街作りに関して
翌日。リンドと共にレッドグラスに転移してきたセレーネは、ガンドルフ、ラングリドと共に会議を行っていく。
「さて、まずはセレーネの質問を受けよう。昨日送った資料から質問はあるか?」
「聖獣の住処に関して聞きたいです」
「ああ。元々は反逆者側の貴族が管理していた場所だ。聖獣に関しての知識はどの程度ある?」
「スピカから聞いたので、ユニコーンである事と目撃情報もなくなり、聖獣という存在そのものがあまり認知されなくなっているという事は知りました。事実、私も知りませんでした」
セレーネの答えに、ガンドルフは満足げに頷く。
「その通りだ。今では知っているのは、一部の貴族と王族くらいだろう。ラングリドも聞いた事がなかったくらいだ」
「そうなの?」
「ああ。クリムソン領にはないからな。基本的に領内になければ知らない貴族も多いだろう。他の領の全てを知っている訳でもないからな」
「なるほど。それで管理の方法なんですけど、一応資料は頂けるという事で大丈夫だとは思うんですが、具体的に気を付けないといけない事を教えて欲しいです」
「そうだな……まずは森の木を切りすぎない事を重視してくれ。具体的な範囲は資料にある。ユニコーンは泉近くに住んでいるとされているが、その周囲には森が必要だ。そして、必要以上の伐採をユニコーンは嫌う。まぁ、俺も見たことはないが」
「リンド様はあるんですか?」
「ないな」
ガンドルフ、ラングリド、リンドが見た事ないという事で、セレーネは本当にユニコーンは生きているのか疑問に思っていた。だが、目撃情報がないという事がそのまま絶滅したという事に繋がるとも限らない。生息域の変化などが起こっている可能性もあるので、こうした棲息地の確保しておけば、いずれ戻ってくるかもしれないというのが国の方針だった。
「出来れば、セレーネには直接泉の水質調査もして欲しい。領主であるセレーネが行う方が一番安全だろう。後は、スピカを連れて定期的に清浄してくれ」
「分かりました。でも、スピカを連れて行っても良いんですか?」
「聖女なら大丈夫だろう」
若干微妙な理由だったが、聖女という存在を考えればある程度納得は出来るものだった。
「この聖獣の住処である聖域の管理は特殊な仕事として、他には辺境伯としての仕事が大きい。ないとは思うが海からの侵攻を防いで貰う。セレーネに自身の戦闘力も加味した判断だ」
「私自身の戦闘能力は、カノンにも劣りますよ? 複合魔術が凶悪なので強そうに見えるだけです」
「セレーネが行けばカノンも行く。まぁ、そもそもセレーネに前線に出て貰おうとは考えていない。騎士団からベネットを出すつもりだ」
「ベネットを? 騎士団の最大戦力と言っても過言じゃないと思うんですが」
セレーネから見たベネットは、騎士団の中でも飛び抜けて優秀な騎士という印象だった。そのためこのまま中央の王都にいさせた方が良いのではと考えている。先の反逆の際も最も多くの戦果あげていたのはベネットだった。
「騎士団を甘く見るな。ベネットが抜けた穴はすぐに埋められる。それよりもこれはベネット自身の懇願でもある。セレーネが辺境に行くのなら、その街は自分に守らせて欲しいとな。こっちから頼むつもりが、向こうからの願いになってしまった。どちらも同じ考えという事で、ベネットで決まったわけだ」
「なるほど? まぁ、陛下が良いのであれば、私も良いですが」
王都の守りに関してはガンドルフが一番重要性を理解しているはずのため、セレーネはガンドルフの考えに従う事にした。
「残りは街の建設だ。昨日の手紙には書かなかったが、学術都市を築いて欲しい。これは前にも話した通りだ。基本的に草原となっているが、海の近くに砦がある。そこには騎士が常駐している。しばらくは砦に住みながら、街を作っていく形だな」
「本当に一からなんですね」
「すまんな。元々管理していた街はかなり離れている。被害を嫌ったからだろう。いや、そもそも海からの侵略者など来ないと思っていたのかもしれんな。そのおかげと言うべきか、せいと言うべきか平原は異常に広い。魔物が出る程にな」
「ああ、なるほど。魔物を減らしつつ、侵略者への備えを用意して、辺境も発展させていくみたいな感じですね」
「その通りだ。土地は多くある。聖域に干渉しなければ、広く使ってくれて構わない。セレーネも実験が出来る方が良いだろう?」
「つまり、私の実験に広い土地を使って良いと?」
「ああ。寧ろ、そのつもりの提案だ。セレーネとナタリアの研究は国益にも繋がるものが多い。それなら王都の狭い土地ではなく辺境の広い土地を利用させる方が良いと判断したわけだ」
セレーネに領地を与えようと考えた理由の一つが、これだった、セレーネが大規模な研究をする事になれば、それだけ大きな土地が必要になる場合がある。そして、セレーネの研究は物流や連絡に革命をもたらすものがあり、それが国益へと繋がる事が多い。
国の利益となる可能性が高いためにセレーネが自由に扱える土地である領地を与えたという事が大きかった。その分仕事が増えてしまうが。
「なるほど。そんな大規模な実験するか分からないですけど、お言葉に甘えます。その前に街作りが忙しそうですが」
「そうだな。一流の職人を用意している。セレーネの屋敷の図案は、ほぼほぼ出来上がっているぞ。確認するか?」
「はい」
セレーネが返事をしたので、ラングリドが図面をテーブルに広げる。セレーネはそれを隈無く見ていく。
「何か大きくない? 本邸よりも大きい気がする」
「その通りだ。本邸の二倍はあるな。セレーネとフェリシアの実験室があるというのもあるが、それ以上に見栄が大きい」
「見栄?」
「ああ。簡単に言えば、ミュゼル様の婚約者が小さな家に住んでいるというのは、外聞が悪くなる可能性がある。そういう点を考慮した形だ。後は、セレーネの眷属が多いからな」
「あ、なるほど」
セレーネの眷属は、カノン、フェリシア、マリア、テレサ、ルリナ、スピカがいる。ここにユイとミュゼルも追加される。この全員が住めるようにし、フェリシア、テレサ、ユイ、ミュゼルの四人の部屋はある程度の広さを確保しなければならない。更には客室もいくつか用意する必要がある。
ミュゼルという王族の婚約者に加えて、この理由があるためにクリムソン家本邸よりも遙かに大きなものになってしまうのだった。
「じゃあ、住み込みメイド達の宿舎も用意したいな」
「同じ敷地内という事だな。そっちはそっちで設計が必要だ」
「通路で繋いで欲しいな。雨降ったら濡れちゃうし」
「セレーネは、使用人達への愛が強いな。考慮しよう」
ラングリドは、設計図にセレーネの要望をメモしていく。
「後、リーナ達の月の桜桃をこっちに移動させても良い?」
「現状は王都の名産品になっているが、製造元がセレーネという事も考慮すれば、こちらの名産品にするのが良さそうだな。店の方の引き払いは出来るか?」
「リーナが出来るので大丈夫かと」
「なら、問題はないな。産業としてあった方が良いだろう。移民の希望者を集めるのは、街がある程度出来てからになる。セレーネは【空間転移】があるからな。要望を出したくなったら来てくれ」
「はい」
セレーネには【空間転移】があるため、こうした要望を出すために伝令を走らせる必要もなく直談判する事が出来る。そういう点では、他の貴族よりも新しい街作りに向いていると言えるのかもしれない。




