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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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続・王族救出

 王城に戻ってきたセレーネは、カノンの元に駆け寄る。


「カノン! 私を抱き上げて! しばらく動けない!」

「何をなさるのですか?」


 カノンはそう言いながらもセレーネを抱き上げる。


「城下にまだ王族の人がいるらしいの。この状況下でどこにいるか分からないから、【空間探知】を王都全体に広げる」

「ですが、情報がなければ探し出すのは難しいのでは?」

「だから、ミュゼルの血を吸ってきた。頭の中で分析してる」

「分かりました」


 カノンはセレーネを抱いたまま塔の先端に立つ。セレーネは目を瞑って、【空間探知】を使う。自分の頭には【高速演算】を使いミュゼルの血を分析して、【空間探知】に必要な情報を出していく。

 これらの情報から王族を探すために、情報処理能力を上げるために自分の脳も利用する。セレーネが動けなくなる理由はそこにあった。全ての能力を限界まで引き上げているため、セレーネの頭は金槌で滅多打ちにされているような痛みを覚えていた。

 だが、その痛みもすぐにマシになっていった。カノンが光属性の回復魔術【鎮痛光(ちんつうこう)】で痛みを緩和しているからだ。それでも頭痛が金槌からバットに変わったくらいの違いでしかない。


「見つけた……」


 セレーネは【投影結界】に見つけた三人の王族の居場所を出す。それと同時に鼻血が垂れてきていた。


「うっ……」


 さらに口を押えたセレーネを見て、カノンは腰のポーチから袋を取り出してセレーネの前に持ってくる。セレーネはその袋の中に胃の内容物を吐き戻す。


「うぅ……」

「もう大丈夫ですか?」

「うん……」


 カノンは袋を縛って、闇魔術の【闇穴】に放り込んだ。普段なら洗うが、この状況では消滅させる方が早いからだ。そして、ハンカチでセレーネの顔を拭い鼻血を取り除く。


「水……」


 【空間倉庫】の水筒で口を洗ったところで、カノンが動き出す。


「現場に向かいます」

「うん。こっちでも追ってる。ん?」


 セレーネは、カノンが【風地】を使って空を走っている間に、【空間探知】で調べる対象を調整して襲撃を受けていないかを確認していた。その時、離れた場所で地上から上がる稲妻と轟く雷鳴が起こった。


「マリア?」


 雷鳴の方向が魔術研究所だったために、セレーネはフェリシアのお供をしているマリアが発生源ではないかと考えた。その理由は、マリアの得意魔術が雷属性という事が大きい。同時に魔術研究所から氷柱なども生まれていく。


「音が上手く拾えませんので詳細は分かりませんが、魔術研究所にも襲撃があったようですね」

「うん……私達は私達のするべき事をしよう」


 フェリシアとマリアが心配になったセレーネだが、眷属との繋がりによって二人が無事というのが分かる。そのため二人の事を信じて、自分達がやるべき事である王族の救助を優先する事にした。


「私達も信号を出そうか」

「どうするおつもりですか?」

「花火」


 セレーネはそう言って、火魔術の基礎魔術である【火球】を生み出して王城の真上に向かって放つ。それが丁度真上に来たところで、【火球】を弾けさせて紅の花を咲かせる。大多数の人々には何も分からないもの。

 だが、勘の良い者達はすぐに察した。これで伝わっていようがいまいが、セレーネは気にしない。誰かしら一人にでも伝われば良いだろうというくらいのものでしかないからだ。


「お父様辺りが分かれば良いかな」

「そうですね。そろそろ件の場所です」

「うん」


 セレーネは【空間探知】で表示されている地図から居場所を見つける。


「動き始めた? いや、逃げてる! カノン! 転移するよ!」

「はい!」


 セレーネは【空間探知】と【空間転移】を組み合わせて、任意地点への転移を試みる。座標のデータが正確に取れるわけでもないので、転移に危険が生じるが、この際贅沢は言っていられなかった。目的地の真上に転移したセレーネは逃げ惑う三人と後ろから追っている者達を視界に捉える。


「カノン」

「はい」


 カノンは、空中でセレーネを放すと追っている者達に向かって、空中から突っ込んだ。セレーネは【空間転移】で三人の前に転移する。突然現れたセレーネは警戒する三人。一人は妙齢の女性。二人は七歳くらいの子供だった。第二王妃エミリア、第五王女ウルスラ、第六王女ミロクだ。セレーネは姿を知らないが、エミリア、ウルスラとミロクには、ミュゼルと共通する情報がある。

 その情報を確認したセレーネは、一つ気付いた事があった。ウルスラとミロクはガンドルフとエミリアの子供であるため、異母姉妹であるミュゼルとの共通する情報がある事は当たり前である。しかし、エミリアは違う。結婚したところで、情報が残るという事はほぼあり得ない。


「失礼しました。私はセレーネ・カルンスタイン・クリムソン。国王陛下により、皆さんの救助を一任された者です」


 セレーネは名誉貴族の証とガンドルフから預かった指輪を見せる。それを見て、エミリア達の警戒が薄れる。


「陛下は無事ですか?」

「はい。現在はレッドグラスへ避難しております。皆さんもそちらに送ります」

「レッドグラスに? でも、どうやって……」

「私には即時移動が出来る魔術がありますので。この状況は妊娠中のお身体に障りますので、すぐにでも移動しましょう」

「え?」


 セレーネの妊娠中の身体という言葉に、エミリアは目を丸くしていた。


(あれ?)


 これにはセレーネも首を傾げてしまう。エミリアの中にもガンドルフの情報があるという事は、その身体の中でガンドルフの情報を持つ者がいるという事になる。そこから妊娠中だろうと考えていたのだ。


「失礼しました。私の勘違いでしたか?」

「いえ、確信はありませんでしたが、少しだけ兆候らしいものは感じていたので合ってはいると思います」

「それでしたら、急ぎましょう」


 セレーネはそう言ってエミリア達に近づいていき、その途中で後ろを振り返る。【空間探知】により接近してくる存在を見つけたからだ。これがエミリア達を探しに来た騎士であれば、一緒に転移してレッドグラスで護衛に付いて貰うという事が出来る。だが、現状では別の可能性もあった。

 そして、今回はその別の可能性の方が上回ってきた。


「いたぞ! お覚悟!」


 剣を持った黒ずくめの五人が現れた瞬間、エミリアは、ウルスラとミロクを抱きしめる。そんな三人を庇うように前に出たセレーネは、一切の躊躇なく十本の【闇氷槍】を放った。

 黒ずくめの一人が飛んでくる【闇氷槍】を剣で弾こうとする。しかし、弾くどころか剣が削り取られ、頭を貫通。その後ろにいた仲間の心臓にまで突き刺さった。残り十本も黒ずくめの男達を滅多刺しにしていた。当たり損ねた槍は一本もなかった。


「時間はありません。すぐにでも転移します」

「え、ええ……お願いします」


 セレーネの強さを理解したエミリアは、セレーネを信用して頷いた。


「カノン! しばらく任せるね!」

「はい!」


 カノンにこの場を任せたセレーネは、三人と一緒に再びレッドグラスに転移する。転移した部屋では、ガンドルフを含めた王族達と護衛の騎士、サマンサとマリアの父でありサマンサの夫であるガルウェン・バーミリオンがいた。

 その中に転移したセレーネは、着地するや否や近くのゴミ箱に駆け寄って胃液を吐き戻した。それは、連続した【空間転移】の使用などで諸々限界になったからだった。

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