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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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フェリシア達の進捗

 ユイとミュゼルの報告を受けた後、セレーネはナタリアの居室に来ていた。そこでフェリシアとナタリアが海凍結魔術道具の開発をしていた。


「フェリシア、どんな感じ?」

「セレーネ。ちょっとだけ進展があったわ。【空間探知】での識別で氷だけの温度を上昇させるという方向で固まりつつあるの。出来そうかしら?」

「う~ん……どちらかというと、【座標指定】と分析魔術でやった方が良いんじゃないの?」

「海を警戒するために【空間探知】を使うでしょう? それを利用しようと思ったのだけど」

「使うけど、そういう利用方法なら、普通に【座標指定】と分析魔術」の組み合わせが良いと思う。どうせ思考機に付けるでしょ?」

「それは良いの?」

「ん? うん。そもそも街の防衛は領主としての仕事だし。ちゃんと私に出来る事はやるよ。思考機だけじゃなくて、普通に人の判断でも扱えるように……」


 セレーネが言い淀む。その理由に、ナタリアはすぐに気が付いた。


「悪用を警戒しているというところでしょうか?」

「うん。思考機自体の扱いは簡単だから。制限を掛けると緊急時に使えないとか起こりそうだし……」

「いえ、制限を掛ける方向でいきましょう。基本は思考機による制御ですから。悪用の可能性は、本当に最悪なものとなります。海を封じられるという風に考えられますので」

「そもそも識別は?」

「問題はそこよね。見て使う分には良いけれど、見張りが常に必要というのもね。私としては、セレーネが識別用の魔術結晶でも作って内蔵させるのが良いと思うのだけど」

「内蔵って?」

「そのまま埋めるのよ。船の一部に識別用の魔術結晶を複数埋めておく事で識別するの。埋め込むから、そう簡単に外せないし持ち去るのも困難になるでしょう?」

「埋め込む。刻印じゃないから、外部に出ない。魔術結晶に識別用の魔術陣の封じ込めるだけだから、魔力結晶による補給も必要ない。魔術陣の存在さえ感じ取れれば、思考機も識別出来る。複数箇所に仕込めば、一つ壊されても問題はない。うん。船体に刻むよりも安全そう。ナタリアは、どう考えてる?」

「私も同じように考えてはいますが、内蔵させる事が至難ではないかとも考えています」

「だよね」


 船のパーツに魔術結晶を仕込むという事は、継ぎ目に入れる以外には出来ない。一枚板の中に仕込むのは、ほぼほぼ不可能な事だった。


「あ、そうだ。【空間転移】で内部に飛ばすのはどう? 魔術結晶では試した事がないから、万が一があるかも」

「転移先の押し退け……あるいは融合……試してみる価値はあるかと」

「取り敢えず、適当な素材でやってみようか」


 セレーネは、【空間倉庫】内にいるゴーレム一号から、【思考演算】が含まれている魔術結晶と木材を受け取る。そして、【空間転移】を発動させて、木材の中に魔術結晶を転移させる。

 すると、木材の中に魔術結晶が埋め込まれた。セレーネは、魔力を通して中の魔術結晶を感じ取る。


「うん。壊れてはない。押し退けるというよりも融合しているって感じかな。普通に木材同士だと、二つとも押し退けて壊れちゃうんだけどね」


 セレーネは実際に木材同士を【空間転移】で合わせると、二つの木材が合わさる点で砕ける。


「魔術結晶……いえ、魔力結晶でも試してみましょう」

「うん」


 セレーネは、ゴーレム一号から魔力結晶を受け取り、別の木材に転移させるすると、木材も魔力結晶も壊れる事はなかった。それを確認したセレーネは、何とも言えない表情でナタリアに木材を渡す。

 そして、魔力を流す事で同じように確認したナタリアも同じような表情になっていた。


「……使えると言えば使えますが、これは完全に融合していますね。取り除けますか?」

「う~ん……こんな感じ」


 セレーネは魔術結晶が入った板から、内部の魔術結晶を転移で取り除く。すると、周囲に木材がくっついている魔術結晶が出て来た。完全に結晶と融合しているために魔術結晶のみで取り除く事が出来なくなっていた。

 セレーネは、魔術で周囲の板だけを削っていくが、魔術結晶は元通りには出来ず、砕けてしまった。


「融合してしまえば、その後は戻す事も出来ないという事ですね。慎重に進める必要がありそうですね」

「魔術結晶は無駄にしたくないもんね。作るのも面倒くさいし。自動化したいけど、色々と調整が難しいからなぁ」

「調整が難しいと言いながら、論文を読む片手間で作っているところを何度も見たのだけど」

「私は自分で調節出来るもん。とにかくこれで出来る事は分かったけど、送り込む場所はしっかりと選ばないとね。出来れば持ち去られにくい場所が良いかな」

「その事なのですが、実はマリアナから新しい船の設計を頼まれていまして」

「そうなの? まぁ、私に頼むよりもナタリアに頼んだ方が確実か。私は他の仕事も多いし。もう設計は始めてるの?」

「マリアナから依頼された船というのが、これまでにないくらいに頑丈で積載量が多いものとの事でした」

「海で輸送とかするって事?」

「いえ、海の魔物を警戒しつつ漁業を安定して行うためのものだそうです。魚を安全に運び込むための冷凍庫にしばらく海にいられるようにするための居住空間。効率的な漁獲方法。その他諸々を含めて、考えて欲しいとの事でした」

「なるほどね。いくつもの漁船でとかじゃなくて、大きな一隻で沢山獲るって方法か。出来るの?」

「出来なくはないでしょうが、色々と配置なども考えなくてはなりません。漁業用の魔術なども考えるとなると、大分時間は掛かりそうですが、そもそも造船所もまだ出来ていませんので、時間はあります。安全第一で設計しますのでご安心ください」

「そっか。私から提供出来るのは、【座標指定】と分析魔術を船底から下の海中に展開して魚群を見つける事かな。もしくは【空間探知】で調べるか。どちらにせよ、制御は思考機でサポート出来るし」

「なるほど。確かに、それはありですね。それを前提に置いて設計してみる事にしましょう。何かあれば報告します」

「うん。私に解決出来るものだったら、いつでも言って。後はそこまで魚を獲るなら輸送のために空間転移装置を置く……う~ん……ちょっと微妙かな。どちらかというと、街の食料として提供したいし……小さな漁船も出すとかになると輸送の頻度も上がる可能性があるし……街から港町に野菜を輸送したいし……安定供給……輸送のための魔動列車を作る……出来れば天候に左右もされない方が好ましい……」


 建設予定の街と港町の距離は、空間転移装置を使わなければならない程の距離ではない。輸送のための処理を施したとすれば、魔動列車での輸送で十分だった。


「地下だったら、天候関係ない?」

「雨が降ったら水が溜まりそうじゃないかしら?」

「……確かに。排水させられるようにしないといけないか。地下の地下に排水設備を作る場合、排水先はどこになるんだろう?」

「地上に送るのはどうでしょうか? 最終的に川か海に向かうようにすれば何とかなるかと思います。逆流を防ぐ術さえ出来ればですが。その辺りを考えて地下道を使った魔動列車による輸送を考えますか?」

「う~ん……有り! ちゃんと考えてみて良いと思う。マリアナに相談してくる!」


 セレーネはそう言うと、ナタリアとフェリシアの返事も聞かずにマリアナの元に向かっていった。

 そんなセレーネをナタリアとフェリシアは苦笑いで見送っていった。

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