マリアナ、ナタリアと会議
二日に渡り領内の視察を行ったセレーネは、砦内にあてがわれた執務室で、ナタリア、マリアナと一緒に会議を行っていた。
「取り敢えず、下水道の魔術陣は出来たんだね?」
「はい。問題なく起動します。選別も出来ています。実地試験として、この砦内の下水道に設置して確認を取りました。こちらが、その報告書です」
セレーネは受け取った報告書を流し読みしていく。大事な情報だけは捨てないように気を付けながら読み、ナタリアの報告が正しい事を確認した。
「うん。じゃあ、最低でも二箇所に設置するようにして漏れが絶対にないようにして」
「はい。確認ですが、こちらは総合研究室での発表で良いのですか?」
「うん。ナタリアが作ったものだから。総合研究室の研究費用にも出来るでしょ。私も研究するのに費用がないと困るから」
「承知致しました」
総合研究室の発表にすれば、この魔術陣を利用するための申請が必要になり、定期的に利用料を集める事が出来る。これがそのまま研究室の研究資金にする事で、資金不足を補う事が出来る。魔術陣的にも使い勝手が良いので、利用したいと考える領は多くなる。そのくらいに下水道の問題が煩わしいからだ。
「それじゃあ、次はこれから研究する内容ね。まず雨量測定の魔術道具。正確に測定して危険域に入るような雨量なら警告を飛ばすような感じにしたいの。このために警報の基準も決めたい。同時に、川の水位の測定用の魔術道具も作りたい。この二つがあれば、川の氾濫を知る事が出来るし、川の確認に人員を割かなくても良い。川が氾濫したら見に行くのも危険でしょ?」
「川の氾濫が街に影響……いえ、そうですね。他の領との繋がりは基本的に川によって断絶される形ですので、少なからず影響が出るでしょう。となれば、上流、中流、下流にそれぞれ設置しましょう。加えて、こちらの魔術道具は隣のルージュ公爵領にも貸し出しをしましょう」
「貸し出し?」
「はい。川の氾濫となれば、あちらも他人事ではいられません。それをいち早く知り、対策に移るまでの時間を短縮する事が出来るとなれば、あちらも借り受ける事でしょう。被害を受けないようにする費用と受けた後の対処する費用を比べれば、遙かに前者の方が安く済みます。そして、幸いな事にルージュ公爵領であれば、ユイ様が嫁いでいる事もあり無下には出来ないでしょう」
「うわぁ……腹黒……」
「どうせ、マリアナも同じ事を考えていたくせに」
「それは当然。私が第一に考えるのは、セレーネ様とカルンスタイン領だから。使えるものは公爵領だろうが関係なく使うよ」
ナタリアもマリアナも、ルージュ公爵領を利用する気でいた。隣の領として友好的に接しながらも、一方的に享受する気もされる気もない。ルージュ公爵領からすれば、外海から侵略者が来たとしても、カルンスタイン領が盾になる。つまり、厚い壁が前にあるような状態となっている。この状況は辺境を預かる身として仕方のないもの。その分の対価をいくらか受け取っても問題ないだろうというのが、ナタリアとマリアナの本音だった。
「う~ん……まぁ、リンド様なら、普通にそうしろって言いそうかな。取り敢えず、話は分かった。その方針で進めて。無料で貸し出すと恩は与えられるけど、他のところもそうして欲しいって言いかねないからね。これは、私個人の発表にした方が良いかな? それとも領の発表にしないと領に入らない?」
「セレーネ様の発表にし、一部を領に納めるという形が一番良いと思われます。セレーネ様自身が領に貢献するというアピールにもなりますので」
「じゃあ、そうしよう。後は天気を予報してくれる魔術道具も作りたいんだけど」
「そもそも天候が分かっていれば警戒がしやすいという事ですね。ですが……」
ナタリアは少し考え込む。セレーネが考えている魔術道具が実現可能かどうかを自分の知識を使って考えているのだ。
「観測する対象が多すぎて、【空間探知】でも厳しいと思われます。【座標指定】で空の状況や海の温度を調べるにしても範囲がありますから」
「どの海域が天候に関係しているか分からないから?」
「いえ、関係しているのは、海全体と考えて良いからです。なので、空の状態を確かめるという事しか出来ないでしょう」
