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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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法則に囚われない

 それから二週間が経過した。セレーネは、生産スライムと名付けたスライムの開発と馬車と一体化する馬型ゴーレムの開発に勤しんでいた。

 今日はマリアがセレーネの傍付きメイドをしている。


「セレーネ、カノンさんが設計案をまとめてくれたよ。十個くらいパターンがあるけど、結構細かいね」

「うん。部品がいっぱいあるからね。そもそも馬と馬車の二つを作るって感じだし」

「まぁ、そっか。こっちで確認しておく?」

「お願~い」

「は~い」


 セレーネは、まだ生産スライムに混ぜ込む魔術陣の構築を進めていた。課題となっている魔術薬などの品質向上を目指しているからだった。理論の時点で劣りすぎていると分かるものであるが故に、そこをどうにかして解決しようとしている。

 【高速演算】と【並列演算】を利用していくつもの魔術陣を空中に出して、全てを調整している。内容はほとんど同じでも細部が異なっており、それだけで魔術的な効果の高さが異なっていた。


(カノンさんの言うとおり、セレーネはかなり集中してるなぁ。時間魔術で、インターバルを設定出来るからと言っても、セレーネの体調が崩れないわけじゃないし、設計図を確認しつつセレーネの体調にも気を配らないと)


 時間魔術により、発動と停止のインターバルを設定する。これにより、【高速演算】と【並列演算】の使い過ぎによる嘔吐を防ぐ事ができる。

 だからといって、絶対に気分が悪くならないという訳でもない。そのためセレーネの体調には気を配る必要があるのだった。

 さらに言えば、インターバル中ではこの【高速演算】と【並列演算】なしに何十もの魔術陣を管理しなくてはならない。そうしなければ、管理できなかった魔術陣が消えてしまうからだ。

 セレーネは、それを完全に維持しながら、魔術陣の開発を進めている。さすがに構築の速度は目に見えて落ちるが、それでも、魔術陣の維持を問題なくやってのけるという点で、セレーネは才能の塊だった。

 マリアは、設計図を読んでいき、それぞれ何を特徴としているかをメモしていく。

 そんな風に時間が過ぎていく中で、セレーネが動きを止める。マリアはすぐにその事に気付いた。


「どうかしたの?」

「うん……違うと思ってさ」

「違う?」


 セレーネが何を言っているのか分からず、マリアは首を傾げる。


「うん。錬金術って何だと思う?」

「錬金術? 物質を掛け合わせて、全く新しいものを作り出す魔術でしょ?」

「うん。でも、ある程度法則があったりするって事になってるでしょ?」

「そうだね。調合が失敗するものもあるから、ある程度は法則があるって言われているね」

「そこ!」

「ん!? 何!?」


 唐突に大きな声を出したセレーネに驚いて、マリアは目を見開く。


「法則があるって言われてる。そもそもここら辺の法則は、勝手にあると思い込んでるものも多いんじゃないかな。本来錬金術はもっと自由なものだと思う。物質を掛け合わせて、全く別のものを作り出すって点で、かなり自由度が高いでしょ?」

「まぁ、そうだね」

「だから、そこら辺の法則も全て取っ払うような魔術陣に変えたらどうかな?」

「どうかなって……出来るの?」


 マリアには、それをどうすれば良いのかという事は分からない。そのため、セレーネに確認されてもそれが出来るかどうかすら分からなかった。


「分からないけど、錬金術の魔術陣の根幹にあるものをちょっと変えれば出来るはず」

「う~ん……新しい種類の魔術を作ろうとしているようにしか聞こえないけど……」


 根幹を変えるとなれば、それは錬金術の魔術陣を改造するどころではなく、新しく別の種類の魔術を作り出すという事に他ならない。

 そして、それはセレーネが長年やって来た事であり、セレーネにとっては当たり前の研究だった。それがどれだけ難しい事なのか、マリアも知っているために、本当にやるつもりなのかと思っていたのだ。


「うん。そういう事だよ。法則を崩しつつ、錬金術として安定させる。つまり錬金術の幅を広げるって事。これで私が求める品質の薬とかも作りやすくなる気がする」

「そうなのかなぁ……? まぁ、セレーネがそう思うならやってみたら良いと思う。でも、確認はするね。セレーネ、今ちゃんとした思考できてる?」


 マリアは、セレーネが情報処理魔術の使い過ぎで思考に影響が出ている可能性があるのではと疑っていた。そのくらいには突然の話だったからだ。


「ん? ああ、うん。別に【高速演算】とかのし過ぎで変な考えに至ったとかじゃないよ。どうやっても私が求める段階にまで品質を引き上げる事は出来ないから、色々と考えていたらこれが思いついたの」

「へぇ~……まぁ、セレーネが大丈夫なら良いけど。取り敢えず、少し休憩しな。はい、これ。設計図の特徴を書いておいたから、ちゃんと見ておいて」

「は~い」


 このタイミングを丁度良いと考えたマリアは、セレーネに情報処理魔術の使用をやめさせて、設計図の確認の時間にする。結局脳を使う事には変わりないが、情報処理魔術を使うのと使わないのでは大きな差がある。


「う~ん……中々良い設計案は出ないね」

「結構作りやすそうだけど?」

「その分壊れやすそうなんだよね。まぁ、いくつかは候補に入れて良いかな。これとこれ以外は没箱に入れておいて」

「了解。セレーネは理想が高いから、ここら辺で妥協はしないか」

「鳥型ゴーレムは、自分で設計も出来たから良かったんだけどさぁ。大型になるとさすがにねぇ」

「まぁ、難しいよね。それじゃあ、休憩がてらお茶にしようか」

「えぇ~……これで休憩じゃないの?」

「ずっと集中しててエネルギーが足りなくなってるでしょ? エネルギー補給って思いな」

「う~ん……まぁ、確かに。じゃあ、食堂に行こうか」

「うん」


 マリアは、セレーネを上手く誘導して休憩させる事に成功した。カノンの場合、セレーネを抱き上げて強制的に休憩を取らせるが、マリアの背丈では若干厳しいところがあるので、誘導していく事が一番だった。

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