二人の婚約者
お茶を飲んで一息ついたセレーネは、一つ気になる事を思い付いた。
「そういえば、今回の騒動で大分貴族が取り潰されるでしょ?」
「う、うん……そうだと思う……」
「ユイとかミュゼルが婚約してる家は大丈夫なの?」
反逆に参加した貴族は完全に明らかになっているのだが、セレーネは二人の婚約者がどの家の人物かは知らないので、今回の騒動で流れてしまっていないか気になったのだった。
「えっと……何も聞いてないの……?」
「ん? うん。正直どの家が取り潰されたとか興味ないし。二人の婚約者も知らないしね」
「えっと……」
ミュゼルは見て分かる程に狼狽えていた。それを見たセレーネは、ミュゼルが自分から口にして良い事なのか分からない内容に踏み込んでいる事を察した。
「ミュゼルから言えない事なの?」
察していながら、そこを追及し始める。その理由は、誰に聞けば分かるのかを探るためだった。
「え、えっと……せ、正式な話じゃなくて……こうするのはどうかって話だから……い、一応、私とユイちゃんの婚約は破棄されたよ……反逆者の家の人だったから……」
「わぁ……結構偽ってる家があるって話だったけど、二人の婚約者になっていた人達もってなると、表面を取り繕うのが上手いって事だね。色々と困りそう。ん? それが言えるなら、言えない話って何?」
「え……? えっと……そのね……まだ決まってないの……」
「うん。正式な話じゃないって言うのはそれね。って事は、誰かしら候補がもう出てるって事か。確かに、候補段階で他人に話すのは良くない事なのかな。次は良い人だと良いね。まぁ、今回も家が駄目でその人自体は良い人だったかもしれないけど」
セレーネはそれ以上の追及をやめる。追及したところで答えは出てこないので、ミュゼルが話せる段階になった時に聞こうと考えたからだ。
「そういえば、貴族が潰れるって事は、そこの領地に空きが出るよね?」
「そ、そうだね……基本的には近くの領が吸収するか、新しい貴族が引き継ぐよ」
「引き継ぐにしても元の貴族が貴族だから、色々と大変そう」
「後は……分割して小さな領にすれば、小さな貴族でも土地を持てるから、そうするらしいよ……」
「ふ~ん……その土地って街が含まれてるの?」
「ううん……無い場所もあったと思う……」
「それって、実質開拓を頼まれてるようなものだよね」
「う、うん……」
「大変そう。今って、実質国の建て直しみたいなものだし、周辺諸国が黙り続けるかも分からないから、余計に考える事がいっぱいだね」
「そうだね」
二人がそんな話をしているところで、扉が勢いよく開いた。ミュゼルは猫のように椅子から三センチほど浮き上がるくらいに驚いていた。扉を開いたのは、第五王女のウルスラと第六王女のミロクだ。二人は双子であるため顔などが大分似ているが、右目の下に泣きぼくろがあるのがウルスラで、左目の下に泣きぼくろがあるのがミロクという点で見分ける事が出来る。
「お姉ちゃんだ!」
「お姉ちゃん!」
セレーネはミュゼルの事を言っているのだと思ってほんわかしていたが、二人が突撃したのがセレーネの方だった。二人でセレーネの膝に乗ってくるので、セレーネは困惑していた。
「えっと……ウルスラ様、ミロク様。お姉ちゃんはあちらにいますよ?」
「ミュゼル姉じゃないもん」
「お姉ちゃんだもん」
二人がセレーネに抱きついてくるので、セレーネは二人が落ちないように腰に手を回して支える。
「ウ、ウルスラ、ミロク、セレーネちゃんが困っているでしょ……?」
「えぇ~……困ってないよね?」
「お姉ちゃんになるんだから良いじゃん」
「ん? お姉ちゃんになる?」
「あっ……!」
子供故の失言に、ミュゼルは慌てる。それを見たセレーネは、ジト目になっていた。その視線を受けて狼狽えるミュゼル。ミュゼルから答えはないと分かったセレーネは、ウルスラとミロクに微笑み掛ける。
「私がお二人のお姉ちゃんになるお話があるのですか?」
「うん! お父様が言ってた!」
「ミュゼル姉と結婚するって!」
『違うの?』
最後の言葉だけは、二人が異口同音にそう言って首を傾げていた。その目には微かに悲しさを感じさせるものが宿っていた。
自分達を危険な状況から助けてくれた事と吐き戻す程の無理をしてでも悪に立ち向かっていく事から二人の中ではセレーネを慕う下地が出来ていた。子供である二人にとって嘔吐は苦しくて嫌なものという認識のため、それを押してでも動くという事に少しだけ格好良さを感じていたのである。
そんなセレーネが自分達の姉になるという話を盗み聞きして大喜びしていた。それがなかった事になるのは、二人にとっては嫌な事だった。
「う~ん……まだ決まった事ではないので何とも」
「ユイともう一人もお嫁さんにするんでしょ?」
「お嫁さんいっぱい。楽しい!」
「わぁ……それも陛下が言っていた事ですか?」
『うん!』
元気に返事をする二人を、セレーネは優しく撫でる。母親や兄姉くらいからしか撫でられないので、普通に撫でてくれるセレーネにどんどんと懐いていった。
そこで扉がノックされる。
「ど、どうぞ」
中には行ってきたのは、ウルスラとミロクの母であるエミリアだった。
「失礼します。ミュゼル……って、やっぱりここにいたのね。セレーネさんもミュゼルに会いに来てくれたのね。ありがとう。この子、ずっとセレーネさんに会いたそうにしていたのよ」
「お、お義母様……」
ミュゼルはエミリアに自分がセレーネを待っていたという事をバラされて慌てていた。
「いえ、私も諸々が終わったら会いに来ようと思っていたので。今日は皆から休めと言われて時間が出来たので来ました」
「そう。確かにあの時からセレーネさんは働き過ぎだものね。ゆっくり休んで。ほら、ウルスラ、ミロク。おやつを作って下さったから戻るわよ」
『やっ!』
「ここが良い!」
「お姉ちゃんと一緒!」
ウルスラとミロクが完全に懐いているのを見て、エミリアは困ったような表情をする。それを見たセレーネは助け船を出す。
「こっちで構いませんよ。サマンサに言って、こっちに持って来てもらいましょう」
「良いの!?」
「やったぁ!」
「本当に良いの? お邪魔じゃない?」
「はい。ミュゼルも良いよね?」
「うん。二人が嬉しそうだから」
「そう? それじゃあ、二人の事は任せて良いかしら?」
「はい。ミュゼルもいるのでお任せ下さい」
さすがに大人のエミリアがいると、ミュゼルもセレーネも気を遣うと考えたエミリアは、二人にウルスラとミロクを任せた。セレーネはベルでサマンサを呼び、二人を膝に乗せながらおやつを食べさせてあげていった。普段はされる側なので、セレーネも新鮮な気持ちで二人の世話をしていた。