「空の状態……かなり直前の変化くらいしか調べられなさそうかな。でも、やらないよりマシ?」
「いくつかのポイントに観測装置を置き、それらから情報を受け取り思考機で分析するという形でしょうか。これでどの程度予測出来るかが問題になりますが」
「うん。分かった。そこら辺も考えながら作ってみるよ。思考機を使うなら、私専用になりそうだね。思考機を作れるのは、私かナタリアくらいだし。後は、錆止め」
「海が近いから魔動車や魔動列車に必要になるかもしれないという事ですね。錆止めに関しては、魔術薬になるでしょうか?」
「あっ……魔術薬だと量産が難しいかな? なるべく簡単なレシピにするつもりだけど」
「魔術薬の調合を出来る人が少ないので、その点で貴重品になりそうですね」
「う~ん……ちゃんと魔術薬を調合出来る人も育てないとね」
「ひとまずは細々と売る形でいきましょう」
「うん。じゃあ、次は道の整備の話ね」
セレーネは、自分が研究する内容をナタリアに伝えた後に今度は整備の話に移る。それを読んでいたようにマリアナが地図を出す。測量した結果の一部を反映させたもので、まだ作りかけだが、街の予定地周辺は描かれているので問題はない。
「魔動列車用にはまた新しい橋を架けるんだよね?」
「はい。こちらも複線にする予定ですので、少し広めの橋になります。こちらの橋を宝光社や魔動車も利用するかという問題があります。如何しますか?」
「う~ん……事故を避けるために別々にしたいかな。出来る?」
「はい。魔動列車の方は国家事業として国から資金が出ますので。そちらを利用して安く済ませるかのお話です」
「う~ん……安全優先で行こう。欲を言えば、歩行者と魔動車も分けたいもん」
「お金がないので、壁を作る事にしましょう」
「そういえば、私達が使った橋は?」
「安全面から作り直しする方が良いと思われます。何度か川の氾濫を受けて、ボロボロになっていますので」
「そんな所を通ってたんだ……そっちの資金って、ルージュ公爵領からも出して貰えないかな?」
「交渉してみますか? こちらの開発計画は閣下もご存知でしょうから、ある程度引き出す事は出来ると思います」
「う~ん……やめとこうか。もうちょっと別のところで頼りたいし」
「分かりました。こちらの橋と同じ場所に架けますので、魔動車の道は、このまま真っ直ぐ伸ばす形にしましょう。駅は街から離したこの辺りで如何でしょうか?」
「どっちにも同じ距離?」
「はい。駅近くで車道に並行する形です。駅から降りれば、道沿いに歩いて街に向かえます」
「う~ん……まぁ、大丈夫かな。整備用の車庫をこっち側に用意出来ないかな? あっ、そうしたら海水浴用に魔動列車が引けないか」
「そうですね……この辺りは、もう少し詰めましょうか。線路を複雑にすると、事故を起こす可能性もありますから」
「う~ん……じゃあ、独自に小さな魔動列車でも作ろうか。ある程度の作り方は知ってるし」
「小さな魔動列車……実際可能なの?」
「積載量が限られるけれど、出来なくはないと思う。人の移動用……海水浴なら荷物も少ないだろうし。ジェニファーに設計を依頼してみては如何でしょうか?」
「でも、複線で忙しそうじゃない?」
「街が出来るまでは、海水浴など考える必要もありません。その頃には複線化もジェニファーの手から離れると思います」
「まぁ、他の職人がやった方が良いもんね。取り敢えず今決める事じゃないか。そういえば、輸送用の魔動列車の駅は?」
「そちらは考えている最中です。どこから伸ばすかという問題がありますので」
「そっか。なるべく普通の魔動列車の駅と被らないようにね」
「はい。心得ています」
こうしてセレーネが砦で開発するものの内容が決まっていった。定期的にマリアナが確認事項を報告しに来るが、それ以外は現状やる事はない。ここから王都に転移して戻っても大きな問題はないが、新しい領主が与えられた領地から離れて放置しているという状況は外聞が良くない。
寧ろ、領地の中で発展に向けて行動しているという方が良いのだ。それを理解しているため、セレーネも文句を言わずに砦内での研究を始める事にした。




