マリアナに休息を
フェリシア達の試験の間に、セレーネはカノンと一緒に結界発生装置を設置していた。
「ここも設置完了。起動確認も完了」
セレーネの目の前には正面に横五十メートル建て五メートルの結界が張られていた。これは物理的に干渉する形の結界なため、カノンが強度確認のために殴る。カノンの一撃でも結界はビクともしない。そのくらいの強度を保っていた。そこにセレーネが連続で【闇氷槍】を放って行く。
「強度確認も完了。次の設置場所に行くよ」
「はい」
セレーネとカノンは森の中を歩いて次の設置場所へと向かっていく。設置場所は森の中なので、魔動車は森の外に置いてきていた。
「これで半分くらい?」
「いえ、昨日と合わせて、もう三分の二は終えています。もう少しですね」
「そっか。じゃあ、今日で終わらせられるかな」
【空間探知】で結界発生装置を設置する距離をしっかりと測って設置する。カノンは周辺の警戒とセレーネの計算が正しいかどうかの確認を行っている。カノンが二重にチェックしているために、設置場所の間違いは細かい誤差に収まる。
「フィアンナは大丈夫そう? 時々お風呂で一緒になるけど、ちゃんと馴染めてるのか分からなくてさ」
「リーナ達とも打ち解けていますので、問題はないと思います。仕事に関しても、マリアナから投げられる仕事をしっかりとこなしているという報告を受けています。それはお嬢様も同じかと」
「うん。仕事に関しては、問題ないっていうのは分かってるよ。寧ろ、マリアナの仕事量が減ったから、マリアナがまた新しい仕事に入ってるっていう事も分かってるし。マリアナは過労で倒れそうだから、そこをどうにかさせないとね」
「休日は設けているはずですが、研究という言い訳を使って仕事をしているようですね。一応、強制的に休日にさせる方法はなくはないのですが、お嬢様に身体を張って頂く事になるかと」
「ん? 私が?」
セレーネは自分が関係する理由が思い付かずに、首を傾げていた。
「はい。マリアナの好きなものを利用します」
「私の身体?」
「言い方はあれですが、その通りです。プライベートでお嬢様と過ごす時間を設けるという事で仕事よりも夢中になれるもので意識を逸らします」
「ふ~ん……まぁ良いけど」
「お嬢様もしっかりとお休みする日を設けなければなりません。お嬢様の屋敷が出来て余裕が出来始めている今こそ休日を作る良い機会かと」
「う~ん……まぁ、倒れたら開拓どころじゃないから、そこら辺はしっかりとしないといけないね。帰ったらマリアナに提案しておくよ」
「そうしましょう」
そんな話をしながら日が沈むまで結界発生装置の設置を続けた結果、しっかりと聖域を覆う事が出来る結界壁が出来上がった。
「崖の確認も出来たし、結界もしっかりと作る事が出来たから良いね」
「はい。まさか、あそこまで断崖絶壁だとは思いませんでしたが」
「ね。高さ的には二十メートルくらいかな。頑張れば登れそうだけど、反ってるから割と厳しいかな?」
「そうですね。あちらの対策はまた練り直す必要があるかと。崖際の作業はかなり危険ですので」
「うん。お姉様がいたら空を飛べたりして作業出来そうだけど。あっ、ユニコーンだ」
セレーネは聖域の中にユニコーンがいるのに気付いた。ユニコーンは、セレーネとカノンをジッと見ていた。
「ちゃんと設置出来たよ! ありがとうね!」
少し距離が離れているために、セレーネは少し大きな声でユニコーンに声を掛けた。ユニコーンは、それに答えるように頭を下げてから去っていった。
「ユニコーンへの報告も何故か出来た事だし帰ろうか」
「はい。夜は暗いので、抱えさせて頂きますね」
「うん」
セレーネは、カノンに抱き抱えられる。カノンは、光魔術で灯りを作りながら魔動車まで一気に駆けていく。カノンの耳であれば、周囲の魔物の動きなども感知しやすく、一番安全なルートを一気に進む事が出来る。【空間探知】などで確認しながら進むよりも遙かに速い移動方法となるため、セレーネも素直に抱き上げられた。そもそもセレーネがカノンに抱えられる事を好んでいるという事もあるが。
魔動車まで来たセレーネ達は、すぐに乗り込んで屋敷に向かって走り出す。完全に夜になっているためにカノンも一気に飛ばして移動し二十分程で屋敷に着いた。
「道路の舗装もしとかないといけないかな。でも、聖域までの道程を行きやすくするのは、あまり良くないよね?」
「その辺りはマリアナとも話し合う必要が出て来るでしょう。私としては、あまり望ましくないと思います。道が続いていれば聖域を見つけやすく、入ってみようと思わせやすくなりますので。こうして若干の不便があった方が、気軽に向かおうとは思わないと思います」
「だよね。私も同じ考え」
屋敷の駐車場に魔動車を駐めた後、執務屋敷に入って、自分の執務室にある思考機を操作する。
「全体確認完了。全部起動状態になってるし、設置した時から大きな変化はなし。予想結界範囲も問題なし。手動起動も多分問題なく出来てるから、しばらくこの状態で様子見かな」
「では、屋敷に戻って夕食にしましょう」
「うん」
セレーネは思考機にロックを掛けてから、カノンと一緒に屋敷に戻る。屋敷に入り手洗いうがいを済ませて食堂へと向かう。すると、丁度マリアナが資料片手に夕食を摂っているところだった。
「セレーネ様。遅くまでお疲れ様です」
「マリアナもね。結界の方は張り終えたよ。最後にユニコーンも様子を見に来てたから、張り終えたって事も伝えたし、問題ないと思う。思考機で全部と繋がってる事も確認済み」
「それでは、後は様子見ですね。そちらの管理はセレーネ様にお任せしても宜しいでしょうか?」
「うん。私が一番理解してるから」
この会話の中で、席に着いたセレーネの元にカノンが食事を配膳していく。
「マリアナ。食事の時は資料を置きなさい」
「キリの良いところまで読んだらね」
「お嬢様みたいな事を言わないの。あなたはもう少し休憩するって事を覚えなさい」
さりげなく刺されたセレーネは、特に気にした様子もなくご飯を食べ始めていた。散々言われている事なので、セレーネにとってはいつもの事だったのだ。セレーネの場合は研究資料や論文である事が多いが。
「そうだ。マリアナはしっかりと休むようにね。一日休息を設ける事。これは領主命令ね」
「一日休息ですか……現状ですと、大分難しいのですが」
「休める時にしっかりと休むのは基本でしょ。ちゃんとフィアンナにも言ってある事だし、ちゃんとマリアナも実行する事」
「マリアナが休むなら、お嬢様も休めるから。しっかりと休むって約束してくれるのなら、今日のお嬢様のお風呂をマリアナに任せても良いけど」
カノンがそう言った瞬間、マリアナは資料から顔を上げてカノンを見た。それもただただ無表情で。
「まぁ、これも約束出来ないようなら、お嬢様を預ける事は出来ないから、話はなかった事になるけれど」
マリアナは苦渋の決断を迫られたように苦しそうな表情になっていた。
「わ、分かった……」
「との事です」
「うん。マリアナがちゃんと休むなら良いよ」
これを機にマリアナは、しっかりと一日の休息を取るようになる。それは偏にセレーネの信頼を維持するためだった。




