自動錬成装置
翌日。発注した材料が届いたため、セレーネは早速試作品を作っていく。金属を成形していき、専用に調整した錬金釜とコンロを用意して組み立てていく。一日で終わる作業ではなく、四日掛けて試作品を製作していった。
二重三重に確認を重ねていき、問題がないと判断したところで試運転に入る。簡単に保湿スライムの材料をセットしての試運転となる。これにはナタリアも立ち会う。
「材料良し。魔力結晶良し。全体の魔力線の途切れ……無し。コンロと錬金釜の接続……良し! じゃあ、始めるよ」
「はい」
セレーネは装置を起動させる。すると、魔力結晶から魔力を吸収して装置が動き出す。適切な量の材料と魔術陣が錬金釜に入っていく。そして、攪拌棒や錬金釜などに魔力が入っていき、コンロの火力が調整されて錬成が始まる。
セレーネは魔力の通りなどを見ていき、問題がない事を確認していると錬成が終わり、錬金釜が傾いて中から保湿スライムが転がり出てきた。
セレーネは保湿スライムを手に取り膜の硬さと内部の保湿薬の状態、命令にちゃんと従うかを確認していく。
「問題なし」
セレーネはカノンが製作してくれたチェックリストに印を付けていって、装置の動きと出来上がったスライムに問題がないことを確認し終えた。
「次は魔力結晶」
装置に取り付けている魔力結晶の状態を確認する。魔力を吸収し溜め込む仕様にしているので、魔力が充填されている事が確認出来た。
「う~ん……使用する魔力量的に、もう少し魔力結晶が欲しいかな。安全のためにもう二つ取り付けよう。攪拌棒も問題なくて錬金釜も削れているとかはない。接触しないように調整出来てる。全体確認」
【投影結界】に表示される各部品の状態と実際の状態に齟齬がない事を確認したセレーネは満足げに頷いた。
「細かい改善箇所はあるけど、装置自体は成功! カノン! カノン! 一回で成功したよ!」
「はい。良かったですね」
飛びついてくるセレーネを受け止めて頭を撫でながらカノンはそう言う。試作品が成功した事が嬉しいセレーネは満面の笑みになりながらカノンにぎゅっと抱きついていた。
「魔力の問題と全体的な部品の修正のみで終わりそうですか?」
ナタリアは今後の研究に何が必要かを確認するためにそう訊く。
「うん。後は、他のスライムでも出来るかどうかの確認かな。温調スライムは、錬成レシピを見直して、冷気スライムと熱気スライムの材料と温調スライム用の材料を同時に掛け合わせて、魔術陣を専用に調整すれば出来るから、態々二種類のスライムを作る必要がなくなった。だから、同じような機構でも出来ると思う。こっちも出来るようになったら終わりかな」
「分かりました。二つの結果が出たら、報告書に纏めて提出してください」
「うん」
最初の試作品が安全に起動した事を確認したので、ナタリアはここで自分の研究室に戻る。
そして、セレーネは新たに温調スライム用の装置を製作していく。そちらは三日掛けて製作し、試運転も問題なく成功した。
「温調スライムも大丈夫。温度設定をこっちで出来るようにしたからサウナ用も製作出来るようになってるし、冷凍庫の保冷にも使えるようになった。後はもうちょっとその選択をやりやすくしたいかな……」
「文字を設定して押すだけで入力出来るようにしますか?」
「う~ん……それが良いのかな。文字を書くのも面倒くさくなってくるし、【投影結界】で選択出来るようにしてるから、それも出来るか……言葉の情報は基礎に組み込まれてるから、文字を組み込むのも難しくはないし、そっちで調整していこうかな」
セレーネは即席で【投影結界】を調整して、接触操作で文字を入力出来るようにしていく。そうして上限温度と下限温度の入力欄に数字を入力する事で、温調スライムが持つ温度を調整出来るようになった。
「よし。後は継続で使用して問題が出るかどうか。一応、保湿スライムの方が問題は起こってないけど、こっちでも同じとは限らないもんね」
「はい。材料は発注済みのものを使用するようにとナタリアから伝言を預かっています」
「あれ? 発注したっけ?」
「ナタリアが気を利かせてくれたようです」
「そっか。じゃあ、有り難く使わせて貰うかな」
セレーネはカノンを連れて倉庫に向かい、ゴーレム三号に必要な材料を指示して運び込んで貰う。セレーネが【空間倉庫】に入れて運んでも良いが、こういうときにゴーレムがどこまで出来るかを確認する事が出来るので、ゴーレム三号に頼む事にしていた。
運んで貰った材料を装置に入れていき、次々にスライムを製造させる。そのスライム達に問題がないかを確認しつつ、瓶詰めにしていき商品としていく。ここら辺は、ナタリアにも許可を貰っているので、商品にしても問題はない。
「よし。ちゃんと問題はなさそうだね。報告書に纏めよう」
装置を停止させたセレーネは、研究室に戻って報告書を書いていく。現状は二種類のスライム専用の装置しか出来ていないが応用すれば様々なものの錬成に使えるであろう事が予想される。
これならの報告書をナタリアに提出する。
「成功したのなら良かったです。現状は一つの錬成物専用になっていますね」
「うん。材料を考えるとね。一回一回入れ物を綺麗にするなら良いんだけど、基本的に使い回しかなって」
「確かに錬金術と魔術薬に関しては不純物がそのまま失敗に繋がりますから、そこは気を付けないといけないところですね。そうなると材料を入れる箱は取り外し出来るようにするのが良いでしょうか」
「う~ん……隙間に入り込んでる可能性もあるから、結局掃除が必要だと思う。でも、そっちの方が確実だし掃除はしやすいかもしれないね。そこら辺は使う人次第って感じかな。そっちで設計してみる?」
「そうですね……【記録媒体】に必要なレシピを入れておけば、正確に計り入れるでしょうから、その方向で進めましょう。基本的な錬成物のレシピを入れておけば良いと思います」
基本的な錬成物をこの装置で作る事が出来れば、この作業に割かれる人員を他の事に回せるようになる。これらを管理する者として二、三人いれば十分だからだ。これによって、錬金産業は大きく躍進するだろうとナタリアは考えていた。
セレーネからすれば、ただ自分の店をしっかりと回したいというだけなのだが、結果的にそれが国のためになっている。総合研究室の成果としては、十分以上のものだった。




