続々・ヒナタ、ヒルデブランドと会合
裏での交渉が終わりを迎え、それぞれにその結果が書かれた紙が手渡される。マリアナは残り、他の交渉人は魔動車に乗りルージュ公爵領へと帰って行った。ヒナタとヒルデブランドは、セレーネの屋敷に泊まる事になっている。
内容自体はある程度把握したため、ヒナタとヒルデブランドは交渉内容に了承している。そのために領地に戻って準備を進めるように指示を出したのだった。
「ヒルデ様の領地とは薬草とかの植物類、ヒナタ様の領地とは鉱石や石材の取引になるんだ?」
「はい。最初は、セレーネ様が利用される分だけの取引になりますが、学術都市が出来上がれば、その中で使う素材を取引する事になります。そこそこ大口の取引になっていきます」
「そっか。こっちからはスライムとかの魔術道具の貸し出しってなってるけど、これは?」
「結界発生装置や調査用魔術道具の貸し出しが主なものになっています。なので、定期的にこちらにお金を支払って貰う事で魔術道具を貸すという事になります。破損した場合や故障した場合は、弁償して貰うという形ですね」
まだ売り出す程の量産性がないために、基本的には貸し出しで行うという事に決定した。貸し出しであるが故に、そもそもの所有権はセレーネにあり、それを破損すれば弁償してもらうというのは、当然のことだった。
スノーホワイト公爵領とグリーン公爵領にて、その運びになったため、ルージュ公爵領とも同じような契約を結ぶ事が出来るだろうとマリアナは考えていた。
売ってしまうよりも定期的に金を出して貰う方が、継続的に収入を得られるという面でカルンスタイン辺境伯領に大きなメリットがあった。まだ出来たての領地をしっかりと運営していくために必要な金を集めるために、マリアナは強気の交渉に出ていたのだが、あっさりと了承された事もあり、若干拍子抜けの気分でいた。
「それで良かったんですか? 長い目で見たら、こっちの方が支出が増えると思いますが」
「はい。構いません。寧ろ、こちら側にもメリットがあります」
「初期導入費を抑えられるのよ。それに言ってしまえばお試しのような状態でもあるわ。実際にこの機能を知っているのは、セレーネちゃんやこの領地で暮らしているマリアナ達くらいでしょう? 私達はセレーネちゃんを信じられるけれど、私達の領地の人間はそうとは限らないわ。一緒に来た外交官もそう。だから、この条件でも合意したのよ。ほとんど打ち切り前提での契約ね」
「なるほど」
これにはセレーネも納得していた。自分が目の前で使っているために、マリアナ達はすんなりと受け入れる事が出来ている。しかし、それが動作している姿を見ていない者からすれば、内容だけでは半信半疑になってしまう。
そのため、マリアナにとっては強気な提案でもあっさりと了承するに至っていた。
「カルンスタイン領を支援するという意味合いでも、この契約は私達にとって都合が良かったのです。ところで、この場でするのもどうかと思いましたが、この話ついでにマリアナさんにご確認したい事があります」
「はい。どのような内容でしょうか?」
セレーネはヒナタが確認したい内容に心当たりがあったので、マリアナの返事に集中する。
「先程セレーネさんにもお願いしたのですが、私達の執務室に思考機の設置をさせて頂けないかと思いまして」
「思考機を……ですか。それは、調査内容を受信したいという事ではなく資料整理などの道具としてという認識でお間違いないでしょうか?」
「はい。その機能が非常に魅力的ですので、セレーネさんに要求してみたのですが、マリアナさんとの相談後に返事をするという事になりましたので」
「なるほど」
マリアナは、セレーネの方を見て視線だけで確認する。それに対して、セレーネは頷いた。
(お知り合いだから譲るというようにしなかったのは良い判断ですね。それにしても思考機の寄贈……いや、購入と考えて話を進めるべきか。分析用に調整する貸し出し用の思考機とは異なり、情報を収集して整理する事に特化した形にすれば良いか。
そもそも調査内容を直接分析するには、同期術式を入れた【記録媒体】の設置が必要になる。流用される事を心配する必要はないか。仮に分解したとしても、構造はともかく魔術結晶の内容を構築する事は難しい。勝手に分析されて、あちらの商品にされる事は警戒しないでも大丈夫かな。
ここを警戒するなら、いっその事、こちらも貸し出しという形にしてしまえば良いか。そんなに欲しいなら、それでも納得して頂けるはず)
マリアナは、思考機を売る事に対して、内心警戒を示していたが、仮に分解されたとしても内容を理解するのにどれだけの技術者や研究者が必要になるかと考えて問題ないだろうという判断を下した。
「そうですね。では、こちらも貸し出しという形で構いませんでしょうか?」
「はい。私は構いません。ただ返却となった際に、中に登録する業務内容だけは、処分して構わないでしょうか? 外部に漏れる事を避けたい内容もありますので」
「いかが致しますか?」
「良いと思う」
「では、その方向で。グリーン閣下は如何でしょうか?」
「ヒナタと同じ契約で良いわ」
「かしこまりました。契約書を作成して参ります。金額の方は、その際にご説明します。では、一度離席させていただきます」
「はい。ありがとうございます」
マリアナは、ヒナタとヒルデブランドに一礼してから応接室を出た。自室として扱っている客室にて契約書を作成するためだ。再び三人だけの空間となる。
「良かったんですか? 貸し出しという形だと割と制限も付いてしまうかもしれませんし、お金をずっと払う事になりますよ?」
「はい。それだけの技術の結晶ではありますので妥当だと思います」
「確かに若干面倒くさい点があるけれど、あの子の妥協ラインがそこだったのよ。私達が購入したと聞いたら、どんどんと注文が押し寄せてくる可能性もあるしね。貸し出しという形にすれば、二の足を踏む人が増えるわ。理由は、破損した場合の弁償が大きそうだから」
「まぁ、そう簡単に壊れないと思いますが、中に入っている魔術結晶が割れたら設置し直すのが面倒くさいですしね」
大量生産が出来ない現状であれば、こうして近しい人に貸し出すという形が良いというのが、全員の考えだった。こうして使っているところを見れば宣伝効果も出せる。特に、王城勤務の大臣達への宣伝は大きくなる。
そのまま少し話している間に、契約書を作成してきたマリアナが、二人に金額などの説明をしていく。セレーネは、割とふっかけ気味なのではと思ったが、ヒナタとヒルデブランドは、セレーネの技術力などに対するものと考えて納得していた。
その代わり、隣領のよしみとして保湿スライムを贈る事になった。これはセレーネから提案し、マリアナも承諾した内容だった。保湿スライムを受け取った二人は、その有用性を知り、とても有り難がった。段々と乾燥が気になる歳になっていたためというのが大きかった。




