写し絵機試作品完成
セレーネはスライム生産装置を連続稼働して、問題点の洗い出しなどを行い細かい修正をしていった。一日だけ中継基地の作業があったので、その日のみは【空間転移】でそちらに赴いて作業していた。
そうして一週間が経った頃、ミュゼルが使用人を連れて総合研究室の研究棟を訪れていた。
「ミュゼル。出来たの?」
「う、うん……見てくれる……?」
「勿論」
セレーネはスライム生産装置を稼働状態にして、ミュゼルが持って来た写し絵機の試作品を見る。
「あれ? 設計と少し違う?」
「う、うん……ちょっと小さくしてみたの……作っていたらここら辺の部品は小さく出来るって……思って……」
「うん。良いと思う。条件起動も問題なく刻印出来てるね。後は【思考演算】の魔術結晶を填め込むだけだね」
「だ、大丈夫……?」
自分で問題ない事を何度も確認していたミュゼルだったが、それでも完璧に出来ているのか心配にはなっていた。特にセレーネの目から見て、不備がないかという不安が大きい。
「うん。全ての機能が組み立ててから発動するように調整してあるし、引き上げて壁を固定する形だから、固定部分が緩くならない限りは大丈夫。覗きこんで向こう側が見えるようになってるし、【記録媒体】のカードもちゃんと固定出来るようになってる。ここら辺は設計図通りに退いてあるから問題ない。ちゃんと出来てるよ。さてと、填め込もうか」
ミュゼルが作っている結晶の填め込み場所に【思考演算】の魔術結晶を填め込む。そして、魔力を流して魔術結晶を起動させる。条件起動の魔術陣なども起動していき、写し絵機が機能し始める。
「内部に魔術陣が出来てる。ちょっと覗くと見にくいかなって思ったけど、上手く調整出来たね」
セレーネは写し絵機をミュゼルに向けて撮る。実際に撮られたミュゼルは、自身が撮られたという事実に気付かず、少し困惑していた。
「う~ん。音は出した方が写し絵機を使ったって分かり易いかな」
「あっ! い、今使ったの……!?」
「うん。ミュゼルのきょとん顔が記録されたはず。音は魔術的に出すようにしよう。後で設計図を作るね。まずは、こっちの写し絵を転写しよう」
セレーネは事前に作っておいた転写機をゴーレム一号に持って来て貰う。
「これが転写機ね。こっちは設計図」
「作ってくれたの……?」
「うん。ミュゼルに写し絵機の設計図を渡した後に気付いたんだよね。写し絵の内容を紙に写す手段がないって。だから、それ専用に作っておいたの。ここに【記録媒体】のカードを差し込む。この状態になったら、中の記録を読み取る魔術が条件起動するから、後はこのボタンを押すと、中の紙に転写してくれるよ」
セレーネはそう言ってボタンを押すと、内部で稼働音が聞こえてくる。そうして紙が出て来ると、そこにはミュゼルと実験室の風景が写されていた。そこから二枚ほど紙が出て来る。
そこで止まった事で内部の転写機がしっかりと内部の記録を一回ずつ転写した事が分かる。現在の転写機の設定から、一回ずつとなるので計三回撮ったセレーネの写し絵が一枚ずつ出て来た事となる。
「ほら、可愛いミュゼルが転写出来たよ」
「か、鏡で見る私とそっくり……」
「本人だしね。結構細かく写してるね。もう少しぼやぼやすると思ったけど、実物みたい」
「本当ですね。ミュゼル様のお美しさがしっかりと出ています」
セレーネとカノンから褒められて、ミュゼルは顔を真っ赤にしていた。
「後は、転写機の設定を変えて転写を連続で出来るかだね」
セレーネは、転写機から出て来る【投影結界】を使って内部設定を弄っていく。そして、次々にミュゼルの写し絵を量産していった。
「うん。枚数設定も出来るし、【記録媒体】にある記録からどれを転写するかもしっかりと出来る。こっちも成功だね。取り敢えず、これがセットで売り出すしかないかな。もう少し色々と改良してコストを下げられないか検討する必要はあるけど。【思考演算】が鍵だから、他で抑える感じかな。後は、記録出来る写し絵の枚数も確かめよう」
「え、えっと……どうやって……?」
「ん? ひたすら記録していくの。そうじゃないと実際のところは分からないでしょ」
「確かに……大変そう……」
「まぁ、そりゃあね。でも、製品化には必要……って、アカデミーの研究でそこまで考えなくても良いか。論文にするならあった方が情報が正確だけど」
「が、頑張る……!」
「頑張って」
こうしてミュゼルの写し絵撮影が始まる。まだ外に出すわけには行かないので、実験室の中で撮影する事になる。幸い被写体には困らない。続々と現れるスライム達を撮影していき、良い写し絵を撮れるようにと夢中になっていった。
その間に、セレーネは写し絵機と転写機の見直しと改良のための設計図を作っていく。
「振動魔術で音を出す。これが一番だよね?」
「はい。先程のお嬢様の行動を見ていて思いましたが、これをこのまま市販してしまうと、勝手に遠くから記録されてしまい、それに気付けません。密偵には良いかもしれませんが、犯罪に使われる可能性も十分にあるでしょう」
「犯罪?」
セレーネ的には写し絵機が使える犯罪が思い付かなかった。結局犯行をするのに必要なのは素早さや力だと思っているからだった。
「盗みの下見で記録出来る事はかなり使えると思います。全員で下見をしなくても問題ないというメリットもありますから。後は……直接的な犯罪とは違いますが、勝手に人の写し絵を作り売りさばく事も出来ます」
「なるほど……」
下見という点をセレーネは失念していた。入念な準備をする上で、こうした道具で場所の絵を記録すれば話し合いがやりやすくなる。これを考えれば、音のしない写し絵機はかなり危ないものとなる。
「後は……お風呂に持ち込んで裸姿の撮影などもあり得ます。身体を洗っている最中は湯浴み着を着ていませんから」
「あぁ~……えぇ~……そんな事もあり得るの?」
「可能性を考えると。私もお嬢様を記録したいと思いますから」
「う~ん……成長記録的な意味だと有りだけど、結局家族か関係者に限るよね?」
「はい。ですので、ある程度大きめの音を出すのが良いと思います」
「あまりうるさすぎると、逆に迷惑だから、そこら辺のギリギリを攻めようか」
犯罪に使われる可能性を考えたセレーネは、音の大きさの調整をしていく。ミュゼルがやって来る。
「セ、セレーネちゃん」
「ん?」
「も、もしかしたら明かりが欲しくなるかも……」
「明かり?」
「うん。記録している時に机の下とかを見たら、結構暗くて……もしかしたら、ちゃんと記録出来ないかもって……」
「ああ~……なるほど……」
この辺りは実際に使ってみなければ、気付きにくい点だった。こうした点に気付けるようにするために試運転などはしないといけない。
「明かり……光魔術で一旦照らすとか?」
「う、うん。そういう感じが良いと思う……」
「問題点を纏めて改善方法も纏めるかな。ミュゼルはそのまま記録限界を調べて」
「う、うん……!」
これら改善点を直してから、ようやく写し絵機の完成となる。そのためにミュゼルは必死でスライム達の撮影を繰り返していった。




