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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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反逆の契約

 リンドを狙った凶行に、唯一気付く事が出来る者がいた。

 身体強化をしたセレーネは、リンドの服を掴んで自分の方に引っ張る。突然の行動にリンドも踏ん張る事は出来ずに前に蹌踉めく。それと入れ替わりに前に出たセレーネは、突き出される剣に【時間停止】を使用する。

 唐突に一切動かなくなった剣によって、力を込めていた騎士は手首を痛める。


「うぐ……」


 痛みを覚えている騎士に向かって突っ込んだセレーネは、【装甲結界】で右腕を守りながら、鎧に向かって拳を叩き込む。身体強化したとはいえ、セレーネの腕は細く力はそこまでない。

 そう思っていた騎士は、浮き上がる自分の身体に驚愕し、続いて鎧を突き抜けて来た衝撃が腹部から内臓へと浸透し吐血する。


「おぶげぁ……!?」


 錐揉みしながら吹っ飛んでいった騎士は壁に激突して動かなくなった。


「ふぅ……魔術師が接近戦を出来ないとでも思った? 振動魔術で衝撃を内部に送れば、内側から破壊する事だって出来るんだよ」

「く……そ……」


 セレーネの言葉を最後まで聞いたところで、騎士は絶命した。仲間の突然の凶行と死に騎士達は一瞬思考が停止していた。


「すまない。助かった」


 その中でもリンドだけは、平静を即座に取り戻してセレーネに謝罪と礼を伝える。


「いえ。ですが、こっちの騎士にも裏切り者がいるとなると」

「セレーネの策も成功するかは怪しいな。鎧を剥け。何かしら反逆者に通じる情報がないかを確認しろ」

『はっ!』


 リンドの命令で騎士達が動く。セレーネが倒した騎士から鎧と服を剥ぎ取っていく。その鎧や服も調べていき、何かしら繋がるようなものがないかを確認していた。


「情報があれば見分けは付くか?」

「全ての反逆者に共通する物理的魔術的な情報があれば何とか。ですが、私が探しても何も見つかりませんでした」

「契約魔術はどうだ? 制約を課し裏切りを防ぐ。そのための契約魔術を身体に刻み込まれているのなら見分けが付くようになるだろう。表に出にくい契約魔術もある。慣れていないセレーネには気付かないようなものもあるだろう」

「確かに……契約魔術に関してはあまり知らな……あ、すみま……うおえええ……」


 セレーネは近くの観葉植物に胃液を吐き戻してしまう。


「大丈夫か?」


 リンドはセレーネの背中を摩る。既に内容物は胃液しかなくなっているセレーネは胃液だけを吐いていた。


「はい……すみません……【高速演算】を常時使用していて……」


 セレーネは全体を把握するために常に【高速演算】を使っている。あらゆる状況に対応するには、それが一番良いと考えての事だった。代償として時折吐き戻してしまうが、それくらいであれば受け入れる方が良いとセレーネは考えている。

 これのおかげで、様々な事態にも一応反応出来ているので、恩恵はしっかりとある。


「気負いすぎだ。少し休め。全権を持っているという事は、お前が絶対に動かないといけない事ではない。セレーネの立場から考え、仮に言う事を聞かない貴族が現れた時のために陛下が預けた力と見るべきだ」

「ですが……」

「セレーネが反逆者達を許しがたいというのは理解している。それだけの事をされているのだからな。だが、それで自分の身体を壊す事を望むと思うか?」

「…………その言い方はズルいです」

「それが大人だ。しばらく俺達に任せろ」


 リンドにそう言われ、セレーネは一時的に【高速演算】を切る。思考速度が通常状態に戻っていき、吐き気が込み上げてきてもう一度吐く。これは思考速度の差によるものなので、切ればほぼ確実に吐き戻す事になるため避ける事が出来ない嘔吐だった。


「閣下! 契約魔術の痕跡を発見しました」

「セレーネ。【高速演算】を使わずに、その探知は使えるか?」

「はい。元々独立させているものなので」

「よし。持って来い」


 リンドは騎士の一人に反逆者の死体を持って来させ、契約魔術の痕跡をセレーネに見せる。セレーネは、その痕跡から魔術陣を抜き取り、検索対象に指定する。セレーネの頭との接続を切った事、計算速度が若干下がるが、十秒後には問題なく反映される。


