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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
領主

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聖域の視察

 セレーネを乗せた魔動車は、真っ直ぐ聖域の方へと向かっていた。


「マリアナ。どこまで近づいて良いの?」

「ここら辺までかな。後はセレーネ様と二人で行くから、カノンとベネットはここで待機しておいて。暇なら近くにいる魔物を狩って肉にして」

『…………』


 マリアナは、当然の如くそう言うので、カノンとベネットは何とも言えない表情をしていた。


「さっきセレーネ様が肉の提供を約束されたでしょ? なるべく早く実現しておいた方が印象が良いの。セレーネ様のためならカノンはやるでしょ? じゃあ、お願いね。セレーネ様。聖域の案内をします。離れずに付いてきてください」

「うん。じゃあ、また後でね」

「はい。お気を付けて」


 セレーネはマリアナの隣に並んで聖域に向かって行く。


「あの森が聖域?」

「はい。その奥に泉があります。水質などは問題ない事を確認しております」

「一応、そこまで私は入って良いんだよね?」

「はい。管理人として定期的に確認する必要がありますので」


 森に踏み込んだセレーネは、唐突に空気が変わったのを感じ取った。


「何か変な感じだね?」

「そうでしょうか? 私には普通の森に思えますが」

「そうなの?」

「はい。真祖とハーフエルフでは、感じ取れるものが違うのでしょうか。どちらかと言えば、私の方が森に関連しているはずですが……」


 森に近い場所で住んでいる事が多いエルフの方が森に関連していると考えられるため、マリアナはセレーネだけが感じ取っている理由に心当たりがなかった。ただし、予想する事は出来る。


「セレーネ様はユニコーンに好かれているという事でしょうか」

「好かれるような事をした覚えないけどね。初対面だし。大丈夫かな?」

「拒絶されているような感覚でしょうか?」

「ううん」

「では、問題ないでしょう。このまま泉まで真っ直ぐ向かいます」

「うん」


 セレーネが拒絶されていると感じないのであれば問題はないだろうと考えたマリアナは、セレーネを先導する。セレーネは不思議な感覚を覚えながら付いていく。そのまま十分歩いていると、小さな泉が見えてきた。その泉は底まで透き通った綺麗な泉だった。


「綺麗……」

「この泉を綺麗な状態で保つというのも重要なようです。定期的にスピカに浄化してもらいますが、これが基準とお考えください」

「は~い。ところで、汚した事はあったの?」

「いえ、その記録はありませんでした。というよりも記録そのものが杜撰でした。なので、過去にあった可能性はあります」

「そう。う~ん……ねぇ、マリアナ。先に帰っていて」

「…………畏まりました」


 マリアナは拒否しようとしたが、セレーネが感じているものの事もあり、セレーネを一人にする事で何かしらの情報を得られる可能性を考えて承諾した。マリアナが去っていくのと同時にセレーネは泉に近づく。


「特に何もないのかな……」


 セレーネは泉の水に触れる。それと同時に泉を挟んだ正面に真っ白な毛のユニコーンが立っていた。ユニコーンの額からは三十センチ程の角が生えている。


「本当にいた……」


 セレーネはゆっくりと泉から手を離して立ち上がる。ユニコーンを刺激しないように、その場で立ち続けていた。ユニコーンも同様に立ったままでいる。


(えっと……どうしよう……)


 ユニコーンに会う事は出来たが、無闇に刺激する事は出来ないため、セレーネは動こうにも動けなかった。ユニコーンは、泉を回ってセレーネの元にやって来る。


(あの角に刺されたら、さすがにヤバそう)


 セレーネは、ジッとユニコーンの目を見続ける。すると、ユニコーンが頭を下げる。反射的にセレーネも頭を下げた。互いに頭を下げたあったのち、ユニコーンは去っていく。


(う~ん……よく分からない)


 ユニコーンの考えが読めないセレーネは、取り敢えずカノン達の元に帰る事にした。セレーネが歩いていると、森を出る少し前のところで、マリアナと合流する。


「カノンのところにいても良かったのに」

「私が殺されます。如何でしたか?」

「ユニコーンに会ったよ。取り敢えず、頭を下げあって終わった。問題ないかな?」

「仮に拒絶されるとすれば、殺されるという可能性の方が高いかと思われます。互いに挨拶を交わす事が出来たのなら、良好な関係になるかと思います」

「そっか。でも、なんで私の前には姿を現したんだろう?」

「そればかりは分かりません。今後分析していく形にしましょう」

「うん」


 二人で揃って森から出ると、カノンが大型の牛型の魔物を解体していた。


「お嬢様。ベネット代わって」

「おう」


 カノンは、ベネットに解体包丁を投げ渡して解体を交代し、セレーネの元に向かう。


「ご無事ですか? お怪我などは?」

「ないよ。ユニコーンに会った」

「それは……」


 カノンは、マリアナの方を見る。首を横に振ったマリアナを見て、マリアナは見ていないという事を察する。そこからマリアナがセレーネを一人にした事も察するが、それはセレーネが望んだ事だろうという事も把握している。


「何もされていませんか?」

「うん。挨拶しただけ。特に何もないよ」

「そうでしたか……ひとまず、これからはスピカかマリアナを連れて離れないようにしてください。ユニコーンが必ずしも味方とは限りません」

「大丈夫そうだったけど」

「今回は……です。いいですね?」

「うん。分かった」


 カノンは、セレーネの身を第一に考えてユニコーンとの接触を最小限に抑える事にした。ユニコーンが、本当に話にあるような存在なのかも分からないからだ。


「それにしても、何故お嬢様にだけ姿を見せたのでしょうか?」

「分かんない」

「疑問は残りますね。ひとまず砦に戻りましょうか。マリアナ、ここからは何もないでしょう?」

「今日の予定は全部終わったから何もない。後は砦の中の案内くらい」

「との事ですので、魔動車にお乗りください」

「うん」


 カノンは、ベネットの元に向かい解体した肉を【空間倉庫】に仕舞っていく。その間にセレーネとマリアナは魔動車の方に向かって乗り込む。カノンとベネットを待っている間、セレーネは聖域のも森を見ていた。すると、木々の隙間からセレーネの方を見るユニコーンと目が合う。


「あっ、マリアナ。森にユニコーン」

「え?」


 書類を確認していたマリアナが森を見ると、そこにはユニコーンの影も形もなかった。


「マリアナが顔を上げる前に察して逃げた……」

「本当に見られるのが嫌いな動物みたいですね……ここを治めていた歴代領主もユニコーンの姿は見ていないので、セレーネ様が初なのかもしれませんね。ますます理由が気になりますね……吉兆だと良いのですが」

「聖獣なのに凶兆とかだったら嫌だけど」


 そんな会話をしていると、肉を仕舞い終えたカノン達が戻ってくる。そうして、視察を終えたセレーネ達は砦へと戻っていった。

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