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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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崖際用防衛装置

 三日後。セレーネは、崖際用の防衛魔術道具を完成させた。今日は、その起動試験となっている。実際に崖で行うのではなく、壁を影と見做しての試験となっていた。立ち会いには、フィアンナもいる。


「こちらが、その防衛魔術道具ですか? 資料で見た聖域の結界発生装置と変わらないように見えますが」

「形はね。でも、機能はちょっと違うかな。結界を発生させる位置を調整しているし、【空間探知】の範囲も変えてあるからね。実際に使う距離はもう少しあるけど、取り敢えず起動させてみようか」


 セレーネは、壁の屋敷側の欄干に装置を設置する。そして、装置を起動状態にして外側の欄干から身を乗り出す。落ちないようにカノンが腰を支えた。

 セレーネは、下にいるベネットを見る。


「ベネット! 登って良いよ!」

「おう!」


 ベネットは、壁に梯子を掛けて登り始める。壁に指を引っかけられるような隙間などもないので、梯子を掛けなければ登る事が出来なかった。

 そうしてベネットが壁を登ろうとした瞬間、壁から少しだけ離れた位置に平面状の結界が発生した。そこで地上にいる弓兵と魔術師が、結界に向かって矢や魔術を放つ。これは結界の耐久度の検証のためだ。


「もっといっぱい撃って良いよ!」


 セレーネが上から声を掛けると、魔術などの密度が上がっていく。そうして五分程で結界が割れた。


「う~ん……さすがにこのくらいになると割れるか……」

「崖下からの攻撃は、こちらからの認識もしにくいため、この程度の密度でやられる可能性は十分にあります。結界のみの構成では厳しいようですね」

「うん。ここまでは想定済み。次の検証に移ろう」


 セレーネは装置を弄って、機能をフル稼働させる。壁の途中にいるベネットに反応して、再び結界が発生する。


「もう一度お願い!」


 セレーネの呼び掛けで、再び矢と魔術が放たれてくる。すると、結界の前の空間が歪み、魔術や矢が消失していった。それを見たフィアンナは目を見開いた。


「これは……」

「新魔術【空間圧縮】を利用した防衛機構。【空間探知】が魔術や矢を認識すると、その地点から結界に近づくにつれて空間が圧縮されていくようになるの。段々と空間が圧縮されていくから、結界に近づけば近づく程力が強まって最終的に消えちゃうって感じ。これは人にも反映されるから、人が近づいていくと段々と身体に圧力が掛かってきて、最終的にめちゃって潰れるの。圧力の掛け方は空間を縮小しているような形だから、闇雲に周囲に力を与えるような魔術を放っても無意味。空間そのものをどうにかしないと回避する事は不可能な魔術だよ」

「それは恐ろしいですが……消費魔力の方はどうなんでしょうか?」

「理論上はそろそろ魔力結晶が砕ける」


 セレーネがそう言うのと同時に結界発生装置の外側に付いている魔力結晶が砕け散っていった。それと同時に結界も消失する。


「うん。ちょっとずつなら、まだ吸収の方が勝るけど、圧縮する範囲が増える程魔力の消費量が増えていくね。単純な結界発生装置だったら、この大きさ良かったけど、この機構を付けるなら大きさが変わるかな」

「なるほど。結界発生装置の本体を統一する事によるコスト面の削減が目的でしたか。ですが、この機構を付けるという事になるのなら、それは不可能なようですね。単純に闇魔術による吸収では駄目だったのでしょうか?」


 闇魔術の特徴である消失。それを利用すれば、少しは魔力の削減になるのではとフィアンナは考えた。それに対して、セレーネは首を横に振る。


「ちょっと難しいかな。下水道みたいな感じでピンポイントに闇魔術を発生させるって形にするって案はあったけど、今見た通り、矢や魔術で大きさが異なるでしょ? そうなると、消費魔力が毎回変わってくるわけ。そうなると、結局通常の魔力結晶じゃ持たないの。それなら出力を常に一定で済ませられる【空間圧縮】を使った防御が良いかなって」


 闇魔術による防御となれば、飛んでくるものに合わせて毎回発動するという事になる。つまり、その都度消費魔力が変わるという事だ。逆に【空間圧縮】は、最初に大きく消費した後は維持のために少しずつ魔力を消費していく。

 問題となるのは、最初の消費量が多すぎる事と魔力の容量が足りずに尽きてしまう事のみ。そこの解決方法は、ある程度目処が立っているため、セレーネとしては【空間圧縮】で進める気でいた。

 さらに、この他にも理由がある。


「後は、闇魔術だと範囲とかが見えやすいけど、【空間圧縮】は空間の乱れを敏感に察知出来る人じゃないと分かりにくい。範囲を正確に見極める事が出来なかったら、そのまま【空間圧縮】の影響下に入ってさよならって感じ」

「なるほど。確かに先程見た時もどこからどこまでが範囲なのかは分かりませんでしたね。ですが、問題がいくつかあります。

 まずは、崖の形に沿えるかどうか。崖を削るような形になれば、崩落の危険があります。聖域の本域ではないにせよ、土地を削るという行為に違いはありません。

 次に、予算です。こちらよりも大きくなるというのなら、それに応じて製造費が増えます。場合によっては不可能となる可能性があります。

 最後に誤殺の可能性です。こちらは限りなく可能性は低いですが、敵では無い者を殺してしまう可能性もあります。

 これらに対してどういたしますか?」


 フィアンナの確認に対して、セレーネは少し考えていく。


「形に沿うように展開するのは、【空間探知】の情報を【思考演算】で反映させればいける。

 予算に関しては、そこまで増えないと思う。容量を増やすのと計算する内容とかを改めるだけだから。

 誤殺の可能性に関しては、あそこら辺一帯の進入禁止を条例で定める事で、入って来た人達を不法侵入者として扱えば良い。そもそもあそこら辺の進入許可は出さないから、誤殺になる危険性はなくなる。侵入者の抹殺って事になるから」


 しっかりと答えを用意したセレーネに対して、フィアンナは満足げに頷く。それを見て、セレーネは頬を膨らませる。


「試したでしょ?」

「はい。ですが、実際に考えておかなければならない点でしたので、ここで考えられなかった場合は、しっかりとお伝えしなければならないと考えました。無礼をお許しください」

「むぅ……まぁ、良いけど。取り敢えず、改良の方を進めるね。そこから必要な予算を算出して送るから」

「はい」

「ベネット! もう大丈夫! ありがとう!」

「おう! また何かあれば言ってくれ!」


 梯子を下りたベネットは、協力していた騎士団達を率いて元の業務に戻っていった。

 セレーネ達も壁から降り、改良点を直しに向かった。

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