フェリシアの役割
セレーネが設計機から出て来た設計案を見ていると、フェリシア達が視察から戻って来た。全員が執務室に入るが、ソファに座るのは、セレーネ、フェリシア、ユイ、ミュゼルだけだった。二人掛けのソファが二つしかないのが原因だ。そうなれば、領主とその婚約者に譲るのが当たり前となる。
今はミュゼルが撮影した写真を転写している最中だった。出て来る写真をマリアナが確認していく。
「なるほど。ここまで鮮明に記録出来るのであれば、様々な使い道がありそうですね。ミュゼル殿下が仰っていらした明かりが重要というのも理解出来ました」
「そこら辺の改良も大分進めてるけど、色々あって進んでないんだよね」
「う、うん。一応、この撮影機でアカデミーの卒業単位は終わったけど……」
「そういえば、二人はまだアカデミー生だった……」
「卒業単位を全部取れているから問題ないわよ」
二人とも卒業単位を満たしているために、アカデミーは飛び級での卒業となった。やろうと思えば通う事も出来るが、セレーネに負担が掛かるという理由で二人とも受け入れている。
「そっか。あれ? 聖域の方も撮影したんだ?」
セレーネが写真を見ていると聖域の森が写った写真がある事に気付いた。
「う、うん……マリアナが近くを通ってくれたから撮影してみたの……」
「そっか。ユニコーンが写ってたら便利なんだけど……無いか。皆だけだと顔出しもしてくれない感じかな」
マリアナ達も手伝って調べたが、ユニコーンが写っている写真は一枚もなかった。ユニコーンが生存していることの証拠として扱える可能性があったが、ユニコーンの警戒心はセレーネ達が想っているよりも高かった。
「それじゃあ、ここら辺の写真は分類して保存だね。後はここら辺の業務の手引書も作ろうか。写真があれば変化を見つけやすいだろうし」
「では、こちらで制作しておきましょう。事務職員の募集もしたいところですが……」
マリアナはそう言ってカノンを見る。
「私はセレーネ様の傍付きメイドだから、事務職員にはならない」
「ちっ……なるべくなら信用出来る人材で固めておきたいから……仕方ない。あの子を呼ぶかな」
「フィアンナ?」
「うん。今役所で事務仕事をしていたから、声を掛けておいたの。今は私一人でも問題ないから、執務用の屋敷が出来たらって思っていたけど、セレーネ様が意外と色々とするからいてくれた方が助かるしね」
「ふふん!」
「褒めてないと思うわよ。仕事を増やしているだけだから」
「仕事を増やせる程優秀ってね!」
「全く……でも、それなら私達も少しは手伝えるけれど」
マリアナが忙しいという事で、フェリシアが手伝いを申し出る。ユイとミュゼルも同じように手伝えるという表情でマリアナを見ていた。セレーネは特に何も言わずに設計案の確認に移る。セレーネが黙っているという事は、フェリシア達にも手伝わせて良いという事になる。
実際、セレーネはフェリシア達がやりたいのなら止めはしない。危険な事なら渋るが、事務仕事くらいなら危険もないため止める必要もない。
「では、簡単な事務仕事をお頼みします。手引書は簡単ではないので、こちらで進めます。基本的にはセレーネ様のお側にいて下さると助かります。お仕事を頼みやすいので。本日は早速セレーネ様が乱雑に置かれました設計図をまとめて頂けると助かります」
「ん?」
話題に上がったセレーネは疑問符を浮かべているが、セレーネの周囲には没案となった設計図が散らばっていた。現在はカノンとマリアが拾い上げてまとめている。基本的にカノンが片付けるのが当たり前となっているため、セレーネ的にはいつも通りの事をしているだけだった。
貴族制をどうでも良いと思っているセレーネだが、この辺りは無意識下で、貴族の令嬢としての動きが出ていた。
「つまりは、基本的にセレーネ様の秘書官をしつつ簡単な事務作業をお願いします。皆様の方がセレーネ様を御しやすいと思いますので」
「何で私が操られる側なの?」
「制御されませんと、セレーネ様はとんでもないものをお作りになるかもしれませんので」
「ちゃんとナタリアには相談するし」
「ナタリアもセレーネ様と同類ですから。成長して落ち着きを持っていますが、前は暴走列車のような一面もありました」
これにはカノンも頷く。ナタリアが落ち着いた要因には、カノンも関わっていた。カノンがスピカと恋人になり、自身が振られた結果が今だからだ。自分を今一度見直す機会が訪れた事がナタリアの成長の一端を担っていた。
「セレーネ様も研究の助手が欲しいのではありませんか?」
「そりゃあ、まぁ……あっ、フェリシア達を助手にするって事?」
「互いに助手のようになれば、研究の補助や意見交換などやりやすいのではないでしょうか。私は研究者としては役に立てませんので」
「なるほど。じゃあ、それで。手続きいる?」
「いえ、そういったものは後々に」
「分かった」
こうしてフェリシア達が砦で行う仕事が決まった。マリアナも補佐官として動き回る事が多いので、セレーネの傍にフェリシア達がいて研究などをサポートしてくれるだけでもマリアナとしては助かるのだった。ナタリアも街の発展のための研究などをしなくてはいけないので、セレーネの研究を手伝うという事は出来ない。元々あまり手伝わないが、相談に乗れる機会も少なくなるので、フェリシア達の存在はセレーネにとっても良い。
そもそも三人と仕事中も一緒にいられるという事自体がセレーネにとって嬉しい事なので、その喜びが表情に出ていた。
そんなセレーネを見て、フェリシアが抱きし寄せる。セレーネは無意識だったので、突然どうしたのだろうと思っていたが、フェリシアに寄り掛かるのは好きなので、セレーネは遠慮せずにフェリシアに寄り掛かった。
「そうだ。ミュゼルにご褒美あげるんだった。何が良い?」
フェリシアに寄り掛かっていたセレーネは、送り出す際にミュゼルに言った事を思い出して訊いた。
「あっ……じゃ、じゃあ、一緒に……寝たいな……」
「ん? うん。良いよ……別にご褒美じゃなくても良いのに。カノン、良いよね?」
「はい。では、お嬢様のお部屋を使いましょう。私はスピカの部屋にいますので、何かあればお声かけ下さい」
「うん。分かった」
その日の夜は、セレーネとミュゼルが一緒に寝る事になった。それを口実にカノンもスピカと一緒に寝られる事になる。カノンの思惑を見抜いたマリアナは内心苦笑いしていた。




