鳥型ゴーレム飛行試験
壁の外に出たセレーネは、カノンに持って来てもらった鳥型ゴーレムを起動させる。起動した直後は、直立不動となる。その状態で、羽の固定位置などを確認していく。
「本体起動後も羽の位置にズレは無し。魔力の消費量も……問題はなさそうだね。魔力結晶内部に魔力の供給も問題なくされてるし、コアもしっかりと稼働してる。羽の魔術陣も問題ない。良し! ひとまず……思考機組み立てよう」
「起動するのは早かったですね」
簡易型の思考機を組み立てなければ、鳥型ゴーレムの情報を受け取る事が出来ないため、セレーネは【空間倉庫】からゴーレム一号に部品を運び出して貰い、組み立てていく。簡易型のため組み立てには時間は掛からない。
「これで良し。結局【投影結界】が正確に発動すれば良いだけだからね。起動試験もクリア。良し。じゃあ、今度こそやろうか。上空でこの壁の外周上を旋回して」
セレーネの指示を聞いた鳥型ゴーレムは、羽を広げる。そして、その足元から地上に向かって【風鎚】が発動し打ち上がっていく。そして、羽から【推進風】を発動する。
【推進風】は、一定の圧力で風を放出し続けるという魔術だ。これを羽から発し続けさせる事で、推進力を得て羽の形による揚力で飛び続ける。後は【思考演算】による演算で飛ぶのに最適な羽の角度を決めさせ、安定した飛行を可能とさせている。
今回の試験は、これらの一連の流れが滞りなく進み、飛行が可能かどうかという試験となる。セレーネはジッと鳥型ゴーレムを見て、クリップボードに挟んだ紙に記録をしていく。
「一応飛んでるね」
「はい。ですが、偵察とするには、やはり大きいですね。索敵範囲がどの程度かという問題もあります。思考機の方は如何でしょうか?」
「うん。ちゃんと情報は届いてるかな。映してみるね」
セレーネは思考機を操作して、鳥型ゴーレムから送られてくる情報を処理させる。そして、【投影結界】により鳥型ゴーレムが周辺を分析した結果を動く写真のようにして反映させる。
鳥型ゴーレムの頭には、周囲の景色を取り込み撮影機のように情報を刻む機構が付けられている。撮影の頻度が高いために動いているように見せる事が出来る。その分の情報の量が凄まじくなるが、全てを記録し続ける訳では無い。
【記録媒体】にはある程度記録されるが、基本的に十分で消去されるようになっている。その点を解決するべく、セレーネは思考機の方に工夫を凝らした。
新しい情報処理魔術【情報転写】。基本的には【記録媒体】に対してのみ効果を発揮するもの。【記録媒体】に刻まれた情報を他の【記録媒体】に転写する魔術だ。
これにより、記録した情報を思考機に搭載している他の【記録媒体】に転写する事が出来る。同期術式により、一つの【記録媒体】は常に情報の消去と記録が繰り返される。記録される度に転写する事で、消去されてもしっかりと情報を残す事が出来る。
「これから空からの地上かぁ……ちょっと粗いかな?」
「現在のゴーレムの距離を考えると、このくらいは仕方ないかと。こちらがお嬢様と私でしょうか。こちらは、訓練をしているベネット達……こちらはクロっぽいですね」
「ああ、今は皆と駆けっこで遊んでたみたいだし、そうかもね。う~ん……でも、これだと私達が先に分かっている前提だね」
「確かにそうなりますね」
「課題はこの鮮明化と拡大かな。そうしないと偵察にならない。索敵の正確性を向上させるなら、これが必須。偵察のためには必要不可欠だよね?」
「はい。あっ、執務用の屋敷から誰か出ましたね」
カノンは【投影結界】に映っている執務用の屋敷から小さな点が動いて出て来たのを見た。かなり小さなものになっているが、動いている状態であれば、セレーネでも辛うじて認識は出来た。
「ん? 本当だ。マリアナかな。う~ん……この状態だと本当に分かりにくいなぁ……ミュゼルは結局拡大の機能を外部機構に頼る事にしてたからなぁ。まぁ、思考機に入れるならある程度大きくなっても大丈夫か。その拡大に鮮明化を付ける形が良いかな。そうすれば、分かり易く出来るかも」
セレーネは、走り書きで新しい魔術のメモを取りつつ、鳥型ゴーレムの試験を続けていく。現状飛行は問題なく継続できている。落下する様子もない。これらの事から、セレーネは試験を飛行の継続時間に進める。
そこにマリアナがやって来た。マリアナは、上を見て鳥型ゴーレムを見る。
「セレーネ様。ご予定されていたゴーレムの試験ですか?」
「うん。鳥型ゴーレム。今は飛行の継続時間を調べてるところ。後、ゴーレムから送られるものはこっちね」
「これは……飛行はともかく、こちらの実用はまだ無理ですね」
マリアナは【投影結界】に映し出されるものを見て、まだ偵察などに使えないという結論に至った。それはセレーネも同意見なので頷く。
「うん。これから思考機の方に、それを解決する機構を付けるつもり。まだ出来るか分からないんだけどね。それが解決したら、実用化まで進むと……あっ……」
セレーネの視線の先。飛んでいる鳥型ゴーレムに鳥の魔物が群がってくるのが見えた。そして、そのまま鳥型ゴーレムが砕かれる姿も見えてしまった。
「あぁ……そもそも対人の前に魔物の脅威のための耐久か……【装甲結界】は必須かぁ。最適化を進めるとして、小さなコアを搭載して【装甲結界】を付けるか……う~ん……小型化は難しそう」
「その辺りは、ある程度妥協するしかないでしょう。現状でもゴーレムだとは思いませんでしたから、初めて見るものでしたらある程度問題はないかと」
「最初はね。取り敢えず、小型化を最終目標として、最初は鮮明化かな。それで良いよね?」
「はい。ひとまずは、これを論文にして発表するのは、まだ先にしましょう」
「うん。秘匿するべき情報って事だよね」
「はい。では、私はここで失礼します」
「うん。カノン、回収に行くよ」
「はい」
マリアナは仕事に戻り、セレーネとカノンは、思考機を仕舞ってから落ちた鳥型ゴーレムを回収しに向かった。ここからは実用化に向けて、様々な調整と開発の作業に移っていく。地道な作業になるが、今後あれば便利なものとなるため、セレーネもやる気は十分にあった。




