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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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規制項目の確認

 叙爵式が終わった翌日。セレーネは、再び王城に来ていた。ドレスと名誉男爵の称号の証であるネックレスを着けている。

 呼び出された理由は、道中で説明があったため、今回のセレーネは不機嫌ではなかった。従者の控え室にカノンを残して、セレーネは応接室に入る。そこにはガンドルフ、ミュゼルと共に法務大臣のビルギントン・キャロット侯爵が待っていた。


「お待たせしてしまい申し訳ありません」

「気にするな。急に呼び立てたのはこっちだ。寧ろ、素早い対応に感謝する。ミュゼルの隣に座れ」


 セレーネは一度頭を下げてからミュゼルの隣に座る。正面にはビルギントンがおり、上座にガンドルフが座っている。


「呼び立てた理由は道中に伝えてあると思うが、改めて言おう。今回はセレーネが開発している魔術道具に関する規制及びミュゼルとセレーネが研究している魔術道具に関する規制を話し合うために呼び出した。既にセレーネとナタリアの方から報告書に案が書かれていたが、実際に本人と話すのが一番手っ取り早い。改めて、こっちも紹介しよう。法務大臣を務めているビルギントン・キャロット侯爵だ」

「ビルギントンと申します。先のスライムとゴーレムに関する報告の際にもお目に掛かったかと思いますが、改めましてよろしくお願いします」

「セレーネ・カルンスタイン・クリムソンです。よろしくお願いします」


 互いに挨拶が終わったところで、ビルギントンが眼鏡を掛ける。


「さて、まずはスライムの規制について話し合いましょう……と言っても、こちらはほぼ完成しています。既に施行直前までは進めました。ご確認を」


 ビルギントンはそう言って規制内容が書かれた紙をセレーネに渡す。


「危害を加える意図を持ったスライムの生産の禁止。購入したスライムを自然に戻す行為の禁止。この二項目が主な禁止事項になります」

「はい。良いと思います」


 セレーネが何度も試作した際に出来た強酸性のスライム達を作れば、かなり危険な事になる。また元々自然にいなかったスライムを野生に放出すれば生態系にどのような影響が出るか分からない。この行為も禁止事項となる。


「温調スライムの温度を上昇させた場合はどうなりますか? 一応火傷とか凍傷もあり得ますが」

「通常販売の温調スライムの温度範囲でも低温火傷の可能性はあります。ですが、これに関してはスライム自身に我々を害そうという意思は持たせていないので対象外になります」

「害する力を持っている上に、害するように命令されているスライムの生産の禁止という認識で良いですか?」

「はい。そうでなくては、不慮の事故すらも認められなくなってしまいますので」


 セレーネが作っているスライム達には、人を害するという考えを束縛する機構が詰め込まれている。そのため、温調スライムが人の身体にくっつく際は温度が適温に調整される。【思考演算】による縛りは、現状上手くいっているので問題はない。

 誤って触れてしまった場合の火傷は、スライム自身が害する意思を持っている訳では無いので対象に入らない。


「スライムについて細かい注意事項も纏めておきました」


 そう言ってビルギントンは、紙束をセレーネに渡す。そこにはそれぞれのスライムの注意事項などがびっしりと書いてあった。セレーネからの報告書をじっくりと読んでいなければ書けないものばかりだった。


「はい。これで大丈夫です。一応、店の方でも注意文は一緒に渡していますが、それは大丈夫ですよね?」

「勿論です。寧ろ、そうして頂ける方が良いです。では、次はゴーレムの方に移りましょう」


 ビルギントンは当然のようにゴーレムに関しても纏めた紙束を出した。セレーネはそれを読んでいく。


「基本的にゴーレムの戦闘使用は禁止となります。例外として倉庫などの防衛にのみ抵抗を許す事としています。倉庫の管理をする上で、内部の物資を守る事も重要ですので。念のため、カルンスタイン卿さえ、良ければゴーレムを拝見したいのですが」


