結婚の話
街作りの話を終えた後は、また別の話が始まる。セレーネ達の結婚の話だ。
「セレーネとフェリシアが了承した事で、婚約の話も表に出す事になった。ミュゼルの婚約という事もあって、話題になるだろうが、そこは我慢してくれ」
「はい」
「民達からみれば、ただの政略結婚に見えるだろう。王家と公爵家がセレーネとの縁を作ろうとしているという形だ。そもそもセレーネがフェリシアと婚約している事からセレーネの恋愛対象が女性という事が知られている。そこから自分達の娘を出すという発想に至るのに時間は要らない」
「何かこっちでアピールする必要があるとかですか?」
「いや、外での噂がそうなるだろうという事だ。貴族同士の結婚なら普通の事だが、何かしら言ってくるような輩が出てこないとも限らない。そこは覚えておいてくれ」
「他人の結婚に文句を言うような輩が出るんですか?」
ミュゼルの身内やユイの身内が何かしらの苦言を呈する事は、セレーネにも理解は出来る。貴族社会において子というのが重要になってくる事を知っているからだ。重要になるのは跡継ぎ問題である。ただし、これは通常の人間の話。真祖であるセレーネには大して関係のない事だった。セレーネの家に入る以上、王族としての子作りも関係ない。
この事からガンドルフ達やリンド達が文句を言わないのであれば、他の誰も文句を言う権利など無いのではないかというのが、セレーネの考えだった。
「世の中色々な人間がいる。王族が結婚する事に対して、家柄で文句を言う者もいる。自分の娘でもないというのに、その嫁ぎ先は駄目だと主張してくる者がいる。これまでもいた」
「傍迷惑ですね」
「本当にな。ましてや、相手に何か問題がある訳でもない。俺の姉や妹も似たような事を言われていた」
「そういえば、レフィーリア様はご結婚なさらないのですか?」
セレーネは王城にいたレフィーリアが第一王女という事を聞いているので、ミュゼルが先に結婚する事でよいのかという疑問もあった。
「レフィーリアの嫁ぎ先は決まった途端に破綻した。これも貴族主義関係だ」
「つまり、前に粛正された家が嫁ぎ先だったという事ですね」
「その通りだ。そこから婚約には慎重になっていてな。次の婚約先を探している最中に、この事件だ。レフィーリア自身も自分が呪われているのではと落ち込んでいる。ユイの二個上の第二王女のイリステラは、婚約者も決まっていてそろそろ結婚というところなんだがな」
「そうなんですか。イリステラ様は、こちらに?」
セレーネは、王族全員と顔を合せてはいるが、互いに自己紹介をしている訳では無いので、イリステラが救出した中にいるのかも知らなかった。
「ああ。セレーネの義姉になるからな。挨拶でもしておくか?」
「そうなると王族の方々全員にもう一度挨拶しなくてはならないのでは?」
ミュゼルと結婚する以上、セレーネにとって王族は義兄義姉義妹になる。そのためガンドルフの理論でいけば、挨拶するのはイリステラ以外の王族に対してもという事になる。
「それもそうだが、ミュゼルと結婚しなくてもセレーネの義姉になるぞ?」
「んん? …………あっ……お兄様!?」
セレーネはミュゼルとの結婚以外で義姉になる可能性を考えて、兄であるライルを思い出した。
「正解だ。今後クリムソン家との繋がりを強化するためにライルとイリステラの結婚を決めた。二人とも夜会などで何度か会話も交わしているからな。特に問題なく決まった」
「えぇ~……知らなかったです」
「数週間前に決まったからな。ライル自身優秀だったために騎士団での仕事で長く王都外での勤務が多くなっていたからな。結婚するにも落ち着きがない状態では厳しいものがあった。そもそもライルとイリステラの結婚は大分前から考えてはいたがな」
「へぇ~……姉妹で同じ家に嫁ぐっていうのは……あっ、私はほぼ独立するから関係ないか……」
姉が兄に妹が妹に嫁ぐというのは、少々複雑に感じていたセレーネだが、自分はクリムソン家からほぼ独立して領を持つので、そこまで気にする事でもないと結論付けた。実際には姉妹で兄妹に嫁ぐのは変わらないのだが、この辺りはセレーネの認識の問題だった。
「まぁ、そうだな。後は、結婚までの運びだが、セレーネとフェリシアが十八歳になる年に結婚する……つまりは来年だな。その年に結婚する事にする。式自体は王城内で行う。ミュゼルがいる事に加えて、全員が貴族の娘という点から王城内で出来る。挙式はスピカに執り行って貰うように要請を出す予定だ。それが一番良いだろう」
「結婚式には、それぞれの関係者しか呼ばない。呼びすぎれば、ミュゼルが青い顔をするからな。セレーネは家の者以外に呼びたい相手はいるか?」
「先生……レイアー・アプリコットを」
レイアーはセレーネにとって絶対に結婚式に呼びたい対象だった。テレサなどは家族なので問題なく出席出来るが、レイアーに関しては違う。招待状を用意して呼ばなければならない。
「ふむ。名前は聞いた事があるな」
「現在、学園の教師を務めている魔術研究所の研究員です。セレーネの家庭教師と学園内での担任を務めていました」
「なるほど。セレーネの恩師という訳か。それなら招待するべきだな。こちらで招待状を出そう。王城で行う以上、招待はこちらからした方が良い」
「なるほど」
王城を式場にする以上、セレーネが招待するよりもガンドルフがミュゼルの親族として招待状を送った方が要らないトラブルを生みにくい。そのためにガンドルフが用意する事になった。
「後はナタリアとかベネットくらいですけど、ナタリアは普通に来られますよね?」
「そうだな。ベネットも呼ぶ事にしよう。警備としても使えるだろう」
「結婚式でも仕事ですか……」
「あいつは言われないでもやるだろう」
ガンドルフの言葉に、セレーネも頷いてしまう。根っからの性分であるので、この辺りの信頼は強い。そんな話をしていると、セレーネは一つ気付いた事があった。
「そういえば、ユイの傍付きメイドとしてメイが来ますよね? メイも眷属にする可能性があるんですが、リンド様から問題などはありますか?」
「いや、当人が望むのならそうしてやってくれ。恐らく、ユイに一生仕えるつもりだろう」
「分かりました。念のためもう一度お伝えしておきますが、私が死ぬと眷属は全て死んでしまうので、その辺りも考慮にいれておいて頂けると幸いです。それと私は一度も見掛けていないのですが、ミュゼルの傍付きメイドは……」
「いない。王族のメイドは定期的に入れ替っているというよりも何人かでローテーションを組んでいる。王城勤務のメイドが常に同じとは限らないからな。そういう点でこちらから専属メイドが行くという事はない」
「分かりました。うちにはカノンがいるので大丈夫だと思います。取り敢えず、来年までは婚約者として傍にいるんですよね? いつ頃から行動を共にすれば?」
「一週間後から頼む。ミュゼルにも準備はさせている」
「ユイも同じだ」
「じゃあ、一週間後には眷属にしてしまいますが、問題ありませんか?」
「ない」
「こちらもない」
「では、そうします」
こうして結婚に関する話も順当に進んで行き、ユイ達の眷属化への許可も再度確認する事が出来た。セレーネの生活は、また変化していく。




