マリアナの帰還
その四日後。マリアナが屋敷に戻ってきた。セレーネは執務室でマリアナを迎えた。
「おかえり」
「ただいま戻りました。早速ですが、報告をさせて頂きます」
マリアナは、紙束をセレーネに渡す。受け取ったセレーネは、紙束を読みながらマリアナからの報告を受ける。
「まず物資のやり取りに関しては、事前に渡した資料の通りに進める予定です。スライムは掃除スライム、洗浄スライムになりました。月の桜桃より送り出すという形で良いでしょうか?」
「うん。スライムを取り扱ってるのは、月の桜桃だからね。大元は私になるけど。カノン、リーナに話を通しておいて。必要数は?」
「資料に」
セレーネは受け取った紙束の中から、スライムに関するものを探して読んでいく。その中で数と利用する場所をメモすると、カノンに渡した。スライムの在庫管理は、セレーネもやっているが、基本的にリーナがやっている。それは月の桜桃の店長であるからだ。
先に在庫確保を行うために、カノンはリーナの元にメモを届けに行った。
「ゴーレムに関してですが、今回は見送りとなりました。まだゴーレムに対する忌避感が強いようです。スライムに関しては、王都で流行っている事が、こちらまで届いているようで受け入れ準備が出来ているようでした」
「ふ~ん……なるほどね。ゴーレムの安全性をしっかりと確かめて表に出す必要がありそうだね。新しいゴーレムも作りたいし。取り敢えず、ゴーレムに関してはもう少し頑張る事にしよう」
スライムは、しっかりと王都で売り出していたために、所有者が自身の親戚に情報を広めていった。その流れが辺境に近いルージュ公爵領にも来ていた。
ゴーレムは、論文で安全性は出しているものの実際に安全確認をしていた試験は、諸々の事件が起こり途中で終える事になった。
問題が起こった際に即座に自分が駆けつけられるような環境であれば良かったが、カルンスタイン領にいる現在では無理があった。問題が起こったという情報が来ないからだ。
(ゴーレムに関しては仕方ない。街がある程度完成したら、この試験も出来るだろうし、そうしたら王城に送る分も作らないと。送るなら最新型が良いと思うし)
セレーネは、ゴーレムに関する事に納得した。それと同時に要求されたスライムに関して少し思うところが出来た。
「そういえば、スライムは公爵家別邸で使う分だけで良いの? 保湿スライムとかは、領民の皆は保湿スライムを欲しがったりするんじゃない?」
「はい。ですが、売り出す場所がありません。掃除スライムと洗浄スライムに関しては、ルージュ公爵閣下より依頼されたものです」
「リンド様が来ていたの?」
「はい。話し合いに同席されていました。王都での仕事があり、すぐにお帰りになりましたが。セレーネ様とユイ様によろしくと仰っていました」
「そっか」
セレーネは話し合いにリンドが来ているという事を知らなかった。ただし、これに関してはマリアナも知らなかった事であり、仕事で偶々領に来ていたリンドが同席したという形だった。そこから更に仕事のために王都へと即座に帰ったために、カルンスタイン領に寄る暇はなかった。
「別邸を綺麗に保つために要求された感じ?」
「それもありますが、公爵家で使っていれば領民により受け入れられやすくなるという考えもあるようです。街で月の桜桃が開店した際に、一気に客が雪崩れ込んでくるようになるだろうとの事でした」
「なるほど。スライムだけの利益じゃなくて、街に泊まる人や観光する人が出て来るって事も考えてるって事?」
「はい。そこでお金を落として貰えれば、より財源が潤う事でしょう。問題は観光名所などを作らなければいけないという事ですが」
「ふ~ん……まぁ、その辺りは追々考えようか」
「はい。それと明後日より隣領の領主がスノーホワイト閣下及びグリーン閣下に正式決定するそうです」
「あれ? まだ整理が続いてたの?」
多くの貴族を摘発した事により領地に関する整理が大々的に行われた。カルンスタイン領もその一つである。セレーネとしては、既に終わっている事だろうと考えていたが、実際はまだ仮決定なものが多かった。その中で領を任せられる人材という事を考えた結果、ガンドルフは、セレーネの周囲の領にスノーホワイト公爵家とグリーン公爵家を当てる事にした。
丁度両家の領地が空白となる領を挟んでカルンスタイン領の隣にあった事が判断の要素になっていた。
「それに伴い、ヒナタ・スノーホワイト公爵閣下及びヒルデブランド・グリーン公爵閣下がご挨拶したいとの言伝をルージュ公爵閣下より預かっております。書状という形でもお預かりしました。こちらです」
マリアナは、セレーネにヒナタとヒルデブランドの手紙を渡した。受け取ったセレーネは、ペーパーナイフで封を切り、内容を読んでいく。その内容は隣領の領主になったという報告と親睦を深めるための会合のセッティングについてだった。出来る事なら中間地点にあるカルンスタイン領のセレーネの屋敷で行いたいという事が書かれている。
「ふ~ん……迎えられるかな?」
「屋敷は完成していますので、特に大きな問題はないかと。念のため、貴賓用の客室を用意しておくのが良いと思います」
「ああ、お泊まりになるかもしれないもんね。分かった。了承の手紙を用意しておくね」
「はい。交渉事は私にお任せ下さい。あちらは、既にある街を治めるという形になっていますので、港の一部を借り受けられないか交渉します。こちらの港が出来るまでの期間限定ですが、海洋調査などが捗るようになるかと」
「ああ、なるほど。それは嬉しいかも。時期は春先?」
「こちらで、時期の指定は難しいでしょう。あちらは冬の方が良いと仰る場合もありますので。王都にてスノーホワイト公爵閣下とグリーン公爵閣下に話し合って頂き、予定を合わせて、お二方同時に迎え入れるという形が良いと思います」
「まぁ、そんな感じの要望がそれとなく書いてあるけど、こっちの用意は間に合うかな?」
「最低でもニ週間後とお伝えください。その程度あれば、王都での買い物も可能となります」
「【空間転移】すれば良いもんね。じゃあ、その方向で手紙を書くね」
「はい。物資に関しては、こちらで受け取りもします」
「は~い。報告はこれで終わり?」
「はい。後は取引後の確認をして頂くくらいですので」
「分かった。じゃあ、マリアナは一日休みね。ちゃんと休んでよ?」
「はい。明日の分の仕事はフィアンナに引き継いでおきます。セレーネ様の方で報告事項はありますか?」
「ううん。フィアンナがまとめてくれてるから、フィアンナに確認してみて」
「かしこまりました。では、失礼します」
「うん。お疲れ様」
帰還したマリアナを迎えて、更にやる事が増えたセレーネは、ひとまずヒナタとヒルデブランドとの会合に向けて準備を進めていく。