 二秒ほど沈黙があり、自分が呼ばれたという事に気付いたセレーネは慌てて返事をする。


「…………あっ、申し訳ありません。まだ慣れていなくて」

「いえ、昨日の今日ですからお気になさらず。これから爵位名で呼ばれる事が増えると思います。私達貴族は家名がそのまま爵位名になっていますが、名誉貴族の方々は新しい名が付くため、急に対応出来るという方が珍しいかと」

「なるほど……気を付けます。ゴーレムでしたね。少々お待ちください」


 セレーネは【空間倉庫】を開いて、中に入っていく。初めて【空間倉庫】を見たビルギントンは、少し目を見開いて驚いていた。


「いやはや、実際に見ると逆に信じがたい光景に見えますな」

「あそこにこの部屋以上の空間があるという事だからな。だが、これも多重魔術陣が前提の魔術だそうだ。使える者は少ない」

「空間転移装置による輸送革命。更に輸送用魔動列車による補給路構築。ここに【空間倉庫】を使える人材が増える事を考えれば……いえ、この【空間倉庫】も一部は規制するべきかと」


 セレーネの功績について改めて考えていたビルギントンは、実際に【空間倉庫】を見た事によって、その危険な使い道にも気付いてしまった。それと同時にセレーネはゴーレム一号を連れて戻ってくる。


「カルンスタイン卿。一つ話が増えました」

「え? あ、はい。待機」


 セレーネはゴーレム一号をソファの後ろに待機させて改めて座る。セレーネはすぐに話が始まるのかと思っていたが、ビルギントンとガンドルフの視線はゴーレムに向かっていた。改めてゴーレムを見て、その異質さに少し驚いている。


「えっと……ゴーレムの方からで良いですか?」

「失敬。構いません」

「では、この子がゴーレム一号です。二号は我が家に。三号は総合研究室に。四号はルージュ公爵家別邸に。五号はスライムを販売している月の桜桃にいます。全て同じ形をしており、このように関節を浮かせています。この形が一番耐荷重があるからです。基本的にマスター登録した者の指示に従います。複数人登録が可能であり、誰か一人の命令しか聞かないという事はありません。ですが、防犯や安全を保つ上で、最上位には常に私を置いています。ですので、基本的には私の命令が最優先で採用されます」

「なるほど。こちらも報告書通りですね。戦闘試験はしていないとの事ですが、今後して貰う事は可能でしょうか?」

「可能ではありますが、基準がなければ合格をどうするか判断しかねます。戦闘用ではない以上、一定以下の戦闘能力というのが基準となると思います。他にもいくつか問題が」

「聞きましょう」


 ビルギントンは改めて姿勢を正す。その行為が話を詳しく聞くという意思表示になった。


「まずは、防衛の際に排除する対象を何を基準として決めるのかです。仮に登録されていない人の侵入を基準とすれば、誤って中に入った者を排除しようとしてしまいます。事故として処理されるでしょうが、対象の範囲が広すぎます。また誰かに頼まれて来た人が荷物を持った瞬間に侵入者と見做す場合もあり得ます。王城内で扱うにしても、この辺りの問題があるので、私としては防衛には使えないと考えています。思考をすると言っても、全てを知っている訳ではありませんので」

「なるほど。感情の話以前に、その辺りからも戦闘の要素は抜いていたという事ですか……では、倉庫の前には門番を立たせておく必要はありそうですね……分かりました。ですが、この禁止事項の例外は記載したままにしておきます」

「ゴーレムが問題を起こした場合の言い訳に使えるって事ですか?」

「多少言い方が悪いですが、その通りです。こうしておくことで、ゴーレムが戦闘を行い、盗人を撃退したとしても禁止事項に抵触しない事になります。他の禁止事項に関しては、野外におけるゴーレムのみの活動を禁止します。必ず所有者……この場合マスターという事になりますね。登録されている誰かしらが傍にいるという事が必要になります。屋内であれば、その限りではありません。お気を付け下さい」

「分かりました」


 セレーネはゴーレムに関する注意事項なども全て目を通していき問題がないことを確認した。

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