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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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フェリシアの開発

 フィアンナが来てから一週間が経過した。セレーネが開発した結界発生装置の設置が始まり、フェリシアが開発した海上防衛用魔術道具の試験等も始まった。温度の変動を調整して魚などへの影響を最小限に抑えるようにしているが、実際に試験を行わなければ、その性能を把握できない。

 この試験にセレーネも参加したいと考えていたが、結界発生装置の設置があるためにナタリアに任せていた。結界発生装置の設置は、しっかりとユニコーンの許可を得ている。

 フェリシアとナタリアは、海まで来て装置の設置から始めていた。普段カノンが運転している魔動車とは別の魔動車をマリアが運転して移動していた。この魔動車は、ラングリドからの祝いの品だった。


「では、海に設置して来ます」


 水着に着替えたマリアが装置を持って海に向かっていく。


「この季節の海は冷たいと思うのだけど、大丈夫なのでしょうか?」

「どうかしら。一応、対策はしていると言っていたわ。問題はないはずよ」

「それなら良いのですが」


 フェリシアの言うとおり、マリアはしっかりと対策をしながら海に入っている。マリアはフェリシアと行動をする事が多いため、フェリシアの研究を一番近くで見学していた。フェリシアの相談にも乗っているので、その研究内容への理解度はかなり高い。

 そんなマリアが対策として作ったのは、【適温維持】という魔術。これは、自分の周囲に物質を透過する結界を張り、その内側の温度を一定に保つというもの。フェリシアの【凍結結界】による自身の体温維持などから着想を得た結界魔術だった。

 結界を常に張り続ける事もあり、常に魔力を消費するため、マリアは結界の範囲を自分の身体に沿って発動している。こうして消費魔力を抑えながら、冷たい物が入れば熱し、熱い物が入れば冷やすという事をしているのだった。


(一応、セレーネの冷凍庫とかで実験しておいたけど、上手くいって良かった。温度変化と私に沿った結界の更新で魔力が継続消費されるけど、大分抑えたから一週間くらいは余裕で持ちそうかな)


 事前に実験していたため、問題がない事は確認していたが、こうして動きながら使う事はなかったため、結界の更新という欠点が浮き彫りになっていた。それでもマリアの魔力量であれば一週間は使い続けられるという感覚だった。

 海の中に潜ったマリアは目の周りに空気の層を作りながら潜って装置を設置し起動させる。これによって、装置が固定される。

 しっかりと作動している事と固定が上手くいっている事を確認したマリアは泳いで戻ってくる。タオルを持って待っていたフェリシアが迎える。


「はい。寒くなったかしら?」

「ありがとうございます。魔術が上手くいきました。装置の固定も完了しています。すぐにでも動作確認に移れます」


 タオルを受け取りながらマリアが報告すると、フェリシアは真っ直ぐ海の方を見る。そして、思考機のコアと一枚の札を取り出す。制御用のコアと装置とコアを繋げるための同期術式を刻み付けた札だ。

 札をコアに差し込んで魔術道具の制御をさせる。【投影結界】に映される操作ウィンドウを使って、フェリシアは手動で作動させる。直後に海が凍結し、凍結した箇所から氷柱がいくつも突き出た。


「凍結範囲に氷柱の大きさも想定通りね。消費魔力量も想定値。全体的に想定内の挙動だわ。後は、これを溶かす時間と周囲の水温変化を確認するだけね」

「はい。装置の耐久に関しては如何でしょうか?」

「大丈夫よ。全体を確認しても異常の報告はないわ。回収した後にまた調べる必要はあると思うけれど、少なくとも魔術道具に組み込んだものでは異常の確認が出来ないみたいよ」

「なるほど。セレーネ様の魔術を利用したものですので、問題はないと思いますが回収した後にしっかりと確認しておきましょう」

「ええ。それじゃあ、解凍するわ」


 フェリシアが溶かす指示を出すと、目に見えて氷が溶けていく。


「装置から送られてくる温度の記録では、海水温は二十二度よ。それでも融点よりは遙かに上だから、スムーズに溶けてくれているわね」

「常に一定の熱を与えられている訳ですか。溶けているということが、そのまま熱が上手く与えられているという事の証拠になります。多少霧が出るくらいで大きな問題はなさそうですね。後は装置の状態を確認して魔力結晶の交換時期の算出を行いましょう」

「ええ」


 氷が完全に溶けた後、マリアが装置を回収する。マリアが自分の【空間倉庫】の中で着替えている間に、フェリシアとナタリアで装置の状態を確認していく。


「魔力結晶は大丈夫そうね。海の中でもしっかりと魔力を吸収してくれるみたいだわ。念のため交換するとしたら、半年に一度くらいかしら?」

「それが良いかと。防衛に使わない時は海底近くの海水温の計測が出来ると考えれば、ただの防衛装置としてだけの運用ではなくなりますね」

「それも考えると、三ヶ月に一度が良くなるかしら?」

「いえ、コアに送っていた本体情報が完全に一致していましたので、そちらの情報に問題がなければ良いかと。大きさ的にも丁度良いと思いますので、一応はこれで完成と言えます」

「そう。なら、良かったわ。一応、もう少し魔術陣の見直しと小型化できないか検証したいわね」

「機能が防衛用ですので、小型化も良いですが、耐久性の方を重視して頂けると幸いです。壊されて使えないという状態が一番よろしくありませんので」

「それもそうね。ちゃんと考えておくわ。マリア、着替え終えたかしら?」

「はい」


 【空間倉庫】から出て来たマリアは、いつも通りのメイド服を着ている。そして、全員で魔動車に乗り込むと、すぐに屋敷に向かって走り出した。


「後は、セレーネが欲しがっている壁上の防衛装置だけね」

「そちらもフェリシア様が引き継ぐんですか?」

「ええ。セレーネが作りたがっているけれど、今は他の事で忙しいもの。代われるものは代わるわ。街が安定化すれば、その分だけセレーネが研究する事が出来るだろうから」


 やらないといけない研究からやりたい研究に移って貰うために、フェリシアはセレーネの仕事の一部を請け負う。それがフェリシア達なりの優しさだった。

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