ヒナタ・スノーホワイト
翌日。セレーネは再び王城に来ていた。今回は会議室に呼ばれる事はなく応接室にいる。目の前にはガンドルフが座っていた。
「ふっ、国王である俺に対してその顔が出来る者は少ないぞ」
「絶対昨日話しても良かったですよね?」
「昨日は昨日で忙しかったからな。遠距離連絡用魔術道具に関する話だ。その前に、一人呼んでいる奴がいる。少し待ってくれ」
ガンドルフがそう言って二分後、応接室にヒナタ・スノーホワイトが入って来た。
「昨日会議室にいた大臣さんですか?」
「はい。ヒナタ・スノーホワイトと申します。調合開発大臣を務めています。魔術道具、錬金術、魔術薬に関する研究所を取り纏める機関の長です」
「魔動列車開発部もこの機関の一つだ。ヒナタは特に魔術道具に精通している。取り纏めの仕事が忙しくて研究は出来ていないがな」
「つまり、利権の話ですか?」
魔術道具に関する話をするという事で、調合開発大臣が出て来れば、そういう話になるのかと考えてしまう。セレーネとしては、ある程度の利益を得られれば良いと考えているので、全て持っていかれなければ良い。
「利権に関しては、大体取り決め通りだ。今からヒナタが利権の話をする事はない。ヒナタも納得した結果だからな」
「本日同席させて頂いたのは、魔術道具などに関する話をするためです」
「どちらかと言えば、俺よりもヒナタの用事がメインだ」
ヒナタはセレーネの横に座る。
「遠距離連絡用魔術道具の普及ですが、まずは王都からと考えています」
「中継基地があるのが王都だけだからですか?」
「はい。王都もそこそこの広さがあるので、遠距離連絡用魔術道具があった方が便利だと思われます。まずは一般向けではなく、騎士団向けに配備します。その計画案がこちらです」
ヒナタは手元の鈴を鳴らす。すると、外からメイドがワゴンを押して入って来た。その中の紙束から一枚の地図を抜き出して、テーブルに広げる。
「こちらの門から衛兵の詰め所や騎士の詰め所に連絡を送るという形です」
「無線で出来るようになっても有線での計画なんですか?」
ヒナタの地図には通信線の予定図を引いてあり、有線で繋いでいる事が分かる。
「より確実な連絡方法を考えた結果、こちらに落ち着きました。設置型の通信機器を作る事になりました。こちらは、その設計図ですね」
ヒナタはワゴンから設計図を取り出して、セレーネに見せる。魔術道具の設計図なので、セレーネもある程度理解する事が出来る。
「設置型ですか?」
「はい。持ち運びにしてしまうと、どこにあるのか分からなくなってしまいますので、固定の部屋を用意して、そこで通信を受ける事にしています。無線型は、衛兵達の一部に通信を主とする人員を作り試験導入していきます。この設置型の方でセレーネさんから見て問題はありますか?」
「…………ないと思います。変換魔術陣も私が作ったものを使用しているので、この設計を守れば問題はないはずです。これが出来る職人がいればの話ですが」
「こちらは問題ありません。多重魔術陣になっていれば、色々と困る事になりますが、こちらは単純な魔術陣ですので。魔術結晶の試作は、こちらの研究所でもやるようになりましたが、成功率も低く実現が難しい状況です」
「そこは経験でしか解決出来ないと思います」
セレーネも何度も失敗を繰り返して学んでいった。そこで気付いたのは、コツは自分で掴むしかないという事。なので、ここでアドバイスをする事も出来なかった。
「その辺りは、学園とアカデミーでも進めている。教育課程の改定も行われているからな。そのうち職人は増えていく。今の研究員には、セレーネの論文から学ばせる方針になっている」
「う~ん……時間が掛かりそうですけど、学びってそういうものだし仕方ないですね」
「はい。それでゴーレムについて詳しく聞きたいのですが!」
ヒナタは目を輝かせながらセレーネに迫る。先程までと違って押しが強くなっているヒナタに、セレーネは若干戸惑いながらガンドルフを見る。
「それがヒナタの素だ。魔術道具に目がない。収集家ってやつだ。これでも若くして大臣を務められるくらいには優秀な奴だ。そもそも今日呼んだ理由の大半がゴーレムについて詳しく聞きたいというヒナタの要望だからな」
「メインってそういう事なんですか?」
「ああ。俺が王城に呼べば来るだろう。ヒナタが総合研究室に向かうとセレーネは困惑するだろうからな。ここで俺が仲介に入る事にしたわけだ。この前は報告だけでまともに挨拶は出来なかったからな。答えてやってくれ」
「分かりました」
セレーネはヒナタと会話していき、ゴーレムに関する情報を話していく。
「では、ゴーレムに関しては本当に魔術道具として完成しているという事なのですね。核から何まで全て人工物で出来ている……素晴らしい! ここから感情が生まれれば魔術的に感情を再現出来る事になります。感情の表現は確かにデメリットも大きいですが、ゴーレムが感じている事を知るのに良い事ではないでしょうか?」
「確かに、ゴーレムが感じている事を知るには良い事だと思いますが、反乱の危険性が大きすぎるので、私は消した方が良いと思います」
「そうですね。反乱という点で言えば、気を付けなくてはいけません。緊急停止用の何かがあれば安心かもしれませんよ」
「最悪コアの停止を命じればどうにかなると思います。基本的に主人登録した相手の命令が絶対となるように調整したので」
「その点は報告書にありませんでしたね」
「最近組み込む事に成功したものですから、まだ報告書に出来ていないんです。ナタリアさんには報告していますが」
「なるほど。セレーネさんは、魔術道具職人というよりも魔術に関する事全般に関する研究者という感じですね。ヒルデも気に入りそうです」
「ヒルデ?」
「ヒルデブランド・グリーンという名だ。グリーン公爵家の当主であり魔術科学大臣を務めている。更に学園とアカデミーの管理も仕事だ」
「一人だけ仕事量が凄そうですね……」
「実際多いが、その分部下も多い。上手く分担して仕事をしている。だが、どちらかと言うと魔術の方を好んでいる。だから、セレーネを気に入るだろうという事だ」
「そうなんですね。でも、一研究員が大臣の方々と仲良くしていたら、私が変に疑われません?」
「ん? ああ、家に取り入ろうとしているって事だな。大丈夫だろう。そもそも侯爵家の人間であり、伯爵令嬢を婚約者としている時点で家に取り入る理由がないからな。加えて、ミュゼルやユイとの縁もある。何かしら言われれば俺が出よう」
「陛下が出るのが一番あれだと思います。そもそも陛下が私のところに来すぎているので、そういう噂は出ているのでは?」
「あるな。まぁ、ミュゼルのおかげで誤解は解けているが、今度はミュゼルと婚約しているのではという話が出ている」
「初耳です」
「黙らせたからな。取り敢えず、これからは大臣も研究室に送ろう。この調子なら大丈夫だろう」
「そこまで用事がある方もいないでしょうしね」
そう言ってセレーネとガンドルフは笑っていたが、ヒナタだけは苦笑いになっていた。




