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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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久しぶりの研究

 マリアナとナタリアがそれぞれの仕事に向かった後、執務室に残ったセレーネは、雨量測定魔術道具と水位測定魔術道具の二つの研究を始めていた。


「結局全部複数地点に設置する必要があるから、小さくて壊れにくい形が好ましいかな」


 セレーネが自分の頭の中にあるものを吐き出すように紙にペンを走らせていると、執務室の扉がノックされる。


「どうぞ」


 セレーネが返事をすると、カノン、ユイ、ミュゼル、メイが執務室に入ってきた。


「どうしたの?」

「ほら、ミュゼル」


 ユイはミュゼルの背中を押して一歩前に出す。

 婚約者になってからは、ユイはミュゼルに様付けをしなくなっている。これはミュゼルからそう頼まれたからだった。フェリシアも同様である。


「さ、撮影機で記録する……? い、一応試作品は持って来ているから……」

「あっ、忘れてた。ユリーナ、マリアナを連れてきて。皆は適当に寛いでいて良いよ」


 セレーネがそう言うと、ユイとミュゼルは、セレーネの傍に移動してきた。


「これは何?」

「雨量測定魔術道具と水位測定魔術道具。川の氾濫とか諸々に備えるための道具」

「あの川って、そこまでの頻度で氾濫はしていないはずだけれど……」


 ユイも公爵領に関しては、ある程度把握している。その中で川の氾濫についての話は聞いていないので、警戒するほどかと思っていた。


「氾濫してからじゃ遅いからね。近くに街はないけど、橋が使えなくなるわけだし」

「ああ、なるほど。ここが孤島に変わってしまうかもしれないって事ね」

「それに雨量測定魔術道具に関しては、街にも置いておけば、色々と危険の目安になるでしょ? 道の排水機能は十分に確保するはずだけど、こっちも万が一があるからね。水位測定魔術道具の方も海に設置しておけば、高波とか津波とかの警戒が出来るはずだし。こっちはついさっき思い付いた事だけど」

「この感じだと沢山配置するのね」

「一つで完結出来る程領は狭くないからね。こうして置いた方が情報が正確になるっていうのもあるかな」

「で、でも、魔物に壊されそうだね……」

「そこね。私もちょっと悩んでるところ。これに魔物除けの結界を付けたら、魔物の分布が変わるだろうから、不用意に付けられないんだよね。ただでさえ、平原の分布は大きく変えてるわけだし」

「他の領にも影響が出るものね。それじゃあ、頑丈に作るの?」

「隠すか魔物に狙われないように工夫を凝らすかかな。魔物を完全に排除するというよりも、魔物が嫌だなって思って避けるくらいで良いんだよね。まぁ、それが難しいんだけど」


 そんな話をしていると、扉がノックされる。セレーネはカノンに目配せして扉を開けさせる。入って来たのは、ユリーナとマリアナだった。


「ありがとう、ユリーナ」

「いえ。では、失礼します」


 ユリーナはセレーネに一礼すると、部屋を出て行く。その場に残って聞いても良い話をするかが分からないからだ。仮に外にいたとしても、聞こうと思えば聞こえるのであまり意味はないが。


「如何されましたか?」

「マリアナって撮影機についてどのくらい知ってる?」

「ミュゼル殿下の研究で製造されたものという事くらいは」

「ここに試作品があって、私は転写機を持ってる。まぁ、こっちの開発は私がしたからなんだけど」

「なるほど。下水道などの現状を記録し、異常が起こった時に見比べる事が出来るようにするという事ですね」

「うん。ベネットを護衛に付けてミュゼル達と行ってくれる? 撮影ならミュゼルが一番慣れてるから」

「承知しました」


 撮影係になったミュゼルは唐突な事に目を丸くしていた。


「ユイとフェリシアも連れて行って。一応、皆も領内を知っておいた方が良いと思うから。こっちはついでだけど、ベネットとマリアがいれば護衛としては大丈夫だろうから。運転はメイがしてくれるよ」

「お任せ下さい」

「セ、セレーネちゃんは……?」

「私は研究があるから。頑張って! 終わったら何かご褒美あげるよ」

「う、うん……! 分かった!」


 セレーネがご褒美を出すと言うと、ミュゼルは少しだけ固まった後にやる気を出していた。


(ご褒美で釣れた。可愛い)


 マリアナに連れられて、ミュゼル達は記録のための撮影をしに向かって行った。


「そうだ。カノン、スピカ呼んできて」

「聖域に向かうのですか?」

「うん。明後日だけど、この前安全は確認出来たから」

「分かりました。呼んで参ります」


 カノンはスピカを呼びに向かう。その間に、セレーネはアイデアを書き出していく。三分ほどでスピカは執務室へとやって来た。


「明後日に聖域行くから」


 セレーネは開口一番に本題を伝える。


「はい。では、準備しておきます。浄化などはしますか?」

「ううん。場所と雰囲気の把握だけ。一応、周辺の安全は確認してあるから大丈夫だと思う。ユニコーンに会えるかは分からないけど。私一人の時とかにしか現れないし、遠くに見えても、私以外が見ようとしたら消えちゃうから」

「なるほど……聖女として認められているかも関わってきそうですね」

「特に気にしないで良いよ。取り敢えず、予定として覚えておいて」

「はい」


 用件が終わったので、スピカはあてがわれた自室に戻る。ひとまず優先して伝えなければいけない用事が終わったため、研究に集中する。


(【座標指定】で指定した空間内の雨量と水位を分析する形で良い。基本的な分析方法だし。問題は、この分析結果を送る機構。下手に電波で送ろうとしたら、干渉しそうで怖いしなぁ。独自の方法が欲しいなぁ……魔力で情報を送ってくれるようにしたいけど……あれって有線じゃないと難しいしなぁ……魔力で線を作って繋げられたら楽なんだけど、魔術道具での再現が難しいし、常に繋ぎっぱなしに出来るかも分からない。やっぱり同期術式かな。同期されるのは、得られる情報が溜まる場所のみ。うん。これなら何とかなりそう。新しい魔術の開発って訳でも無いし、普通に設計機に入れて設計案を出して貰おう)


 セレーネは【空間倉庫】内にある思考機に素案を読み込ませて、設計図の案を出させていく。


「ここから出たのは、新しい設計図箱に入れておいて」

『かしこまりました』


 吐き出される設計図の整理をゴーレム一号に任せたセレーネは、【空間倉庫】から出て執務室に出て来る。


「次は錆止めかな。カノン、薬草類の図鑑」

「はい。すぐにお持ちします」


 領主としての仕事が一通り終わったセレーネは、いつも通り研究を続けていく。久しぶりの研究であるため、セレーネは終始楽しそうに研究していた。

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