マリアナの理性
カノンが用意したお風呂セットを持ったマリアナは、セレーネと手を繋いで脱衣所に来ていた。先程約束した内容で手を打ったため、セレーネのお風呂担当になっていた。セレーネとしては、常に誰かと一緒に入っているため一緒に入るという事に全く抵抗はなかった。
ただ、マリアナとしては仕事として接する分には、しっかりと弁えているのだが、現在は仕事から離れたプライベートな時間。その状態でセレーネと接するという事で若干緊張していた。
「セレーネ様はご自身で洗われますか?」
「ん? う~ん……洗って。というか脱がせて」
「!?」
服を脱いでいたマリアナは、セレーネの言葉に目を剥く。
(そういえば……あの時もカノンが脱がして、カノンが洗っていたような……)
屋敷に来た当初、全員でお風呂に入った際にマリアナが見たのは、カノンが全てをやっている姿だった。セレーネの我が儘でやって貰っているというよりも、それが当たり前のようにしていたため、マリアナもそこまで違和感を覚える事はなかった。
何よりもカノンが嫌な顔を一切しないどころか、ほぼほぼ自分から進んで動いていたため、カノンがやりたくてやっているというようにしか見えなかったのだ。
セレーネ自身は、全て一人で出来るようになっているが、それでも誰かにやって貰う方が楽なために、誰かに頼む事が多かった。
マリアナは鉄の意志を持って、セレーネの服を脱がしていく。服を脱いだセレーネはマリアナから湯浴み着を受け取って先に浴室に入っていく。マリアナも服を脱いで、ハンドタオルと湯浴み着を持って追いかける。
洗い場にいるセレーネの後ろに来て、準備をしていく。セレーネは鼻歌を口ずさみながら待っていた。
(他人の身体を洗うなんて初めてなんだけど……えっと……まずは頭から洗うから髪を濡らすところからのはず。自分で洗うときと変わりない。よし!)
マリアナはシャワーノズルを持って、お湯を出す。温度が丁度良くなるまで、自分の手に当ててからセレーネの髪に当てていく。
「では、目を瞑ってください」
「は~い」
セレーネが目を瞑ったのを見て、マリアナはセレーネの頭を洗っていく。シャンプーから始まり、髪の手入れに入っていく。
「セレーネ様の御髪は綺麗ですね」
「うん。お母様譲りだね。目はお父様の方の色だけど。体質はリーシアちゃん譲りだね!」
「確かに受け継いだものも良いものですが、しっかりと手入れがされているために綺麗になっているのだと思いますよ」
「ん? カノンとかフェリシアがいつも何かやってくれるから、それかな。マリアナも綺麗だよね」
「ありがとうございます。私はオイルを塗るくらいですが」
セレーネに褒められたマリアナは、少し照れていた。仕事モードのマリアナであれば、無難に受け入れるが、プライベートな時間という事もあり、マリアナの本来の姿が現れていた。
そんな調子で洗顔も順調に終わらせる。そうして最大の難関に到達する。
「えっと……お身体の方は……」
「マリアナが洗うんだよ。いつもカノンとかマリアにやって貰ってるもん」
マリアナは、一度深呼吸をしてから、心を無にする。泡立てたハンドタオルでセレーネの身体を洗っていく。洗う際にセレーネの肌に身体が触れてしまうため、心を無にしようとしていてもマリアナの心は乱れていく一方だった。
マリアナによって洗われたセレーネは、湯浴み着に着替える。
「それじゃあ、先に入ってるね」
「はい……」
セレーネが湯船に入っているのと同時にマリアナは自身も洗い始める。お湯ではなく水で。
(駄目駄目。相手はセレーネ様なんだから。好みど真ん中だからって興奮しない。フェリシア様達もいるんだから)
自身の煩悩を追い出すかのように洗っているマリアナを、セレーネは湯船に浸かりながら見ていた。
「ちゃんとお湯で洗いなよ」
「…………はい」
セレーネは寒そうにしているマリアナを見て、水で洗っている事に気付いていた。そんなセレーネの言葉に大人しく従って、マリアナはお湯に切り替えた。
(本当に私が好みなんだなぁ。どちらかというと体型がって言う方が正しいか。大分成長したけどなぁ……まぁ、胸は全然だし、背も低いけど。そろそろ成長が止まる頃だから、成長するなら、今の内なんだけど……別にないならないで不便はないから良いけど、背の高さは欲しいなぁ。同い年なのにフェリシアの方がお姉さんっぽいし。お姉様は今の私よりも綺麗だった気がするし、もうちょっと期待したいところだけどなぁ……)
セレーネの悩みは、胸の大きさよりも背の高さにあった。現状フェリシアの方が頭一つ分上の身長となっている。ユイとミュゼルは年上のために大して気になっていないのだが、フェリシアは同い年のために多少気にしているのだった。
セレーネの成長が止まるまでにもう数年しかないために、焦りを覚える年頃となっていた。
セレーネが悩んでいると、洗い終えたマリアナが湯船に入ってくる。セレーネと少し距離を置いていたため、セレーネは軽く泳ぎながらマリアナの傍に来て、カノンにしているように足の間に入っていった。
「セ、セレーネ様!?」
「ん? いつもカノンがしてくれる事だよ。マリアナも慣れないとね」
セレーネは、マリアナの手を持って自分の前に持ってくる。湯浴み着を挟んでいるが、セレーネとここまで密着した事はないマリアナは、傍から見ても分かるくらいに緊張していた。
「マリアナもしっかり休むようにしないとね。私達と違って死ぬ身体なわけだし」
「セレーネ様に言われてしまいますと、頷かざるを得ませんね。セレーネ様もそのお身体に甘えて、無理をなさる事はないようにお願いします」
「うん。カノンに怒られるし」
「そうですね」
そう言い合って、セレーネとマリアナは同時に笑い合う。そんな二人を扉の隙間からカノンが見ていた。
「問題はないか」
カノンは、マリアナがセレーネに問題のある行動をしない事を確認した後に浴室を離れる。そこにお風呂道具を持って来たフィアンナがやって来る。
「あれ? カノンもお風呂?」
「ううん。私は後で。今は、お嬢様とマリアナが入ってる」
「えっ!? 大丈夫……?」
二人きりという事で、フィアンナはセレーネの心配をする。それに対して、カノンは苦笑いをしてしまう。自分とほぼ同じような考えをしていたからだ。
「大丈夫。さすがに、分別は付いているみたい。遠慮しないで入っても良いから。そこら辺は時間の問題もあるし」
「分かった。それじゃあ、お先に」
「ごゆっくり」
屋敷で暮らしている人数が人数なので貸し切り等にはしていない。なので、フィアンナが入っても問題はなかった。寧ろ、フィアンナがやって来た事で、マリアナは内心安堵していた。フィアンナが来た事で、自分の中の欲望が溢れ出すのを防げるからだった。




