家族となる四人
リーシアとはここで別れて、セレーネは自分の部屋に戻る。ミュゼルがベッドで横になっていたが、ユイは普通に椅子に座り、メイはミュゼルの介護をしていた。
「ユイとメイは大丈夫なの?」
「疲労感と倦怠感はあるけれど、大丈夫よ。血を抜かれすぎたみたいな感じね」
「私も問題ありません。この度は、私の我が儘を聞いて頂きありがとうございます」
「ううん。ユイに一生を掛けて仕えたいんでしょ? その考えはルリナと一緒だもん。断る理由はないよ。取り敢えず、ミュゼルの荷物をミュゼルの部屋に運んでおくね。ミュゼルは、もう少し休んでて」
「ご、ごめんね……」
「良いって。眷属化は皆痛がってるもん。仕方ないよ。カノン、行くよ」
「はい」
セレーネはカノンを連れて、ミュゼルの部屋へ移動する。そこに日常生活で必要なものをゴーレム一号とカノンで運び込んでいく。
「他の荷物は大丈夫ですか?」
「後はドレスとかだから、必要になれば出す形で良いと思う。引っ越しもする事になるし、基本は仕舞っておくよ。明後日の叙爵式にはミュゼルは出席しないから。この前よりも重要なものだけど、この前と状況が違うから規模縮小だって。陛下もすぐにレッドグラスに帰るし」
「そうでしたか。この状況では仕方のない事でしょう。いち早く国を安定化させるためにもお嬢様には早めに領を治めて頂きたいという事でしょうか」
「そうじゃないかな。まぁ、大きな式じゃないのは嬉しいけどね。面倒くさいし。ドレス着るの」
「せっかくお綺麗ですのに」
「動きにくいもん」
そんな会話をしている間に荷物の整理が終わったため、セレーネ達は部屋に戻っていく。すると、部屋の扉前にメイド達が集まっているのが見えてきた。
「何してるの?」
セレーネが声を掛けると、メイド達はセレーネの頭を撫でていく。
「ミュゼル様がいらっしゃったと聞いて様子を見に来たのです」
「専属メイドがいらっしゃらないという事ですから、私達が交代でお世話する事になりますので」
「緊張していらっしゃらないか心配ですから」
「お姫様の着付けもしっかりとやらなくては」
「おやつは何がよろしいでしょうか?」
「セレーネ様がご結婚なさるお相手という事で、私達も慣れなくてはいけませんから」
メイド達が口々にそう言っていく。そう言いながらセレーネを愛でるのは止めない。
「取り敢えず、あまり困らせないようにね。割と人見知りだから。おやつは私と同じもので大丈夫だよ。基本的に出されたものを食べてたから。気になるなら好き嫌いを確認しておいて。後、お仕事に戻らないとカノンが怒るよ」
『は~い』
セレーネの横にいる笑顔のカノンを見て、メイド達はそれぞれの仕事に戻っていく。そもそも仕事の大半を終わらせているので、ここにいるのだが、あまりにも寄り道を長くするとカノンが怒るので、全員即座に戻った形である。因みにセレーネ関係の寄り道であれば、ある程度許される。この屋敷の主はセレーネであるためだ。
「全く……」
「皆わくわくしてたもんね。遊びに来てたミュゼルと結婚する事になったって聞いて」
「だからと言って寄り道を続けて良いという事にはなりません。屋敷の家事メイドとして雇われているのですから。ひとまずメイさんを中心にミュゼル様のお世話をしていこうと考えております。顔見知りが一人いれば、ミュゼル様も少しは気楽になると思いますので」
「うん。それで良いよ。じゃあ、私は部屋にいるから」
「はい」
セレーネが中に入ったのを見てから、カノンも自分の仕事に戻っていった。
部屋に入ったセレーネは、マリアがメイに色々と教えている姿を目撃した。
「マリアが先輩みたいだね」
「実際、この家の中だと先輩よ。ルージュ公爵家の屋敷とここの違いとかも説明しないと、メイさんも動きにくいだろうからとカノンさんがマリアに頼んだのよ」
「そうなんだ。ん? おわっ!?」
フェリシアから説明を受けていたセレーネは背後から圧を感じてそちらを見る。直後に、背後に忍び寄っていたクロがのし掛かった。
