いて、ゆっくりと歩いて来る。
「カノン、音から擦れている箇所は分かる?」
「関節などの接合部のみです」
「絶対に擦れる場所以外はなしか。異音は?」
「現状ありません」
「よし。全体確認」
『異常なし』
馬型ゴーレムから抑揚のない声が聞こえてくる。異常なしという言葉を聞いて、魔力の通りなども問題がないという事が分かる。
「後は魔力の消費量と走る速度と継続時間か。カノン乗るよ」
「大丈夫なのですか?」
「うん。一応上に乗る事は想定して作ってあるから」
カノンは、セレーネを抱えて馬型ゴーレムに跨がる。そして、自分の前にセレーネを座らせて、自分を背もたれにさせた。
「う~ん……クロだと割と乗れるのになぁ……」
「クロがバランスを取ってくれているのかと」
「ああ、なるほど」
クロと違い、馬型ゴーレムは乗っている対象を落とさないように調整する機能はない。そのため、カノンが支える事になる。
「よし。まずは外周を走る事にしよう。壁に沿って走って」
セレーネの命令に馬型ゴーレムが動き出す。馬型ゴーレムは馬のように駆け出した。それを見たベネットは自分も馬に乗って後を追う。何かがあった時に対処するためだ。
「ベネット! 速さはどう思う!?」
「全力じゃないなら、かなり速い方だ! だが、荷物を牽くことを考えれば、もう少し落ちると考えておいた方が良い!」
「なるほど……」
セレーネは、カノンに寄り掛かりながらクリップボードに挟んだメモ用紙に書き込んでいく。
「全体確認」
『関節負担許容範囲内。魔力消費量許容範囲内』
「それじゃあ、全力走行に移行。カノン、ちゃんと支えてね」
「はい」
セレーネの命令に従い、馬型ゴーレムが全力走行を始める。ベネットを引き離していく速度になっていく。そこで一つ問題が発生した。
「お尻が痛い」
「鞍を使っている訳でもなく金属の上ですので、仕方ないかと」
「う~ん……鞍の用意が必要になるかな。緊急時には荷物を切り離して乗る事も想定したいし。こっちは研究するとして、ベネットが遠ざかってるから、速度的には普通の馬よりも出てる。振動は想像通りかな。全体確認」
『動作不良無し。関節負担許容範囲内。魔力消費量許容範囲』
「取り敢えず、想定内かな。カノン、異音は?」
「ありません」
「よし。壁を一周したところで降りようか」
「はい」
セレーネ達は全員が待っている組み立てを行った場所まで来たところで馬型ゴーレムを止めて降りる。
「それじゃあ、全力走行で壁に沿って走り続けて、魔力が一割を切ったら止まる事」
セレーネが命令をして、馬型ゴーレムが再び駆け出す。それを見送って二分程すると、ベネットが戻ってくる。
「さすがに速いな。次は継続時間の試験か?」
「うん。お疲れ様」
セレーネは、ベネットを乗せていた馬を労う。馬は厩舎に連れて行かれた。それを見送ったベネットは、騎士団の面々に向き合う。
「よし! 俺達も外周を走るぞ!」
『えぇ!?』
「ゴーレムが止まったら、この位置から見えるところでしか分からないだろう。俺達が走っていれば、それに気付く事が出来る。必要な事だ。いくぞ」
ベネットが走り出すので、騎士団の面々も後を追わなければいけなくなり、騎士団達の持久走が始まった。セレーネはカノンが用意した椅子に座りサイドテーブルの上に置いたお茶を飲みながら、記録をしていく。
マリアナは、自分の仕事をするため執務用の屋敷に戻った。残っているのは、セレーネとカノンだけだ。
「う~ん……止まらないね」
「魔力結晶の容量は、かなり多くしていたのでは?」
「うん。大型だからね。馬車にも組み込んで、補助魔力にしようと思ってたんだけど、この分だと要らないのかな……」
セレーネの想定に反して、馬型ゴーレムの燃費は良すぎた。セレーネが調整に調整を重ねた結果、魔力の燃費がかなり良くなっていたのだ。これは予想外の事だったが、嬉しい誤算だった。
結局馬型ゴーレムは、一日駆け回っても止まる事はなかった。騎士団の方は五十周した頃から脱落者が出始め、ベネットも百周走ったところで自主的に止まった。
それ以上やれば、夜中中走り続ける事になるからだ。騎士団の夜間警戒の仕事をしている騎士がついでに見守るという事になり、夜中も走らせた結果が、一日走らせても問題が生じなかったというものだった。
これを受けて、セレーネは馬型ゴーレムの最終調整をしてから、馬車の試作に移る事にした。




