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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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聖域の力の効果

 砦に帰還したセレーネは、すぐにマリアナの執務室に向かおうとすると、マリアナがナタリアを連れて出迎えた。


「セレーネ様」

「ある程度は説明出来る」

「では、執務室へ」


 互いにするべき話を理解しているために即座に執務室に移動して報告をしていく。事が事である故に、セレーネ、スピカ、マリアナだけではなく、カノンとナタリアも同席しての報告となった。


「これが全部。スピカも一緒にいたし、聖域からオーラが波動になって飛んでいったのをカノンも確認してる。オーラがここまで届いたのは、ナタリアとマリアナが確認してるよね?」

「はい。砦の途中でオーラは消えました。聖域の洞窟からここまでの距離を考え、オーラが放射状に飛んでいた場合、想定される範囲はこうなります」


 マリアナが地図に大きな円を描く。


「ギリギリ領内に収まった」

「恐らくは」


 観測された事から予測される範囲ではカルンスタイン領内に収まっている。他の領に掛かっていれば報告義務が発生するが、自領内であれば報告も要らない。セレーネにとっては、それが一番嬉しい事だった。説明するには、聖域内の事を話さないといけないからだ。


「取り敢えず、後はこれによって生じた変化だね。マリアナの方でベネットに調査は頼んだんだよね?」

「はい。魔物に関する調査を頼みました。こちらは、ユイ様、ミュゼル殿下より当該時間における空気質、水質の変動です」


 マリアナより成分変化の報告書を受け取る。


「…………浄化?」


 成分変化を読み取る事で分かったのは、空気質や川などの水質が聖域の泉と同じような成分になっていたのだ。そこからセレーネは浄化されたと考えた。


「同意見です。汚れと思われる成分のみが消え去っている事から、この一帯を浄化した。それが出来るという事になります。水質汚染や空気汚染を解決出来る手段が出来たとも捉えられますが、これを気軽に行って良いものなのかどうかという疑問はありますが」


 マリアナの疑問は、この浄化によってユニコーン達や聖域の何かを消費しているのであれば、使用は控えるべきと判断出来るからだ。


「う~ん……見た感じでは何か変わった様子はなかったよ。骨にも異常はなかったし。聖域の範囲も変わった様子はなかったよ。ね、スピカ」

「はい。私とセレーネ様は聖域の中で感じるものがマリアナと違うでしょ? だから、聖域が広がっていたら分かると思う。でも、前と同じくらいの広さだった」

「聖域の範囲が狭まる事も広くなる事もない。そうなると……これは儀式魔術?」

「規定の所作とか触媒が必要な魔術ってやつ?」

「はい。触媒として骨。所作が祈りと嘶き。これらで範囲浄化を発生させる儀式魔術なのかもしれません」

「そもそも儀式の時間が長かったりして、実用性がないやつなんだよね。ユニコーン達の儀式魔術の発動が早いのはなんで?」


 このセレーネの疑問に答えたのは、カノンだった。


「魔力量の違いではないでしょうか。お嬢様とスピカの魔力量は一般的な人族を遙かに超えています。魔術として成立しているとすれば、魔力が消費されたかと思います」

「うん。少しだけ空間魔術と同じくらいかな」

「大体三人分くらいでしょうか。スピカは?」

「多分同じくらいだと思う」

「お嬢様とスピカで同じ量の魔力を消費したとすれば、一般人であれば三人から五人分の魔力量になるでしょう」

「つまり、私達の魔力量が多かったから、一気に発動まで魔力が溜められたみたいな感じ?」

「はい。儀式魔術は、強力ではありますが、儀式を行って魔力を溜めていく必要があります。複数人でやればやるほど早く発動出来るというのは、こういう点から言われている事です」


 儀式魔術の特徴として、発動条件の所作と触媒の他に消費魔力の大きさというものがある。その分威力や効力は期待出来るが、魔力を溜めるために時間が必要になる事がほとんどだった。

 儀式魔術はエルフなどの魔力を多く持っている種族に対抗するために開発されたものであり、真祖であるセレーネからすれば無駄の多い魔術だった。そのため研究などでも、あまり対象にはならなかった。

 この消費魔力を補うために複数人で儀式を行って魔術を発動させるという方法が取られる。それが主な儀式魔術の発動方法となっている。


「それじゃあ、魔力が少なかったらこうはならなかった?」

「可能性はあります。そう考えれば、消費するものはお嬢様とスピカの魔力のみという事になります」


 触媒はあくまでも触媒。それ自体は変化をする事はなく効果を発するためのものでしかない。そのために消費するものは魔力のみだと予想された。


「二人だからこれで済んだ感じ?」

「お一人でしたら、倍になったでしょう」

「まぁ、倍くらいなら良いかな」


 セレーネにとって、この儀式魔術による消費魔力は普段使いしている空間魔術とほぼ変わりないと言っても良いくらいだった。それが倍になったとしても特に問題なかった。

 ある程度は繰り返す事が出来そうだという事が分かったが、セレーネはこれで満足する事はなく、儀式魔術に関する知識を深めておいた方が良いだろうと判断した。


「ナタリア、儀式魔術の論文って取り寄せられる?」

「今回の事象に似たものがないか探しておきましょう。しばらく留守にしてしまいますが、宜しいでしょうか?」

「うん。現状は、こっちを優先したいかな。聖域に関わる事だから」

「承知しました」


 聖域の管理が仕事に入っている以上、聖域に関する事は徹底して調べておいた方が良い。それがセレーネの判断だった。

 セレーネ達の話し合いが一段落するのと同時に扉がノックされる。カノンが扉を開けるとベネットが入ってくる。


「軽く分かった事を報告する。ひとまず、聖域周辺の魔物達が少し弱っている事が分かった。分かり易く言えば、高熱の風邪を引いているような状態に見えたな。動きにキレがない。あのオーラが届いていない場所の魔物達は、通常の動きをしている。誘導して範囲内に入れても動きは変わらない。これからもう少し詳しく調べるつもりだが、ひとまず先に分かっておいた方が良いだろう」

「ふ~ん……浄化の効果なのかな。そして、浄化は継続しない。この汚れが取れたのも一時的な効果だと思うし、それは合っていそうだね。分布とかに影響は出そう?」

「今のところ範囲内に入っている魔物は全て弱体化しているからな。内部での変動はないだろうが、外から来た魔物に奪われるという事はあり得るだろうな。仮にこれを何度も使うとするのなら、その度に調査は必要になるだろうな」

「そっか。弱体化の継続時間とかも合わせて調べておいて」

「分かった。じゃあな」


 セレーネから指示を受けたベネットは、すぐに調査に戻っていった。水や空気に潜む汚れの消滅と共に魔物の弱体化が起こった浄化。セレーネ達はその効果などをまとめながら、他に影響があったものがないかの調査に乗り出した。

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