「ク~ロ~……今日は甘えたい日なのかな? この甘えん坊め!」
のし掛かるクロをセレーネは大きく撫で回す。クロは嬉しそうにセレーネに頬ずりしていた。それを見ていたユイとミュゼルは、若干戸惑いながら見ていた。
「クロのじゃれつきって、結構凄いわね……」
「で、でも……クロちゃん可愛いよ……」
「それは知っているわ。あの子と遊んだ事はあるもの。あそこまでのじゃれつきは見た事がなかったけれど」
「そ、そうだね……」
そんな会話をセレーネはクロを撫でながら聞いていた。そして、一つ思い付く。
「クロ。ユイとミュゼルが撫でてくれるって」
「にゃ~?」
クロは本当なのかというように首を傾げてセレーネを見る。セレーネはそんなクロの喉元などを撫でながら頷く。
「うん。目一杯撫でてくれるよ」
「にゃ!」
クロは一目散に二人の元に向かうと二人に頭を押し付けていく。二人は押しの強いクロに戸惑いながら撫でていた。メイは少し驚きながらもユイとミュゼルに怪我などがない事を確認し、見守る事にした。クロに悪意などが一切ない事は、メイも知っている。ユイがこの屋敷に遊びに来る際には絶対にお供をするため、そのくらいにはメイもクロと接しているからだ。
「そういえば、叙爵式の準備は大丈夫なのかしら? ドレスも新しいものを着るのでしょう?」
「あぁ……うん。侯爵令嬢としてじゃなくて、新しい家主と領主として相応しい格好をする必要があるらしいよ。まぁ、元々持っているドレスで大丈夫そうだから、準備をする必要はないかな。カノンが判断してくれてるから大丈夫だと思う」
「そう。なら大丈夫そうね。今回はパーティーもないらしいから、少しは気楽かしら?」
「う~ん……まぁね。そもそも式直前に【空間転移】で陛下とお父様を迎えに行かないといけないから、色々と変な感じなんだよね」
「そればかりは仕方ないわね。【空間転移】を使えるのはセレーネだけだもの」
「むぅ……次からは専用の空間転移装置でも設置しようかな……」
「王城が襲撃し放題になるわよ……」
「そこは大丈夫。条件起動を使うから。お父様とお母様から許可を貰って別邸には置くつもりだよ。向こうの領と繋げるために。これで帰省し放題!」
「許可を得ているのなら良いけれど、変な所に設置しちゃ駄目よ?」
「うん。部屋の一室を貰うから大丈夫。これがあれば、お父様達も移動しやすいからね。諸々の仕事上、ナタリアも使うと思うけど」
「まぁ、そうね。基本的な窓口になるものね。そうだ。一つ伝え忘れていたわ。私も総合研究室に所属する事になったから」
「そうなの? まぁ、向こうにいたら総合研究室にいた方が良いのか。どうせ、総合研究室だから属性研究も出来るし、連絡手段を確保したら協力出来るしね。普通に領からこっちに通っても大丈夫そうだけど」
「それはそうね……でも、私はセレーネの夫人……夫人っていうのも何か変よね?」
「妻で良いんじゃない?」
「妻として、色々とやらないといけない事があるもの。研究員としてだけ活動出来ないわ。分担しないと、セレーネも研究出来なくなるわ」
「それは嫌だなぁ……ただでさえ研究時間減らされるのに」
「まぁ、領主として仕方ないわね。そのための私達とでも考えておきなさい」
「えぇ~……」
「そういえば、補佐官とは会ったのかしら?」
「ううん。正式に爵位を貰ったらって話。だから、明後日以降かな。私の知らない人だと思うから、仲良くやれるか微妙だよね」
「若い優秀な人って話よね?」
「そうだね。さすがに、私達くらいはないと思うけど、カノン達くらいはあり得るかな」
「カノンさん達と同期だと優秀そうと思えるわ」
「カノンの世代って頭良い人多いもんね。そこで次席を取るカノンが改めて凄いと思うよ」
「そうね」
セレーネとフェリシアがそんな話をしている間に、ユイとミュゼルはクロに寄り掛かって眠っていた。それを見たセレーネとフェリシアは互いに顔を見合わせて笑い合う。これから家族としてやっていく四人。その道程に険しさは見当たらなかった。




