記録限界
五時間程写し絵撮影を繰り返していると、写し絵機から記録限界の文字が【投影結界】により表示された。
「あっ……げ、限界だって……」
「割と記録出来るね。貸して」
「う、うん」
ミュゼルから写し絵機を受け取ったセレーネは、中から【記録媒体】カードを抜き取り、その内部の記録を読み取る。
「大体……三千くらいか。うん。想定よりも多い。記録を削除する機能を設けるとして、それは【投影結界】経由で選択出来るようにしたい。なら、【投影結界】に記録した写し絵を映す機能を付けるかな。本体の方に異常は?」
「い、今のところはないよ……ボタンが緩んだって感じもないかな……魔力線も途切れてないよ……」
「強度も魔力線も問題なし。魔術結晶は?」
「た、多分、大丈夫……」
「機能追加しても問題はなさそうだね。よし。これが改良した設計図ね。魔術結晶は、填め込んだやつを使って」
「う、うん……頑張る」
「うん。ミュゼルなら出来るよ。取り敢えず、こっちの【記録媒体】カードは貰うね。転写機の試運転で使うから」
「う、うん……じゃあ、出来たら来るね」
「うん。気を付けてね」
セレーネは仕事があるので、カノンがミュゼルとその使用人を出口まで見送っていった。その間にセレーネはスライム生産装置の様子を確認する。
「今日は全部で百匹。これでも問題はなし。部品の摩耗も問題なし。効率も良し。ひとまず完成で良いかな」
「では、そちらの装置は屋敷に設置しますか?」
ミュゼル達を見送り終えたカノンが確認する。装置を設置するのであれば、そのための空きスペースを用意しないといけないからだ。
「しばらくはこっちに置く。まだ研究対象だから」
「分かりました。では、屋敷にも設置場所を用意しておきます」
「うん。報告書を書いて、転写機を改良して……ゴーレム達の状態確認もして……順番的には報告書からのゴーレムかな。転写機は家でも出来るし」
「では、研究室に戻りましょう」
「うん」
セレーネはスライム生成装置を停止して、スライム達を瓶に回収していく。この作業はカノンも手伝う。基本的には命令するだけで瓶に入るので、瓶を並べるという作業だけだ。
「さてと、帰りに月の桜桃に寄って補充するとして、大分売れ行きは良いかな?」
「はい。報告は私の方で受けていますが、現状問題はありません。在庫を入れろと騒ぐ相手は衛兵が拘束していますので」
「ああ、そういうのはいるんだ。皆に被害がないなら良かった」
「それと掃除スライムの注文が殺到しているそうです」
「う~ん……宣伝効果はあったって感じかな。掃除スライム用の装置も作るか……面倒くさいなぁ……さすがに研究の一環で作るのにも限界があるし、こっちは家で作ろうか」
「では、材料の用意をしておきます」
「お願い」
自身の研究室にて報告書を書き、ゴーレムの状態確認を行っていく。自分の【空間倉庫】内にいるゴーレム一号と研究棟の倉庫にいるゴーレム三号の状態を確認してから、ナタリアに報告書を提出。屋敷に帰る前に月の桜桃に立ち寄りスライムの納品を行う。
「今日もいっぱい作りましたね」
「今日もいっぱい売れたみたいだね」
スライム達は今日も売り切れになっていた。一度売れて安全なスライムだと分かると、次々に客が来るようになり、毎日売り切れになってしまうのだ。
「これがどのくらい続くかだね。そもそも核を壊さなければ、かなり長持ちするから、そこまで買い換える事もないだろうし」
「王都観光に来た観光客にも売れていますので、スライムを目当てに王都に来る人が増えるかもしれません」
「人手は大丈夫?」
「小さなお店ですので。強いて言えば、こちらにもゴーレムが欲しいですね。倉庫から店舗部にスライムを運ぶ作業をしてくれるだけでも変わりますから」
スライムの入った瓶は水の入った瓶を運んでいるようなものだ。女性だけの月の桜桃では重労働となる。だが、そこは屋敷で働いていたメイド達。それら全てを問題なくこなす事は出来ているが、ゴーレムという人手が欲しくなってしまうくらいには、店舗部が忙しかった。
「なるほど……お店で使えるかの試験になるかな?」
「はい。それでしたら問題ないかと。実際、ゴーレムを実用化するに辺り、最も使われるであろう使い方ですので。ですが、一応ナタリアには断ってからの方が良いかと」
「それもそっか。リーナ、少し待ってくれる?」
「はい。無理にとは言いませんので。それと掃除スライムの方が如何しますか?」
「しばらく無し。装置作らないといけないから。数を作ったら納品しに来るよ」
「はい。分かりました。それといつもの良いですか!?」
「え? ああ、うん。スライムの移動が終わったらね」
そうして【空間倉庫】から月の桜桃倉庫へと移し終えたセレーネは、月の桜桃従業員全員に順番に抱きしめられていた。これがリーナが言ったいつものだった。こうして定期的にセレーネ成分を摂取する事で、元気に月の桜桃を経営出来るという事だった。そうでなくてもセレーネのためなら元気で経営するが、シンプルにやる気が絶好調か超絶好調かの違いである。
「ありゃ? お嬢。来てたんですか」
「あれ? キリル。何でこっちにいるの? お兄様に引き抜かれたって聞いたけど」
幼少期にセレーネに護身術を教えていた執事のキリルは、ライルに引き抜かれて再び騎士団に入っていた。現在は王都の衛兵部隊に所属している。
「ええ。衛兵の仕事で、ここの事を知りましてね。お嬢の店って言うんで、定期的に様子を見てるですわ」
「そうなんだ。ありがとう。キリルがいるなら安心だね」
「どうも。今日も迷惑客がいたんで様子を見に来ましたが、周囲に怪しい人はいないんで問題はないっすね。んじゃ、見回りに戻りますんで」
「うん。頑張って」
セレーネが手を振ると、キリルは頭を軽く下げて見回りに戻っていった。キリルは、態々この周囲を重点的に見回って、安全の報告に来ている。それもセレーネとの付き合いがあり、セレーネがどういう人かを知っているが故に、道程を邪魔するやつは捨て置けないという気持ちがあるからだった。
これらもセレーネが築いてきた人の繋がりだった。まだまだ狭い繋がりは、少しずつ広がってきている。これがセレーネにとって良い事なのか悪い事なのか。




