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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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国王の帰還

 二週間後。セレーネの姿はカルンスタイン領では無く、クリムソン領のレッドグラスにあった。その理由は復旧作業が終わった王城に王族の面々を帰すためだ。魔動列車による移動では無くセレーネの【空間転移】を使うのは、王族の安全を優先するためだ。

 王都に材料を買いに行った際にミレーユから時期を伝えられていたために、セレーネもしっかりと予定として組めていた。

 別邸に来たセレーネは、駆け寄ってくるウルスラとミロクを受け止めて手を繋いでから,

ガンドルフの元に向かう。


「セレーネか。すまないな」

「いえ、これが一番安全ですから。王城の中に転移しても問題ありませんか?」

「ああ。問題ない」


 王族とラングリドの全員が揃っているのを確認したセレーネは、全員を【空間転移】で王城の応接室に転移させた。ここの座標は前にガンドルフ達を転移させた際に登録していたため、改めて登録する必要もなく転移する事が出来た。


「ついでだ。カルンスタイン領の現状を聞きたい」

「はい」


 セレーネは、応接室を使って報告をする事になった。ウルスラとミロクも残ろうとしていたが、エミリアが抱き上げて連れて行った。


「エミリア様のお身体は問題なさそうですか?」

「ん? ああ。環境の変化はあったが、問題はなかった」


 現在エミリアは妊娠している状態のため、レッドグラスでの生活による問題などがなかったかが気になっていた。ガンドルフの言葉を聞いたセレーネは母子共に問題ないという事で、内心安堵していた。


「それで最初の開拓は順調か?」

「はい。今のところ障害らしい障害はないです。聖域の方も問題はありません。一応、証拠がないので信じられないかもしれませんが、ユニコーンを目撃……というよりも、ユニコーンと接触しました。スピカも接触しましたが、マリアナは無理でした。何かしら姿を見せるための条件があるものと思われます」

「ユニコーンと……聖獣と接触したか……予想外ではあるが、望んだ結果でもあるな。だが、その条件は気になるな」


 ガンドルフは、セレーネとスピカがユニコーンと接触出来た理由を考察していく。


「セレーネとスピカだけの共通点はあるのか?」

「ないと思います。私の眷属である事が条件になるのならカノン達も条件を満たします。でも、ミュゼルが撮影した写真にユニコーンの姿は写っていませんでした。私が聖域を見た時に森の隙間からこちらを覗くユニコーンが見えたので、仮にこれが条件だとすると、ミュゼル達が姿を見なかった事が引っ掛かります。偶然か必然なのか。それを調べるには、カノン達にも聖域に入る許可が必要になります。私、マリアナ、スピカは、陛下より許諾を得ている形ですので、私が勝手に決めて良いのか分からず、そこは調べられていません」

「ふむ。下手な事をして、ユニコーンを刺激したくはないな」

「同感です。一応、意思疎通は可能だと思いますが、完全に言葉で伝え合う事は出来ませんので、こちらの確認に返事をして貰うという風になります。これでは許可を貰えたのかどうかも私の主観が入ってしまうので、どうとも判断しづらいです」

「しばらくは様子見だな。時間を見つけて定期的に会いに行くようにしてくれるか?」

「分かりました。後の報告は……ナタリア経由で知っているかもしれませんが、新しい研究をしています」

「総合研究室の報告書にあったな。こちらに届いたのは、まだ素案のようなものだったが、完成したのか?」

「実地試験中です。一応、必要になるかもしれないと思って報告書は持って来ました。ナタリアの下水道における選択消滅魔術陣の報告書もあります」


 セレーネは、【空間倉庫】の中から報告書の束をゴーレム一号に持ってこさせた。報告書を受け取ったガンドルフは、軽く目を通していく。


「川の氾濫に対する対処……いや、違うな。氾濫したという情報を素早く手に入れて、被害を最小限に抑えるためのものか。街に壁はあるが、扉から水が入ってくる事はあり得るからな。確かに、雨量と水位が分かるというのは良い事だろう。思考機が前提か?」

「得られた情報を素早く分析して整えるという作業は、どうしても人の手より思考機の方が早いので。氾濫した情報を得るまでの速度に関わります。今はユイ達が設定を調整して、氾濫などの情報が出た際に気付けるような仕組みを作ってくれています」

「雨量の測定も問題なく出来ているようだな。まだ基準を作っている最中か」

「はい。まとまった雨は何度か降りましたので、普通の雨の基準は出来始めてはいます。水位は常に上下するので見極めが難しいですが、雨が降った際に少し上昇値が急に高くなっているので、ここから平均値を求める形です」

「なるほどな」


 ガンドルフは、セレーネの説明を見ながらグラフを確認し、内容を理解する。これらを調べる事が災害への対策に繋がるという事も理解しているために、今後国で導入する事を検討するかと考えていた。


「問題は、思考機か」

「普及という面で言えば、思考機が難しいですね。お金と材料があれば作りますよ。領にお金を下さい」

「この場合領よりも総合研究室に金が入るな」

「その一割を領で貰う形とかって出来ますよね?」

「可能だな。そもそも領地に置いているからな。まさかとは思うが、自分の金を出してはいないだろうな?」

「空間転移装置の利用料の一部は領地のお金にしてますよ。一応、私の収入ですから。ちゃんと税として納めますよ。そうじゃないと領のお金が増えませんから」

「最初はそうなるか。領民もいないからな」

「領民が出来ても基本的には納めるつもりですよ」

「…………そうか。セレーネが良いのなら良いが、研究費用も削れるぞ?」

「領地が重税になるよりはマシですよ。お父様が運営してくれる運送会社が動く限り、どんどんと入ってきますから、領のお金にはちょうど良いです。なくなるわけもありませんし」

「あれは確かにそうだな。他にも魔術の使用料は入って来ているのだろう?」

「そうですね。最近は情報処理魔術の研究をする人が増えたみたいで沢山入って来ているらしいです。カノンが言ってました。まぁ、私の研究は多重魔術陣が基本なので、研究が進んでいるという話は一切聞かないのですが」

「そうなのか」

「慣れれば、そこまで難しくないですけどね」

「そうか。だが、思考機を発注するにしても、実地試験が終わってからだな」

「そうですね」


 現在セレーネが作っているものは基本的に思考機が中心となる。思考機がなければ、測定を行う事自体が難しいからだ。国全土に配置するにしても、実地試験にて、どの程度の数まで対応出来るかなど調べなくてはいけない部分が多い。

 ガンドルフが依頼するにしても、まだまだ先の話だった。

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