ヒナタ、ヒルデブランドと会合
三週間後。隣領の領主であるヒナタとヒルデブランドが、会合のためにセレーネの屋敷を訪れた。ある程度時間を聞いていたので、セレーネは屋敷の手前で待機していた。
ヒナタとヒルデブランドは、二人とも魔動車で敷地内に入ってくる。そして、屋敷の前に魔動車が停まると、二人が降りてくる。
セレーネは頭を下げる。それに合わせて、カノン、マリアナも頭を下げた。
「遠路はるばるお越し頂きありがとうございます。何もないところですが、ごゆっくりして頂けると幸いです」
「こちらこそ、会合の場として屋敷の一室を提供して下さりありがとうございます。隣領として、良き関係を構築出来る事を願います」
ヒナタが代表して返事をし、セレーネ達は屋敷の中にある応接室に入る。中に残るのは、セレーネ、ヒナタ、ヒルデブランドの三人だ。マリアナは、ヒナタとヒルデブランドが連れてきた外交官との交渉をしている。今後の物資のやり取りや港の借り受けなどを話し合う予定だった。
カノンは、お茶の配膳などをした後、部屋の入口前で待機する。
いつでもセレーネの呼び出しに応えられるようにするためだ。
「さてと、周囲の目もなくなった事だから、普通に話すわね」
ヒルデブランドは、身体を伸ばしながらそう言う。それに対して、ヒナタは、小さく溜息をつく。
「ごめんなさい。ヒルデは、あまり堅苦しい事が嫌いで、気を抜いて良い場と判断するとこうなってしまうのです」
「なるほど。全然構いませんよ。気楽にやれるのが一番だと思いますので」
「ありがとうございます」
セレーネとしても堅苦しい場というのは好きではない。なので、ヒルデブランドの考えをよく理解できていた。
「それでは改めまして、スノーホワイト公爵家当主のヒナタ・スノーホワイトです。この度、領の統合により隣領となりました。基本的に交流があるのは、隣街の方だと思いますので、直接的な交流は少ないと思いますが、領全体の代表者は私ですので、何かご要望があればご連絡ください」
「私はヒルデブランド・グリーン。グリーン公爵家当主よ。ヒルデと呼んで。基本的には王都の方にいるから、直接的な交流はないだろうけど、カルンスタイン領にはよくするように伝えてあるから、こちらも頼ってくれて構わないわ」
「あ、えっと、セレーネ・カルンスタイン・クリムソンです。カルンスタイン辺境伯家当主です。若輩者ですがよろしくお願いします」
改めての自己紹介を終えた三人は、本題へと移っていく。基本的な交渉は、現在裏で行われているため、ここでするのは本当に交流だけだ。
「お二人の領は、前よりも大きくなる事になりましたが、問題はないのですか?」
セレーネが気になったのは、カルンスタイン領よりも大きくなっている二人の領の管理だった。現状、まだ街も出来ていないカルンスタイン領は、聖域のみが管理に困るだけで特に大きな問題は無かった。
なので、これから起こるであろう問題を先輩である二人から聞いておこうと考えていた。
「街の管理などは基本的に任せていますので、特に問題はありませんね」
「私も同じよ。大臣という立場から、あまり王都を離れる事が出来ないのよ。だから、基本的には部下か子供に任せているわ。時折戻る事はあるけれどね」
「なるほど。王都の王城勤務になると、中々帰るのは難しいですしね。お父様も同じ理由で基本的に王都にいました。でも、全体の把握が難しくなりませんか?」
「その辺りは慣れですね。王城での無数の仕事に追われ続けていれば、その辺りの処理は出来るようになります。セレーネさんも段々と忙しくなっていきますが、その仕事を処理する内に余裕が生まれていくと思います」
「確かに、最近は段々と余裕が生まれているかもしれないです。街が出来れば、また忙しくなりますが、また研究出来るようになりそうですね」
「はい。その通りです」
ヒナタから保証されると、セレーネも少し安堵していた。
「そういえば、この領には聖域があったわね。管理という面では、私達の領とは違う種類の仕事が増えそうだけれど、問題はない?」
「はい。一応、陛下に報告書は渡していますが、皆さんの元には降りて来ていない感じですか?」
「そうですね。内容で言えば、管理に支障はないくらいです。なので、詳しくは分からないのです」
「そうなんですね。ヒナタ様の領地は聖域側にありますから、ある程度は共有しておいた方が良さそうですね。簡単に言いますと、ユニコーンが実在し、あの森で暮らしています。なので、ユニコーンが暮らしていけるように、環境の乱れなどを察知するための継続的な調査を行っています。それと聖域内への侵入を拒むために資格を持つ者以外が入れないように結界を張っています。そちらの管理も私がやっている形です」
セレーネは聖域内の洞窟にある骨の件と浄化についてだけはぼかして、情報を提供する。ヒルデブランドも聞く事になるが、隣領という事もあり、念のため話しておいた方が良いだろうと判断し構わずに告げた。
ユニコーンの実在という大きな情報にヒナタもヒルデブランドも驚愕する。ある程度話は聞いているが、基本的に御伽噺の産物や箔を付けるためのものだろうと考えていたためだ。
「そのユニコーンは、私達も会えるのかしら?」
「無理です。結局マリアナも会えないので。今のところ、会う事が出来るのは、私と聖女であるスピカ。見る事が出来たのは、カノンという感じです。恐らくは、魔力の量が関係しているのではないかと考えています。それも真祖や眷属のような多さです」
「それだとエルフの中でも一握りになりそうね。その調査道具と結界の装置は売り出すのかしら?」
「それは私も気になります」
ヒルデブランドは魔術道具などに使われている魔術陣に、ヒナタは魔術道具そのものに興味を持っていた。
「一応、ナタリアに論文は預けていますが、まだ発表はしていないですね。そもそも思考機前提の道具ですので」
「思考機……陛下が扱っているところを見ましたが、あれは事務作業において便利なものでした。私のところにも配置して欲しいくらいです」
「私も同じね。資料を即座に調べる事が出来るのは本当に助かるわ」
ヒナタとヒルデブランドの期待が籠もった目がセレーネに注がれる。それに対して、セレーネは苦笑いしてしまう。
「う~ん……マリアナと相談しますね」
「安易に口約束しない辺り、領主としての自覚があるのかしら?」
「そうですね。では、また今度交渉する事にします。あれは純粋に欲しいですから」
ヒナタもヒルデブランドも自らの事務仕事を楽にするために思考機の導入を望んでいた。セレーネも研究などに利用しているため、その気持ちは分かっていたが、安易に渡すよりもマリアナと話し合ってどうするか決める方が良いという考えだった。




