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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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写し絵機の研究

 翌日。ナタリアからも許可を得たことで、写し絵機の研究が本格的に始まった。


「取り敢えず、魔術から決めていこうか。ミュゼルも意見を出していってね」

「う、うん。頑張る……」


 セレーネは、移動式黒板を持って来てチョークを握る。


「まずは【思考演算】」

「こ、これで魔術道具全体の制御をする……?」

「そう。もっと細かいところまで言えば、写し絵を【記録媒体】に記録するための制御かな。昨日家で少し考えたんだけど、別に鏡に拘らなくても目の原理で行けるかなって思うんだ」

「め、目?」

「うん。目の原理は解剖する事である程度解明されてるでしょ? だから、レンズと像を結ぶ部分。そこに魔術陣を置いて像を感じ取る。それを【思考演算】で読み取って記録する。どうかな?」


 ミュゼルは、少し理解するのに時間が掛かったが、セレーネが考えた理論を理解した。


「で、出来るの?」

「さぁ? 理論的には出来そうだけどね。目と同じだから。【思考演算】は、そもそも人の脳みたいなものを作ろうとして出来たものだし。認識は出来なくはないと思うんだよね。問題は、レンズの位置とかの調整……いや、これも魔術でやるか」

「こ、コスト削減?」


 セレーネがよく気にしている事なので、ミュゼルも何故魔術でやるのかという理由に気付いていた。


「うん。自分でレンズを作るよりも、こっちの方が良いと思う」

「じゃ、じゃあ、光魔術?」

「だね。入って来た光を屈折させて像を結ばせる。像を結ばせる場所は固定させるとして……ぼやけさせないようにしないと」

「ぼやけちゃう?」

「うん。今だって眼鏡を使っている人がいるでしょ? ある程度の調節が必要になると思うんだよね。いっその事自分の頭と接続して視界に入った内容を読み取って記録するとかの方が良いかもね……」

「お嬢様は機構を考えるのが面倒くさくなると、すぐに人体に接続する事を考えてしまうのです。取り敢えず、また嘔吐されても困りますので、その提案は無しにしてください」


 セレーネの言葉にミュゼルが困惑している事に気付いたカノンが、セレーネがそんな風に考え始めた理由を説明しつつ、セレーネに釘を刺す。情報処理魔術の研究の際に何度も嘔吐している姿を見ているからこその釘だった。


「は~い。でも、目に接続するのは有りかも。視界の情報を読み取って、記録するって方法」

「そ、それは吐かないの……?」

「さぁ? 脳に負荷を掛けないから大丈夫だと思うけど。普通に失明の可能性とかがありそうだから、さすがに無しかな……」

「で、でも、記録する絵を確認しながら記録したいと思う……」

「まぁ、そうだね。いざ紙に写したら、欲しい場所がなかったとか意味ないから。記録する風景を覗けるようにはしよう。それを考えると、昨日ミュゼルが言ってた筒のアイデアは良さそうだね。覗きこむって行為に合ってるし。でも、【記録媒体】の事を考えると、あのカードを差し込めるようにするのが良さそうなんだよねぇ……そうなると、底を広くして……上に筒を乗せつつ覗きこむような……こんな形?」


 セレーネが整えていった形は、四角い箱の中央に丸い筒があり、反対側から覗き込むための場所を取り付けるというものだった。箱の底面に【記録媒体】が刻まれたカードを差し込む事が出来るようになっており、簡単に入れ替えられるような設計になっている。


「どう?」

「もうちょっと持ちやすいと良いかも……あ、後、ここに収納とか出来ないかな?」

「ふむふむ。持ち運びに不便って事ね……」

「つ、筒を中まで通さなくても良いと思う。最初だけ筒状にして記録する景色を限定させる事が出来れば良いから……」

「なるほどね。じゃあ、この筒を取り除いて……魔術陣を条件起動にして……組み立て……」

「お、折り畳むとか……」

「上部分を折り畳む?」

「う、うん。折り畳んで写し絵機にするの。それを戻したら、一枚の板になる……とか……?」


 あまり自信の無いミュゼルは、少し小さな声になりながら提案していた。それを一言一句聞き逃さなかったセレーネは、少し考えていく。


「う~ん……う~ん……」

「こ、こういうのは……?」


 ミュゼルも黒板に書き加えて機構の提案をしていく。ただし、さすがに設計は慣れていないので、拙い絵になっていた。だが、それでもミュゼルの提案はある程度理解出来るくらいのものではあった。


「台形の形にすれば、中の空洞もある程度大きくなる。うん……出来るかもしれない。カノン、設計図用の紙を出して」

「はい」


 カノンが準備した製図台に座ってセレーネは設計図を描いていく。【高速演算】を時間魔術で制御し高速思考を繰り返す事で、設計図を高速で仕上げていった。


「まぁ、こんな感じかな。はい、ミュゼル」

「あ、ありがとう……」

「うん。【思考演算】の部分は、私がやるからそれ以外は頑張ってね」

「う、うん!」


 ここでセレーネに頼りすぎてはセレーネの研究になってしまうので、ここからはミュゼルが作って組み立てる事になる。しかし、【思考演算】の魔術結晶に関しては、セレーネかナタリアでなければ錬成出来ないので、その部分だけはセレーネが担当する。

 設計図を貰ったミュゼルは、それを持って使用人達とアカデミーへと戻っていた。それを見送ったセレーネは、軽く身体を伸ばす。


「それにしてもミュゼルは面白い事を考えるよね」

「魔術書の経験によって、そう考えさせられたのではないでしょうか?」

「転写って点で気付いたのかもね。でも、これは有り難い事だよ。これのおかげでこれから先の研究記録が変わってくるし、より正確に色々なものが伝えられるようになるもん」

「はい。ですが、記録したものを転写するのは、どうするのでしょうか?」

「あ……」


 写し絵機を設計する事ばかり考えていたセレーネは、そこに記録した風景を紙に転写するための装置などを考えていなかった。


「【記録媒体】から直接転写出来るのって……」

「お嬢様だけかと」

「う~ん……まぁ、印刷機に突っ込んで読み取って転写するようにしようか。それなら簡単に作れるでしょ。さすがに、ここで作る訳にもいかないから家で作ろうか」

「それが良いですね」


 完全に失念していたセレーネは、研究室ではスライム自動で生産していく装置の設計をしていき、自宅では写し絵機に記録された画像を現像する装置の設計をしていく事となった。

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