残党捜し
セレーネの【空間探知】に契約魔術の痕跡を持つ者がいなくなり、今度は街の復興作業に移る事になる。王城の爆発や城下町での戦闘もあり、様々な場所でその跡が残っていた。騎士と衛兵を総動員して、破損箇所の確認作業が行われる。
一通りの指示をしたリンドは、【空間探知】で二重にチェックをしているセレーネの元に向かう。
「見逃しはないか?」
「今のところ有りません。ただ、契約魔術を使っていない黒幕がいた場合はどうしますか? この機に乗じて逃げ出さないとも限りませんし、下手に陛下達を戻す事も危険で出来ません」
「ああ。街の出入口の警戒と壁の巡回を増やしている。これから貴族の当主全員に聴取をするところだ。すまないが、陛下や王族の方々をしばらくレッドグラスに滞在させてくれないか?」
契約魔術の痕跡を持っていない反逆者は、セレーネの【空間探知】でも見つける事は出来ない。怪しい動きをしていれば、ある程度分かるが、この事態で何が怪しい行動かは判別し辛いという問題があった。
今回の件は、貴族至上主義の仕業と分かっている。そこから犯人は貴族の立場を持つ者達であろう事は誰でも予想出来た。騎士達は、貴族主義派の貴族達の反逆が成功した暁には取り立てるという約束をしたのだと考えれば協力するのもあり得ない話ではなかった。
貴族に取り立てられれば、それだけ将来が明るくなる。そこから騎士爵を与えられるまでになれば、人生の絶頂と言えるだろう。誰しも裕福で安定した暮らしを求める。反逆が成功すれば、いくらでも自分達を正義と偽る事も出来る。協力するメリットは、確かにあるのだ。
首謀者が貴族という事もあり、まだ契約魔術を使っていない反逆者の貴族がいる可能性は残っている。そのためガンドルフ達を王城に戻すのは、まだ早いとリンドは考えていた。
王城の修理もあるので、しばらくは今の避難場所で公務をするのが望ましいだろうとも考えている。
そのリンドの考えに、少し遅れてセレーネも気付いた。
「私はクリムソンの当主ではないので何とも言い難いですが、お父様にお願いする事は出来ると思います」
「無論協力させて頂きます」
セレーネがラングリドに確認しないと分からないと言ったところで、ラングリドが王城に来た。多少怪我をした跡がある事から家が襲撃されたのだとセレーネも分かる。
「お父様」
「セレーネ。陛下を初め王族の方々を救助した事大義だったな。閣下の提案お受け致します。向こうでの公務の手伝いとして、私もレッドグラスに向かいたいと思います」
「家は問題ないのか?」
「ライルがいますので。家督を継いだ時の良い予行になるかと」
「なるほど。では、存分に使わせて貰う」
「お手柔らかに。セレーネ、私も一緒に飛ばせるか?」
「うん。では、失礼します」
セレーネはリンドに挨拶をして、【空間転移】でレッドグラスのクリムソン家別邸に転移した。転移した先では変わらず、王族の面々が待機していた。
「セレーネ……む、ラングリドも一緒か。という事は、終わったと見て良いのか?」
「八割方と言ったところでしょうか。まだ、残党がいる可能性が僅かにあります。ほとんどは始末し、一部を拘束しました。そこから情報を得られるかというところです」
この件に関してはセレーネの方が詳しく知っているので、ラングリドはセレーネに報告を任せていた。
「そうか。大義であった」
「それと王都の復興と王城の修理が終わるまでは、危険がありますので、レッドグラスにて公務を行って頂きたいです。後程、こちらに同期術式を使った遠距離連絡用魔術道具を設置しますので、王城との連絡が出来るようにはします。後はレッドグラスでの公務中はお父様がサポートします」
「すまない。助かる」
何から何までセレーネ頼りになってしまっていたので、ガンドルフは頭を下げながら礼を伝える。それに合わせて、他の王族の面々も頭を下げる。
「いえ、するべき事をしているだけですので。では、私は向こうでの捜索がありますので、ここで失礼します」
「あっ……」
ミュゼルが止める前に、セレーネは王都に転移した。早く安全な王都にしたいという気持ちが強いからだ。そうでなければ、ミュゼルなども安心して外に出る事も出来ない。
「申し訳ありません。自分でやるべきと思うと止まらない娘でして」
「いや、こちらも助かっている。まだ事態が完全に落ち着いた訳でもない。その時までは少し我慢をしろ」
「……はい」
「ほら、ミュゼル。部屋を用意してくれたみたいだから、そっちで休みましょう。次に会うまでにミュゼルが疲れた顔をしていたら、あちらも心配するわ」
「はい。お姉様」
レフィーリアに連れられてミュゼルは部屋を後にする。他の王族の面々を用意された部屋へと向かって行った。残ったのは、ガンドルフとラングリドだ。
「さて、ラングリド。少し話がある。セレーネの今後にも関わる事だ」
「聞きましょう」
ガンドルフとラングリドが、セレーネに関しては話している時、セレーネは王都に戻って広場へと向かっていた。広場は怪我人達の治療のための救護所となっている。そちらにカノンとスピカがいるからだ。
カノンもセレーネが来ている事に気付いて、即座に出迎える。
「お嬢様……ご無事ではなかったようですね」
カノンはセレーネの胸に小さな穴が空いている事に気付いて、セレーネが刺されるような事態があったのだと気付いた。
「うん。ちょっとベネットとは離れる事になっちゃって」
「本人から聞きました。それはベネットの判断が正しかったかと。剣聖が相手では、お嬢様も危険ですから。ですが、一体何が……?」
「銀の杭を刺されかけちゃった。私が真祖だって知ってたみたい。でも、ちゃんと心臓に到達する前に止めたから、リーシアちゃんの防御も発動してないよ」
カノンは目を大きく見開いてから、自責の念を覚えて表情を曇らせながらセレーネを抱きしめる。
「やはり、私も一緒に行くべきでした」
「そんな事ないよ。カノンが教会を守ってくれたから、こうしてここに沢山の聖職者が来てるんでしょ? カノンの身体に付いてる返り血を見れば分かるよ。だから、助かる人達が増える。貴族の問題で民を傷付けたくないからね。カノンは、私の命令を遂行してくれた。その事を賞賛はしても、責める事はないよ。それよりカノンの力を借りたいんだけど、ユリーナはいる?」
「あちらに」
「行こう」
セレーネはカノンを連れてユリーナの元に向かう。ユリーナは怪我人を運ぶのを手伝っていた。
「ユリーナ」
「セレーネ様。如何されましたか?」
「ちょっと耳を貸して。色々と探したいものがあるの」
「はい。畏まりました。少々お待ちください」
ユリーナは担当者にこの場を離れる事を伝えてから戻ってくる。そのユリーナとカノンを連れて、セレーネは街を歩きながら反逆者について説明していく。
「そういう事で、契約魔術を使ってる反逆者は全員拘束か始末をしたんだけど。それを使っていない相手は分からないの。だから、【空間探知】で少人数行動しているような人を調べて、二人には会話から怪しいかどうかの判別をしてほしいの。二人が確認すれば、証拠としては十分でしょ」
「証拠になりにくいとは思いますが、拘束する理由にはなるかと」
「だよね」
【空間探知】で分からない相手は、油断しているであろう時の会話から見つけ出そうというのがセレーネの考えだった。そのための人員として耳が良いカノンとユリーナを動員したのだ。全ては安全で安心出来る環境を取り戻すため。




