聖女とユニコーン
二日後。セレーネは、カノン、スピカと一緒に魔動車で聖域近くまで来ていた。マリアナは書類仕事に忙殺されている。補佐官としての役目を果たしているために同行は出来なかった。
「それじゃあ、カノンは待っててね」
「はい。お気を付けて。スピカも」
「うん」
魔動車を降りたセレーネとスピカは、聖域内に入っていく。聖域に足を踏み入れた直後、スピカはセレーネが感じたような感覚を得ていた。
「ここは……」
「スピカも変な感じする?」
「はい。世界が変わったかのような……ですが、不快な感覚は一切ありません」
「私も同じ。これならスピカもユニコーンに会えるかもね」
「撮影機を持ち込んだ方が良かったでしょうか?」
ユニコーンに会えるのなら、その証拠を写真として残しておけるかもしれない。それを考えたスピカは、撮影機をミュゼルから借りた方が良かったのではと考えていた。
「う~ん……どうだろう? ユニコーンの反応が分からないから何とも言い難いけど、下手に刺激して怒らせちゃうよりは、このままが良いんじゃないかな」
遠くから撮影した際に写っていればラッキーぐらいには考えられるが、直接撮影してしまえばユニコーンを怒らせるだけになるのではとセレーネは心配していた。これにはスピカも同意見だった。
「そうですね。怒りを買うような真似だけはやめておきましょう」
「うん。泉はこっちだよ」
一度来ているセレーネがスピカを案内する。一応セレーネは泉の座標を記録しているが、徒歩での案内にしていた。転移は本当に緊急時のみ使用するものと自分の中で決めているからだった。
「ここが泉」
泉の水はセレーネが来た時と変わらず透き通っていた。
「綺麗な水ですね」
「うん。そのままでも飲めそうだよね」
「飲んではいけませんよ?」
「分かってるよ。濾過とか色々しないといけないんでしょ?」
「はい。今の状態であれば、浄化する必要もありませんね。どの程度で浄化すれば良いのか分かりませんが定期的に確認する必要がありそうです」
「だね。水質分析用の魔術道具でも作ろうかな?」
こうして直に見なくてはいけないという状況は、あまり良くないと感じたセレーネは魔術道具で解決出来ないかと考える。汚染された事がすぐに分からなくては、ユニコーンへの悪影響を防ぐ事は出来ないと考えられるからだ。
「仮に魔術道具を作ったとして、ユニコーンが設置を許すでしょうか?」
「う~ん……確認したいけど、ユニコーンって、こっちの言葉理解してくれるかな?」
「クロと同じようにとはいかないかもしれませんが、聖獣と呼ばれるくらいですので、頭は良い方だと思います」
「まぁ、ある程度意思疎通が出来ないと聖獣って認めづらかったりしそうだもんね。スピカは聖女だし来てくれないかな?」
「その事なのですが、私が聖女になったのは、教会の認定であってユニコーンに選ばれた訳ではありません。なので、ユニコーンからして、私が聖女となるかはまた別なのではないでしょうか?」
自身が聖女であるという自負を持っていたスピカだが、それは教会から与えられた称号でしかない事を思い出していた。これがユニコーンに選ばれたなどといった事があれば、まだ聖女として認められているというように考える事が出来るのだが、そうではないという事をスピカは自覚していた。
「そっか。ところで、後ろにいるんだけど」
「え?」
セレーネの言葉にスピカが振り返ると、そこには純白のユニコーンが立っていた。スピカは息を潜めてユニコーンと真っ正面からお見合いしていた。
「こんにちは。今日も来てくれたんだね。ありがとう」
セレーネはスピカに並んでユニコーンに挨拶をする。すると、ユニコーンはセレーネの頭に首を押し付けるようにして挨拶をしてきた。セレーネは、優しくユニコーンを撫でる。
「ユニコーンにお願いがあるんだけど、ここら辺に魔術道具を設置しても良い?」
セレーネの確認にユニコーンは首を傾げる。
(う~ん……どちらかと言うと、魔術道具について理解していないような感じが強いかも……? 言葉を理解していなかったら、そもそもこんな反応にならないような気もするし)
セレーネは、ユニコーンにどう伝えるかを考える。
「えっと、この泉を綺麗に保つための道具とこの森がどういう天気になっているかの確認が出来る道具を置きたいの。ユニコーン達が安心して暮らせるような環境を整えたりしたいの。どうかな?」
ユニコーンは再び首を傾げてから、声高く嘶いた。スピカは、ユニコーンを懲らせたかと、一瞬警戒したが、ユニコーンがセレーネに顔を押し付けるのを見て安堵した。
「じゃあ、設置する時にまた確認するね。皆が安心して暮らせるようにしたいもんね」
セレーネが一頻り撫でると、ユニコーンはスピカにも首を擦り付けた。スピカは少し驚きながらも優しく撫でる。セレーネとスピカに撫でられたユニコーンは、それで満足したのか、そのまま去っていった。
「う~ん……交渉成立?」
「どうでしょうか。実際に魔術道具を置く際に揉める可能性は否定しきれません。なので、魔術道具も勝手に置かないように注意しましょう」
「うん。ユニコーンにも言った通り確認だね」
セレーネが設置したい魔術道具は水質調査用魔術道具及び現在設計中の雨量測定魔術道具及び水位測定魔術道具だった。これにより泉に無視してはいけない変化が訪れた際にセレーネの屋敷にいたとしても即座に知る事が出来る。
ユニコーン達にとって住み心地の良い環境を提供出来るようにするための指標などを調べる事にも繋がる。ユニコーンとの共生が、カルンスタイン領の領主としての仕事の一つであるため、妥協するラインはかなり高いものになっていた。
「いっそ教会の魔術を利用して、常に浄化をし続ける魔術道具を作っても良いんだけどね」
「それはかなり難しいでしょう。教会への許可取りで難航すると思います」
「まだ秘密主義?」
「それもありますが、教会としては悪用を防ぎたいと思いますので、悪用に繋がりそうな事はしません。この場合ですと誰でも浄化が出来るという事から詐欺に使われるかもしれないというところです。それを許してしまうと、教会の信用に関わりますので」
「そっか。じゃあ、スピカに頼るしかないね」
「はい。そうして頂けると幸いです。私としてもこの環境は守っていきたいと思いますので」
ユニコーンとの二度目の接触。スピカと共に挨拶をするという形だったが、問題なく行う事が出来ていた。次の問題は実際に魔術道具を作って受け入れられるかどうか。こればかりはその時にならなければ分からない。




