屋敷建設の視察
魔動車で三十分ほど移動していると、セレーネの視界に小高い丘と壁が見えてきた。
「あの壁が私の家?」
「はい。現在は壁を建設しながら屋敷の建設もしております。敷地の広さはセレーネ様も通っていらっしゃった学園に近しいかと」
「大きすぎない?」
セレーネはかつて通った学園の広さを思い出していた。全てを回った事はないが、それでもかなりの広さだったので、それに近しい広さをしているという事で、さすがに家の敷地としては広すぎるのでは思っていた。
「あの敷地の中でも魔動車などで移動した方が早いでしょう。ですが、セレーネ様の執務用の建物及び私用の屋敷、セレーネ様の私用の実験場を考えると、このくらいの大きさが必要です」
「外の平原を使って良いんじゃないの?」
「お嬢様の実験はあまり人の目に触れない方が良い事がありますので、そちらの実験に関してかと」
「ふ~ん……ゴーレムとか?」
「はい」
カノンの考えにセレーネは納得した。セレーネの実験は、危険ではないが安易に真似をされると危険な事になりかねないものがある。そういった事を防ぐための私用の実験場となっている。
「屋敷にも実験室があるし、何でもやり放題だね!」
「カノンが怒ると思うぞ」
「自重しながらやり放題だね!」
ベネットのツッコミに本当にそうなりかねないと思ったセレーネは訂正していた。そんなセレーネに、カノンは内心苦笑した。
「セレーネ様のお屋敷は基礎工事を終えて、本格的な建設に入ったところです。セレーネ様には、図面通りかの確認と外周を囲う壁の厚さの確認をお願いします。その後、街の敷地予定地及び学術都市の敷地予定地を確認して頂きます。領内の確認は明日に予定しております。そちらもカノンの運転とベネットの護衛が付きます」
「聞いてた?」
「いえ、マリアナから連絡はなかったので」
「セレーネ様の護衛兼お付きメイドなんだから、一緒に付いてくるでしょ? ついでに運転して貰おうって事」
「使えるものは使うっていうのは変わらないところね」
カノンは呆れ混じりにため息をついた。だが、実際にカノンが付いて行ける場所には付いて行くつもりではあったので、運転くらいは問題なかった。
建設中の屋敷の近くに着いて、セレーネ達は魔動車から降りて視察に向かう。建設作業員達が膝を突こうとするので手で制した。
「気にしなくて良いから。作業を続けて。工期が遅れる方が困るから」
「セレーネ様の言う通りにしなさい」
セレーネの言葉に少し困惑していた建設作業員達にマリアナがそう言う事でようやく作業を再開した。セレーネとしては工期の心配があるので、自分が来たくらいで一々手を止められる方が困るのだった。
「屋敷広いね」
セレーネは図面で見たイメージよりも広く感じて見回していた。
「図面通りに進んではいます。問題はありますか?」
「う~ん……配管工事もしっかりと出来てるみたいだし、特に問題はないかな。下水道の方はちゃんと作ってるの?」
「はい。現在ナタリア主導で下水に流れる汚物のみを排除する魔術陣を開発して貰っています」
「自動で処理して、綺麗な水にして川に戻すみたいな?」
「はい。既に川までの道も作っています。川の視察は明日の領地内の視察の時に」
「うん。分かった。図面通りなら良いかな。よろしくね」
『うす!!』
セレーネの声掛けをすると、建設作業員達が一斉に返事をした。
(元気だなぁ)
セレーネはそう思いながら屋敷の建設を横目に壁の方へと向かう。壁の厚さは大体三メートル程。かなりの分厚さがあった。
「こんな厚いの?」
「防衛を考えて、この厚さにしています。内部は魔術に対する防御を強めるように加工しています。この辺りはナタリアが監修していますので、問題はないと思います」
「それって、ナタリアが手を加えないでも大丈夫?」
「はい。その辺りが出来るだけの人材を用意しました」
「そっか。壁の内部は全部埋めるの?」
「はい。下手に内部に穴を空けると強度の問題がありますので。点検は一ヶ月に三回。点検員は固定せずに複数人用意します」
「うん。同じ人にすると工作員が来るかもしれないからね。結構時間が掛かりそうだね……定期的にお肉の差し入れとかした方が良いかな?」
「そうですね……近くにいる魔物を狩った際に得られる肉の一部こちらに渡しましょう」
『うおおおおおおおお!!』
建設作業員達が雄叫びを上げる。肉体労働に従事する男達にとって肉という栄養は必要不可欠のものだった。通常の配給以外にもそれを食べられるというのは、建設作業員達の至上の喜びだった。
「それじゃあ、魔物が狩れたらこっちにも送るね。ちゃんと焼いて食べないと駄目だよ。後、衛生的にね。簡易シャワーとトイレがあるから大丈夫だと思うけど、皆が病気になるのが一番駄目だからね」
『うす!!』
ナタリアが魔術道具として作った簡易シャワーとトイレが設置されている。排水などは闇魔術による消滅される仕組みになっている。通常は下水道を使っている。誤って何かを流してしまった場合に取り返しが付かなくなるからだ。そのためにナタリアが汚物のみを条件として闇魔術の対象にする魔術陣を開発しているのだ。
「それじゃあ、大丈夫かな。定期的に視察に来るから、しっかりと仕事するようにね」
『うす!!』
セレーネは建設作業員達に手を振って魔動車に戻っていく。次の視察として聖域へと向かっていった。そんな魔動車を見送った建設作業員達は手を動かしながら口を開く。
「あの子がここの領主なのか」
「まだ子供だったな」
「だけど、普通に良い子っぽいじゃないか」
「噂では姫様と婚約しているらしい」
「ほう……」
「俺達の事も考えてくれる貴族なんて、かなり少ないぞ
「だが、仕事には厳しそうだったな」
「ここは手抜きなんてやっていられないな」
「俺達で良い屋敷を作ってあげようじゃないか」
セレーネが直接視察に来て、ごく当たり前に声を掛け、自分達のために肉を送る事や健康状態の心配などをされたため、建設作業員達はセレーネへの敬意を持つようになっていた。
セレーネの人柄を知ったマリアナは、カルンスタイン卿としてのセレーネの印象を向上させよう考えて、直接視察を行わせていた。そして、その目論見はしっかりと成功していたのだった。




