調査魔術道具の見本
応接室での会合を終えたところで、ヒナタ、ヒルデブランドが泊まる部屋の案内を行った。その後、時間が多分に残されているため、思考機を使った調査のやり方を紹介する事になった。
その部屋では、ミュゼルが作業をしているところだったため、ヒナタとヒルデブランドは即座に跪いた。
「ミュゼル殿下、お久しぶりにございます。ご壮健で何よりです」
「ひ、久しぶり……えっと……」
まさかこの部屋に来るとは思っていなかったミュゼルはおろおろとしながらセレーネを見る。
「ヒナタ様とヒルデ様は泊まる事になったの。それで、後日お二人の領地に貸し出す調査用魔術道具の使い方とかを見せるって話になったんだ」
「そ、そうなんだ……えっと……私はどうすれば良いの……?」
「普通に作業しておいて良いよ」
そう言われたミュゼルは、人に見られながらの作業という事で緊張しながら操作をしていく。
その姿越しにヒナタとヒルデブランドは、思考機を見ていて一つ気付いた事があった。
「陛下のところにある思考機とは形が違うわね」
「はい。調査をする関係上、コアを複数使って処理、分析、比較、印刷が出来るようにしています。思考機ではありますが、色々な機能を追加しているという形です。作業の仕方としては、受け取った情報を処理し、日付別、場所別に分類、比較出来るように表にして印刷するという形です。
ミュゼルが今している作業ですね。印刷した内容に含まれる前回分の分析結果が前回印刷した内容と合っているかの確認をして、同じ土地で分析したものと確定します。そうして、大きな変化がない限りは一週間に一回報告書として、私の元に上げるという形になります。
この方式は私のところでのものなので、報告頻度をどうするかはヒナタ様とヒルデ様で決められると良いかと」
セレーネの説明を聞きながら、ミュゼルの作業を見ていたヒナタとヒルデブランドは、作業自体に難しい点はないという事を確認した。
この作業での問題点は一つのみ。人の手が入る作業における人為的ミスだ。確認作業において、数値のズレ等をしっかりと確認して、異常が起きているのが現場なのか思考機なのかを見定めなければいけないのだ。
思考機の場合は、設定の見直しなどをしていけば直せる可能性が高い。現場でのズレであれば、それはただ単純に雨量が増えたという事になる。
「思考機が壊れているかどうかは、どうやったら分かるのかしら?」
仮に思考機に異常が生じているとして、それをどうやって確認するのかという事をヒルデブランドが確認する。
「思考機に組み込まれている自己点検機能を使います。ミュゼル」
「う、うん。思考機全体確認」
音声認識により、思考機が内部状態の点検を始める。今回は何も異常がないため、【投影結界】に異常なしの文字が現れる。
「異常があれば、どの部分に異常があるのかが表示されます。これが自己点検機能です。これらは紐付いている全ての調査用魔術道具にも組み込まれており、それらは思考機で統率されています。なので、こちらから異常がないかの確認をする事も出来ます。ミュゼル達は、週に一から二回程確認をしてくれているそうです。現状異常があった事はなく、全てから問題なく情報が送られてきています」
「なるほどね。思ったよりも複雑な機構をしていそうだわ」
「そうですね。精巧な魔術道具という話でしたが、本当に少しのズレでもあれば機能しないという事もあり得そうですね。その辺りはどうなのでしょうか?」
思考機を壊してしまう可能性が高くなるため、ヒナタは許容される範囲を知るための質問をする。
「基本的に完全固定されるので、意図的に一部を破損させるという事がなければ機能します。そもそも本体はコアであって、下の箱は情報の保管庫でしかありませんので、コアを壊さない限りは自己点検機能も損なわれません。情報保管庫も現状で百年分くらいは保存できるようになっています」
「なるほど。デメリットが大きいと思っていましたが、丁寧に扱えばデメリットはないも同然ですね」
「一応、出て来る情報の形式はこのようになっています」
セレーネは見せても問題ない資料のファイルを取り出して、ヒナタとヒルデブランドに手渡す。二人はその内容をしっかりと読んでいく。
「なるほど。これは分かり易いわね。こうして場所ごとに並べられていると比較もしやすいわ」
「前日比があるというのも大きいですね。雨が継続して降り続いており、勢いが増しているのか弱まっているのかが判別できます。これをこちらの領地でも利用する事で、普及させる際の力になれるでしょう」
「ああ、なるほど。証言してくれる人達が増えれば、その分受け入れられやすくなるって事ですね。マリアナもそれを狙っているって事ですね」
「あまり期待はしていないみたいね。まぁ、うちの領地に来た時に思考機を見る機会はないだろうから、そうなってもおかしくはないかもしれないけれど」
「確かにそうですね。私達の証言だけでどこまで信用されるかは分かりませんので必ずしも繋がってくるとは限りません。ですが、可能性が上がるのは確かです」
「確かに実物を見せていないとそうなりますよね」
これにはセレーネも納得した。スノーホワイト公爵領及びグリーン公爵領でも利用されたという情報である程度は信頼を勝ち取れる可能性があるが、絶対ではない。疑い深い人間であれば、ただの隣領のよしみでしかないだろうと信用しない可能性はあった。
「恐らく、次のルージュ公爵領との会合の時に、この貸し出しの提案をしてくるでしょうね。私達の領との契約が出来た以上、ルージュ公爵領も同じように契約出来ると踏んでいるはずよ」
「ユイがうちにいるから、ルージュ公爵領の方が契約しやすい気がしますが」
「ユイちゃんがいるという事が、そのままセレーネちゃんの信頼になるとは限らないのよ。リンドが信頼していても、その街を治めている人が信頼するとは限らないとも言えるわ」
「マリアナも慎重に交渉してたみたいですし、次からは大胆にいくという事ですかね。まぁ、喧嘩にならないようにしてくれたら良いですが」
「上がセレーネちゃんだと、マリアナもやりやすいわね」
そこからは屋敷周辺の案内などをして、フェリシア、ユイ、ミュゼルを交えて会食をしてから、それぞれの部屋に戻って就寝した。翌日の昼前には、ヒナタとヒルデブランドは王都へと帰っていった。




