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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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反逆者殲滅へ

「うおええええ…………」


 吐き戻しているセレーネの元に即座にサマンサが近づき背中を摩る。この辺りは過去にメイドとして仕えていたために抵抗などもなかった。


「何をされているのですか……?」

「ちょっと……うおぅ……無理しすぎた……げぇええ……」


 セレーネが落ち着くまで、サマンサは背中を摩り続けた。落ち着いたところで別のメイドが持って来た水を受け取り、セレーネは口を濯ぐ。ゴミ箱はサマンサが回収して部屋を出て行った。

 口を拭ったところで、セレーネは改めてガンドルフの方を向く。


「お見苦しいところをお見せしてしまい大変申し訳ありません」


 まずは謝罪からだ。報告をする前に嘔吐を始めていたので、話を進める事も出来なかったためだ。


「構わん。無理をさせたのはこっちだ。家族を救出してくれた事感謝する。王都はどんな様子だ?」

「魔術研究所でも襲撃があったようで、マリアとフェリシアが戦闘しているようでした。王都内でも、謀反を起こした兵達が徘徊しています。王族の方々は全て避難して頂いたので、狙われるのはクリムソンのような貴族主義を排斥しようとしている貴族の家でしょう。なので、その殲滅に動きます。恐らく、他の家も同じように動いていると思いますので。王城はご安心ください。ベネットが突っ込みましたので時間の問題です」


 セレーネは現状判明している情報をガンドルフに報告する。それを受けたガンドルフは十秒程考えを巡らせる。


「分かった。指輪は持っておけ。いざという時に使える。王都の鎮圧を頼む」

「はっ!」


 ガンドルフから命を受けたセレーネは王都に向かうために【空間転移】を展開する。そこに心配そうなミュゼルが小さく声を掛ける。


「セ、セレーネちゃん……」

「ん? 大丈夫だよ。またいつもの日常は戻ってくるから。どうせ、私は死なないしね」


 セレーネはそう言ってウィンクして、王都へと転移する。セレーネとしては場を和ませるための冗談だったのつもりだったのだが、残ったのはミュゼルを気遣うような重い空気のみだった。

 王都に戻って来たセレーネは周囲から漂う血の匂いに気付いた。


「カノン」

「お嬢様。もうお戻りで?」


 セレーネの傍に着地したのは、メイド服に返り血を浴びたカノンだった。周囲には首が取れ掛かっている死体や心臓が引き抜かれている死体が転がっている。


「処分が大変そうだね。まぁ、それはいいや。謀反の鎮圧を命じられた。王族の方々はいないから、この謀反を終わらせるよ」

「はい。では、クリムソン家と合流しますか?」

「う~ん……いや、向こうはお父様とお兄様に任せよう。ナタリアと合流する。フェリシアとマリアは魔術研究所を守らないといけないだろうから」

「では、そうしましょう」


 セレーネはカノンと手を繋いで、総合研究室研究棟へと転移する。そこには、襲撃してきている黒ずくめの反逆者の姿があった。ナタリアが次々に魔術で蹴散らしているそこにカノンが降りたって、次々に蹴散らしていく。それと同時に研究棟側からもユリーナが飛び出して次々に蹴り殺していく。

 二人が殲滅している間に、セレーネはナタリアの元に来ていた。


「ナタリア」

「セレーネ様。レッドグラスは……」

「大丈夫。殲滅の方針で行くよ」

「承知しました」


 あらゆる細かい箇所を省いた会話だったが、それでもナタリアは全てを理解していた。セレーネが放った紅色の花火とそれが爆発した場所を見て、セレーネが王族をクリムソン領に避難させているという事が分かったからだ。

