地下道の検証
セレーネは、走ってマリアナの執務室に飛び込んだ。
「マリアナ!」
「はい。如何されましたか?」
突然入ってきたセレーネにもマリアナは驚かなかった。その理由は、マリアナの傍にいるユリーナだった。セレーネ達の会話と足音を聞いて、突撃のタイミングを教えていたのだ。
「地下道で魔動列車を走らせる!」
「はい。ユリーナから聞いております。ひとまず出来るかどうかから話していきましょう」
「うん!」
ユリーナが教えてくれたため、話はスムーズに進む。セレーネはカノンを呼び、カノン、マリアナ、ユリーナの四人で砦の外に向かう。砦から十分離れた場所で実際に地下道が可能かどうかを確認していく。
「まずは土を掘る」
セレーネは土魔術の【土穴】を使い、穴を開けていく。どんどんと穴を開けていき、地下に通路を作っていく。すると、天井が崩落し始める。
「ここの補強さえ上手くいけば、地下道も上手くいくはず。でも、崩落がこの時点で始まると、もっと大きな通路になったら作るのも難しいかな?」
「結界を用いるのは如何でしょうか? 物体干渉型の結界であれば、崩落を防ぐ事も可能だと思われます。そこで補強を開始出来るのではないでしょうか?」
カノンの案に従って、セレーネは結界を通路の天井と壁沿いに張っていく。物体に干渉する型のものなので、崩落を止めながら掘る事は可能だった。
「【座標指定】で土を指定しようにも使用し続ける事が難しいしね。魔術結晶にするにしても、土への指定は難しそうだから、石で覆う形にしようかな」
「石材を集める必要がありますか?」
マリアナの質問は、領の公共事業になるためにその費用を試算する必要があるためのものだった。
「う~ん……やろうと思えば出来るかな……カノン」
「結界の維持を替わります。ユリーナ。もしもがあったら、お嬢様を抱えて逃げて」
「了解」
カノンが結界を交代した後、セレーネは魔術陣を展開していく。その場、即興で魔術を組み立てるために、多少時間が掛かる事になる。
「一体何の魔術を行使しようとしているの?」
マリアナがカノンに確認する。魔術に精通している訳では無いマリアナでは、魔術陣から魔術の内容を予測する事が出来なかった。
「通常の魔術じゃない……かな。あの形は……錬金術?」
「錬金術? ここの土を石に変えようとしているって事?」
「うん。あれは錬金釜の変質の部分だけを切り取って構築しているみたい」
「錬金釜でようやく出来るようになるものじゃないの?」
「うん。範囲の指定とか色々と追加して変質の範囲と変質させる先とかを設定しているみたい。お嬢様オリジナルの魔術陣になると、私にも読み取りは難しいの。ほら、既に多重化されているでしょ?」
「あっ、本当だ」
魔術陣の構築に集中しているセレーネには、この話は聞こえていなかった。
(範囲指定を崩さないようにして、土を石に変える。土と石は、同じ土属性に属する。魔術的に見ればの話だけど、錬金術であれば通用する。石の情報は近くにあるものから取れる。この変質は錬金釜に入れての調合じゃない。素材の掛け合わせじゃなくて、素材を別のものに変える。分析で成分を……いや、駄目だ。二つの成分を確定させると逆に変質できない。二つが別の物質である事を証明してしまうから。敢えて境界をぼかす。属性だけを強調して、土を石に変えていく……この情報でいけるかな)
セレーネは三重の魔術陣を構築した。錬金術の変質、土と石の属性的情報と状態等に関する情報、範囲指定で構築されている。土の石の情報には成分的情報は含まれない。土の有機物的な情報が邪魔になるとセレーネは判断していた。
(土から石の成分だけを抜き出せばどうにか出来るかもしれないけど、その他の成分がどうなるかが分からない。だから、この構築方法で良いはず)
セレーネは魔術陣をもう一度見直してから、カノンの方を向く。
「出来た。使ってみるね」
「はい。ユリーナ、準備」
「了解」
ユリーナは、即座にセレーネを逃がせるように準備した。マリアナは周囲の状態などを確認するために目を皿のようにしていた。
セレーネは天井、壁、床を対象にして魔術を発動する。すると、セレーネが指定した箇所の土が次々に変化していき、四枚の一枚岩が出来上がった。
「よし!! どう!?」
セレーネは変質に成功した事に対して喜び、結界に掛かる重さがどうなっているのかという事をカノンに確認した。
「問題はなさそうですが、一応固定はした方が良いと思います。重さで沈んでいく可能性などもありますから。床の方はもう少し厚くしておいた方が良いでしょう。排水設備を作るのであれば、その施工が出来るようにしておきたいので。後は、周辺の土を圧し固めておくというのも良いかもしれません」
「その上で【座標指定】?」
「はい。一枚岩になっているのであれば、魔術結晶で固定させる事も出来るかと」
「う~ん……魔術結晶で固定出来る範囲を計算して、岩に変える範囲を決めないとかな。取り敢えず、錬金術の変質を使って岩に出来る事が分かったから、これで出来るかな?」
セレーネはマリアナに確認する。マリアナは、少し考えてから答える。
「問題となる点は、この作業をセレーネ様しか出来ない事でしょうか。それに魔動列車を走らせるとなると、縦横の大きさも相当大きく長くなります。その辺りの計算及び魔動列車が走る事による風圧などの計算も必要になります。ほとんど閉鎖空間ですので」
「なるほどね。諸々の考慮を入れてもう一回考えてみる必要がありそうか……ここから地上への排水機能とかも考えないといけないし。作業的には、掘る人と結界を張る人と私がいれば良いから、結構早く進められると思うよ。一時的に、マリアナの仕事が増えるけど」
「そうですね……地下道を作り、そこを走らせるという事自体は良いと思います。実際に出来そうだという事も分かりましたし、輸送において地下道は良いかもしれませんね。しばらくの間であれば問題はないかもしれませんので、しっかりと考えましょう。最善はセレーネ様に限らず、他にも作業が出来るようにする事です」
「う~ん……多重魔術陣だから厳しいかな」
「ナタリアが出来そうですね」
「ナタリアは、どちらかというと掘る方をお願いしたいかも。フェリシアに結界を任せて、マリアに空気の循環を任せれば、安全も確保出来るよ」
「なるほど……結界をスピカに頼る方法もありますね。そうすれば、掘る方をフェリシア様にお願いする事も出来るかと」
「スピカに頼んでも大丈夫なの?」
「教会の聖女以前にセレーネ様の眷属ですので」
「ふ~ん……まぁ、その辺りも全部含めて考えてみようか」
「はい。では、執務室に戻りましょう」
「うん!」
セレーネ達は地下道における魔動列車の運行についての話し合いを進めていく事になる。街と街を繋ぐためのものであるため、話し合いは慎重に行われていた。