「出ました。これが同一契約魔術を施されている人の位置です。この中にはもういないようですね」

「だが、離れた場所にはいるな。この大きく動いているのはベオルフ殿か?」

「近くにベネットがいるのでそうですね。大分最初の位置から遠ざかっています。最後に見た【空間探知】で人がいない場所を確認していたのかもしれません。ベネットなら、そこまで頭が回ります」

「そうか。契約魔術の内容は分かるか?」

「契約者の反逆への参加。背けば死。それとこれは契約魔術でどうにか出来る事ではないですが、家族の命を奪われる事に同意したと見做すそうです」


 実質家族を人質に取られているような状態と言える。契約した後に心変わりをしたとしても、家族が犠牲になる可能性がある以上安易に裏切る事が出来ないという状態にされていた。


「この契約魔術は、大分古いですね……ごく最近結んだものではないと思います」

「なるほど……契約魔術を解除出来るか?」

「解除……」


 セレーネは、魔術陣をもう一度見て確認していく。


「いえ、難しいです。契約魔術が剥がされれば、そのまま契約の反故と見做されます。書き換えも……出来なくはないですが、反故と見做されてもおかしくありません」

「そうか……」

「すみません。時間があれば研究出来るのですが……」

「いや、契約魔術を根本から否定するようなものだ。簡単に出来るわけもないだろう。気にするな。ひとまず、俺達はこの契約魔術を刻まれている者達の排除に移る。すまないが、こちらに同様の魔術を使える者はいない。付いてきて貰うぞ」

「はい」


 リンドとその部下を伴い、セレーネは反逆者の殲滅に動く。ベネットが戦っている場所を避けながら、契約魔術を刻まれている者達を次々に排除していった。それは守られている貴族も例外ではない。その貴族の持ち物から銀の杭が見つかっている事がもう一つの証拠とされた。

 王城の出入口にも存在したため、そちらの排除も行う。こちらは大分混乱が生じたが、リンドの他にも指揮を執れる者がいたため、一気に鎮圧された。そうして出入口にも反逆者がいなくなったところで、王城からベネットが出て来る。その手には剣聖ベオルフがいた。激しい戦闘の後だという事が二人の鎧と盾と身体に刻まれた傷で分かる。


「ベネット!」

「嬢ちゃん……悪ぃな。ちっと手こずった。そっちは……上手くやったみたいだな……」

「うん。リンド様が動いてくれてる」

「ルージュ閣下か……それなら安心して……いい……な……」

「ベネット!」

「衛生兵!!」


 セレーネが治療するよりも治療に慣れた者がした方が良いという事で、セレーネはベネットから離れて衛生兵に任せる。


「うぅ……」


 その呻き声を聞いて、セレーネはベオルフが生きている事に気付いた。


(ベネットがトドメを刺さなかったのには理由があるはず……)


 セレーネはベオルフに【無期睡眠】を施してから、魔術による止血などを試みる。


「セレーネ?」


 リンドはセレーネの行動に怪訝な顔をしていた。


「ベネットが生かしたという事は、何かしらの情報があるんだと思います。【無期睡眠】で永続的に寝かしました。命だけは繋いで、後々情報を引き出しましょう」

「……そうだな。こっちも頼む。セレーネはまだ動けるか?」

「王都内の反逆者を見つけるという事ですね?」

「ああ。無理を強いてしまうが」

「いえ、ここが無理のしどころですから。平和のためにも、頑張ります」

「頼む」


 セレーネは再び【高速演算】を自分の頭に施し、【空間探知】の範囲を王都全体に広げる。そこで現れる契約魔術を刻まれた者達を検索していった。セレーネが出す情報から、部隊を派遣し反逆者を炙り出す。

 反逆者を見つける事自体が難しいが、セレーネの検索からほぼ確実にいるという事は分かっているので、時間が掛かっている場所があればセレーネが転移して直接始末するという方法を取っていた。

 そうして王城への攻撃を発端として起こった反逆は十時間で反逆者の殲滅により終了した。

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