これから作るべきもの
それから一週間でセレーネは設計図を描き上げた。また防衛機構の開発のためにフェリシアも協力する事になった。そのため調査魔術道具の情報整理をユイとミュゼルがそれぞれで行う事になった。ミュゼルもユイと一緒に思考機を扱っていたので、一人でも問題なく整理をする事が出来ていた。大きな変化があればすぐに報告し、規定の範囲内の変化であれば、一週間に一度報告するという形に落ち着いた。
今は、ユイとミュゼルから、その報告書を貰い確認しているところだった。
「全体的に問題はなさそうだね。雨が降った日の水位が少し上がっている事くらいかな。水質も問題なさそうだね。土が流れてきたくらいかな。空気質調査の方はどう? ある程度フェリシアが調整してくれたはずだけど」
「う、うん。問題なく機能しているよ……問題らしい問題は出て来てないかな」
「そっか。問題が起きたら言ってね」
「うん」
空気質調査も各地に設置されている。こちらはまだ基準作りの段階なので、様子見の段階が続いている。
「そっちの方は上手くいっているの?」
報告が終わったところで、ユイはセレーネ達がやっている防衛機構の開発について訊いた。
「う~ん……【装甲結界】の方は問題ないかな。そもそも魔動列車で使ってた魔術だから、壁の一方向に展開するものを作るくらい簡単なんだよね。問題はそれを一つの思考機で統率出来るかって話だったけど、調査用魔術道具で何十個もの情報を扱っている以上大丈夫だと思うしね」
「でも、統率するだけだと【装甲結界】は発動しないじゃない? どうやっているの?」「【空間探知】だよ。そこに魔術やら砲弾やらが入って来たら展開するようにしてるの。私の脳を使わなければ範囲を一気に広げられるし、地形把握じゃないから無駄な情報を得ないように調整すれば、かなり軽くなるんだよね」
「簡単に言っているけど、それ割と高等技術だと思うわよ。その理論を論文にしたらどう?」
「う~ん……時間があったらかな。思考機に作らせるのでも良いけど」
「やめておきなさい。思考機の頭よりもセレーネの頭の中にある情報の方が大事だわ。ところで、【装甲結界】の方はという事は……」
「正解。フェリシアの方が難航中」
ユイは、セレーネが最初に言っていた言葉を覚えており、そこからフェリシアが担当している方が順調ではないという事を見抜いていた。
「凍らせるのは簡単よね。フェリシアの得意中の得意でしょう?」
「凍らせるのはね。問題は凍らせた後だよ。いつまでも海を凍結させたままにはさせられないでしょ? かと言って、急激に温度を上昇させたら海の中で魚が茹だっちゃう。凍結される分には、新鮮さを維持させられるけど、茹でちゃったら割と厳しいでしょ?」
「まぁ、そうね」
「だから、海水の温度を上昇させすぎずに解凍する方法を探してるところ。フェリシアは温度操作系を研究していたから、そこから適正温度で止めつつ氷を素早く溶かす方法が見つけられると良いんだけどね」
「本当に難しい事を頼んでいるわね……」
「まぁ、ナタリアも考えてくれてるから大丈夫でしょ。私は諸々の制御を考えないといけないけど。思考機の効率も良くしたいし。そもそも魔術の研究もしたいかな。街の安全を確保出来るようにしておきたいしね。後は、港町と街の間に小さな魔動列車を走らせるって話かな。人だけじゃなくて魚とかも輸送したいかな」
「そ、それってこっちまで伸ばす予定の魔動列車の延長線じゃ駄目なの……?」
ミュゼルの確認に、セレーネは頷いた。
「駄目かな。そもそも港町まで繋げるメリットが国にないから。魔動列車は、最低限利用者が見込めそうな場所に繋げられてるでしょ? 細かいところは、魔動車とかで運ぶのが普通だからね。輸送用魔動列車ならまだしも、普通の魔動列車は無理かな。だから、国運営じゃなくて、両運営の魔動列車を置く」
「それって、国から許可は取れているの?」
「いや? でも、別に国に不利益はないから許可されるんじゃないかな。これを他の領に繋げるなら利用者の分散で不利益になりかねないけどね。どうせ、人を乗せることも少ないだろうし、物資のやり取りくらいしか使わない気がする」
「まぁ、住人達が移動するくらいかもしれないわね」
「複線にすれば、混雑も避けられるだろうし、大きな問題は起こらないと思う。モンスター的な心配があるけどね」
「まぁ、それもそうね」
魔動列車に関しては、基本的に国が主導となって運営している。そのため領を跨いだ運営は、国に入るはずの利益を削ってしまう可能性が高くなる。しかし、領の中に限っての道となれば、話は少し変わってくる。
更に国主導の魔動列車の路線と被せないような路線であれば、文句も出ないだろうというのがセレーネの考えだった。
「港を作る以上は行き来をしやすいようにしたいからね。魔動車でも良いけど、輸送量から魔動列車の方が良いなって感じ」
「空間転移装置を設置するのは駄目なの?」
「空間転移装置に関しては、お父様の管轄だからね。しかも、魔動列車と違って、輸送量に限りがあるし、人の転移も問題が出て来るかもしれない。よっぽどの事がない限りは、人を転移させるっていうのはやめた方が良いんだよ」
「そ、それが緊急避難……?」
「そういう事。レッドグラスに繋がる転移装置を作るつもり。ここら辺はお父様にもちゃんと相談してあるから大丈夫。王城にも設置したいから、色々と条件起動で改良しようかなって感じかな」
「そ、そうなんだ……」
「うん。王城が攻められる事はそうそうないと思うけどね。今はウルスラ様とミロク様が悪戯で移動しないように考えてる……」
「あ、ああ……ご、ごめんね。あの子達セレーネちゃん大好きだから……」
王城とレッドグラス。レッドグラスとカルンスタイン領。ここを結んだ場合、王城からレッドグラスを経由してウルスラとミロクが移動してくるという不安が存在した。セレーネが考えている条件起動は、緊急時以外には使えないようにするためのものだが、その条件付けが難しくなっていた。
ウルスラとミロクに反応しないようにしてしまえば、二人だけが生き残った時に起動しなくなってしまう。二人にも反応しつつ緊急時のみというのが、セレーネの考えているものだった。
ただし、これらはセレーネの街が出来てからの話だ。その時はまだ先である。




