写し絵に関して
ゴーレムに関する確認も終えたところで、セレーネはゴーレム一号を【空間倉庫】に帰す。
「して、追加のお話なのですが、【空間倉庫】の危険性はご理解していますか?」
「誘拐に使えるとかでしょうか?」
セレーネが即答した事で、ビルギントンは安堵していた。
「現在【空間倉庫】を使えるのは、カルンスタイン卿、アールヴ卿のみでお間違いないでしょうか?」
「いえ、シローナちゃん……えっと……リーシアちゃんの娘であるシローナ・ノスフェラトゥ・クリムソンも使えます。恐らく、リーシアちゃんも使えるとは思います」
「なるほど。消費魔力の関係もありそうですね……一人で物資を多く持てる。様々な面……特に商人達は喉から手が出る程欲しいものでしょう。商品を一番安全な場所に保管出来る……そうなると……」
ビルギントンが深く考え込み始めたので、セレーネはガンドルフの方を見る。
「【空間倉庫】も規制が入りますか?」
「問題は誘拐にも使えるという点だ。論文には様々な点がぼかして書かれていたが、それでも使える者が出て来てもおかしくない。全ての悪用を防ぐ事など不可能だが、予め規制しておく事で防げる面もある。だが、これに関しては規制の仕方が難しい。利用を禁止すれば、これから生み出される多くの利益を失う可能性がある。個人でいつでも利用出来る大きな倉庫を持てるという事は、行商人の場合商品の保管補充が安全に安定して出来るという事になる」
「一度の商売で生み出せる利益が伸びる分、仕入れなども大胆に出来るって感じですか?」
「そういう事だ。個人規模の店なら喉から手が出る程欲しいだろう。何せ店が小さく保存出来るものも少ないという問題を抱えているところもあるだろうからな」
「土地代の節約にもなりますしね。でも、【空間倉庫】は魔力圧縮だったり色々と技術が必要になる魔術です。習得難易度はかなり高いと思います」
「使える人が少ない現状だからこそ、予め規制しておく事に効果がある。問題が起こってから対処するよりも事前に用意して発表しておく方が好印象だろう」
「その通りです。ひとまず監禁目的で【空間倉庫】に生物を入れる行為は厳罰としましょう。今後空間魔術などの特定魔術の規制に関する相談をカルンスタイン卿にしても宜しいでしょうか? カルンスタイン卿独自の魔術が多いので」
「はい。それなら一つ。時間魔術の規制をお願いします」
セレーネはどこに発表していない時間魔術に関して伝える事にした。誰かに見つかって悪用されてからでは遅いというガンドルフの言葉を聞いたからだ。概要を知らないガンドルフとビルギントンに詳細を話す。
その効果を知った二人は一度驚いた後に考え始める。
「そうだな……補助用の術式として意外は利用を禁止するか」
「ですが、時間停止はやりようによっては、多くの人を救う事に繋がるかと治療目的、延命目的による使用は認めるのは如何でしょうか」
「治療目的か……確かに重傷患者の止血には使えるか……治療の目処が立った時に時間を戻して治療する……助かる確率は上がるな。よし。この研究はセレーネのみ認める。安全な時間停止などが出来れば、ナタリアを通して報告書を上げてくれ」
「承知しました」
「よし。寄り道はここまでだ。本題に戻ろう」
【空間倉庫】などに関しては、ただの寄り道。本題はスライム、ゴーレム、そして写し絵機だ。自分が話の対象になる事に気付いて、ミュゼルが緊張し始めたのが、隣に座るセレーネにも分かった。
「写し絵機に関しては、ミュゼルから一通り聞いている。犯罪としての使い道も理解している。その上でビルギントンが考えた規制内容だ」
そう言われてビルギントンから渡される紙束を、セレーネはミュゼルと一緒に読み始めた。
「ミュゼルから写し絵の見本を見せて貰ったが、あれは絵とは一線を画するな」
「はい。絵とは違い表現方法などはなく、そのままを写しますので」
「ああ。だから、真実を転写するものとして写真と呼ぶとなどうだろうか。写し絵のままでは絵として評価されてしまいそうだからな。画家には画家にしか出せない味がある。俺はそう思った」
「私も同じ意見です。発案者はミュゼルなので、ミュゼルが良ければ名前は変更しても良いかと」
「そうか。では、これが写真に関する動作などを言語化したものだ。ミュゼルと話して決めた」
ガンドルフから別の小さな紙を受け取ったセレーネは内容を確認する。
「撮影……転写……撮影機……写真……はい。良いと思います」
「それを踏まえて、もう一度規制を確認しておいてくれ」
「はい」
そうして改めて内容を確認する。禁止する事項は、許可を取らずに人を中心に盗むように撮影する盗撮。許諾のない写真を利用した商品の販売。裸体が写った写真の撮影や販売や流通。その他使用禁止施設での使用。
「これは風景を中心に撮影したとすれば、人が写ってしまっても問題がないという事になりますか?」
「はい。ですが、あくまで風景が中心であると分からなければいけません。仮にこの場所を撮影したとして、部屋の端から全体を撮影した際に私達が写ってしまったという場合にはある程度許可されます。ですが、部屋を撮影したと言いながら私の顔が半分を占めていれば、それは嘘だとなるでしょう」
「なるほど。仮に街を撮影した場合、街中を歩く人達が写ったとしても、それは仕方ないという事になりますか?」
「はい。これが意図して特定の個人を撮影しようとしていたものだとすれば、それは盗撮となる可能性があります。この辺りは大分曖昧です。というのも事細かく規制してしまえば、そもそも撮影機が利用出来ないからです。この撮影機の利点はかなり大きいです。利用しない理由がありません。だからこそ、曖昧ながらに規制するしかありませんでした」
雁字搦めに規制してしまえば、そもそも利用そのものが厳しくなってしまう。それを考えた結果、禁止事項も見てすぐに判断出来るようなものではなく聞き取りなども必要になるようになった。
「理由が理由ですので仕方ないかと。私も記録用に利用したいと考えていますし、情報共有にも利用出来ます。後は犯罪者の顔を記録……撮影して、保存しておく事で相手が偽名を使っていても分かるという風にも出来るかもしれません」
「なるほど。顔を写真にしての名簿作りという事ですね。それは良いかもしれません」
「取り敢えず、私としては裸体の撮影などが禁止されたので安堵しています。そうじゃないと怖いですからね」
「罪重さは未定ですが、軽いものでは済まさないようにはします。軽いものですと再犯の可能性が高くなってしまいますので」
「そうなると心強いです。ミュゼルはどう?」
「う、うん……大丈夫……先に聞いていたから……」
「そっか。では、この方向でお願いします」
「はい」
セレーネが製造に関与しているものの規制に関する話し合いはこれで終わった。今後細かい調整が入る事になるが、その度にセレーネに確認されるようになる。それが初代製造者としての責任だった。