 意味の無い花火ではないという考えが、ナタリアにそこまでの考えの飛躍をさせていた。


「王城にはベネットがいる」

「時間の問題ですね。では、私達は街中を担当します。セレーネ様は、王城に向かってください。王城内に敵が留まっている事が一番危険です」

「分かった」


 セレーネとナタリアが方針を固めている間に、カノンとユリーナが敵を殲滅させていた。


「魔術も使えるなら、カノンには敵わなくなっちゃったかな」

「ユリーナの蹴りは私よりも強いでしょ。お嬢様。殲滅致しました」

「ありがとう。王城に行くよ。ナタリア達は街を担当するって……」


 セレーネがそう言った直後に、離れた場所から爆発音が響き渡り黒い煙が上がる。その方角にはスピカがいる教会がある。カノンが目を大きく見開く。眷属同士の繋がりで、スピカの身体に異常はないと分かっても心配な事に変わりはない。


「教会も対象になるの?」

「目的が読めませんが、教会が自分達を見捨てたというような事があればあり得なくはないかと」


 セレーネの疑問に答えたのは、ナタリアだった。ここまでの出来事からある程度の予測をしての答えだった。


「カノン、教会を守って」

「ですが……」


 セレーネの命令にカノンは即座に食い下がった。自分の仕事はセレーネの従者。傍を離れてセレーネを危険に晒すという事は出来ない。例え恋人が危険かもしれなくても、自分の中での優先順位はセレーネなのだ。


「教会が機能停止すると、私達も困る。この騒動で怪我人が一人も出ませんでしたなんて事はない。もしかしたら、相手を捕縛して拷問する必要も出て来るかもしれない。その時に回復出来る人が充実しているのと少ないのでは雲泥の差があるでしょ? 今後の動きのために教会を守って。私は王城に戻ってベネットと合流する。無敵のベネットでも相手が魔術を使ったら面倒くさいだろうから」


 セレーネの言う事は間違っていない。病院だけで全てに対応出来る保証がない以上、教会の力が必要になるかもしれない。教会が機能しなくなるのは、街の復興なども考えると良いことではなかった。


「…………分かりました。絶対にベネットの傍にいるようにしてください。良いですね? 約束ですよ?」

「うん。私が約束破った事あった?」

「…………」


 笑顔のセレーネに、カノンはジト目を向ける。その視線を受けて、セレーネは顔を逸らす。


「はぁ……」


 カノンは小さくため息をついてからセレーネを抱きしめる。


「ご無事で」


 カノンはそう言って教会の方に向かって駆けていった。それを見送ったセレーネは王城を見る。


「よし。ナタリア、ユリーナ、こっちは任せたよ」

『はい』


 セレーネは王城上空に転移して、【空間探知】でベネットを探す。


「いた」


 【空間転移】でベネットから少し離れた場所に転移する。突然現れたセレーネにベネットだけでなく反逆者達も驚く。その一瞬を見逃さず、セレーネは【闇氷槍】を放ってベネットの正面にいた反逆者達を穴だらけにした。


「嬢ちゃん!」

「暴れて良いよ!」

「おっしゃぁ!!」


 セレーネの一言で王族の避難が終わった事を知ったベネットは、王族捜しを中断し殲滅に移行する。急に現れて仲間に水玉模様を作り出したセレーネに怯んでいる反逆者達の元にベネットが突っ込む。高質量の盾でぶん殴られ、軽々飛んでいく仲間。そこまでベネットは止まらずに、呆けてしまっている反逆者の首を撥ね、もう一人の首に盾の頂部を突き刺して殺す。

 セレーネは、ベネットの死角を埋めるように【闇氷槍】を飛ばしていく。その間に後ろを見る。そこにはベネット以外の騎士達がいる。怪我を負っている者も多く、魔術師が治療しているところだった。


「態勢を立て直して。私とベネットで形勢を傾ける。立て直したら、王城の出入口を固めて。中から逃がさず倒しきる。良いね?」


 セレーネは、ガンドルフの指輪を見せてそう言う。それを見て、この状況の全権はセレーネにあるという事を騎士達も理解した。


『はっ!』


 全員が返事をしたところで、セレーネはベネットに近づく。


「聞いてた?」

「ああ。背中は任せる。遅れるなよ」

「うん」


 最強の騎士とそこそこ強く索敵が得意な魔術師が組めば、余程の敵が出てこない限り止める事は出来ない。そう。余程の敵が出てこない限りは。

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