呼び出し
翌日。テレサ達を見送ったセレーネは、服を着替えて王城まで来ていた。その表情はかなり暗い。そんな表情のまま、控え室にて、椅子の背もたれに寄り掛かっていた。
「お嬢様。だらしがないですよ」
「むぅ……そもそも今更ゴーレムの説明がいるの? ナタリアが提出してくれた資料で良くない?」
「お嬢様は理解出来ると思いますが、魔術道具に詳しくない方も多いですので。それに王城にも配備するかもしれないとされていますから、開発者であるお嬢様から直接の確認をしたいのでしょう」
「面倒くさい……」
そんな事を呟いている控え室の扉がノックされる。セレーネは、即座に姿勢を正した。
「どうぞ」
セレーネが返事をすると、迎えの騎士が扉を開けた。
「準備が整いました。こちらへどうぞ」
「分かりました」
セレーネはカノンを置いて、騎士に連れられて大臣などが集まる会議室に通された。セレーネは入口でカーテシーをする。
「入って座れ」
「はい。失礼します」
ガンドルフに言われて、セレーネは中に入りガンドルフの正面になる席に座る。この場には、ルージュ公爵家のリンドもいた。だが、ラングリドの姿はない。
(せめてお父様が居てくれたら気楽なのに)
セレーネは内心でそう思いながら、ガンドルフに視線を向ける。話を聞く準備が出来たと判断したガンドルフが、早速本題に入る。二人だけであれば、軽い話から入るが、ここには大臣もいるので本題から入るしかなかった。
「早速だが、魔術道具としてのゴーレムについての説明を頼む」
「はい」
セレーネは立ち上がってから話し始める。
「皆様はお手元の資料をご覧になりながらお聞き下さい。その方がご理解しやすいかと」
セレーネがそう言うと、大臣達はテーブルに置かれている資料を手に取った。
「まず魔術道具としてのゴーレムは、魔物であるゴーレムから着想を得た存在です。情報処理魔術による身体の制御を行い、こちらの指示に従うように調整しています。現状の設計では耐荷重は五百キロまでとなります。実地試験に関しては資料にあります通り、現在も進行中です。現状人に危害を加える事はなく、指示に従っているため物を壊すという事もありません。ですが、これは今後時間を掛ける事で変わる可能性があります」
セレーネがそこまで説明すると、黄色い髪をした男性が手を挙げる。それを受けてセレーネは一度黙る。
「それは、今後このゴーレムも魔物のように人を襲うという事か?」
「まだ可能性でしかありません。実地試験にて、その兆候などが見られなければ基本的には問題なしと判断出来ると考えられます。ただ現在並行して進めているスライムの研究では、スライムが喜びの感情を出している事が確認されています。このようにゴーレムの核も感情を持つ可能性は否定しきれません」
「スライムが感情を持つ理由は分かっているのか?」
今度は青い髪をした男性が手を挙げながら質問する。
「はっきりとは分かっていません。ですが、一つ仮説があります」
セレーネが話そうとしている仮説は、昨日の夜、寝る前にテレサと話している際にテレサから出た仮説だ。
「スライムの場合、錬金術を用いて作るのですが、材料にスライムの核の粉末があるのです。そこの粉末により、生物としての感情が入り込んでいるのではないかと考えています。現状ゴーレムに感情らしきものが見当たらない事にも、これによって説明が付きます。また、喜びの感情以外の感情に関しては、スライム自身が表現の仕方を分かっていないという説があり、現在感情によって色を変えるように出来ないかと考えているところです」
「なるほど。では、そのスライムのように感情を持つ可能性は限りなく低いと?」
「スライムと同じようにという意味でしたら、そう考えられます。ですが、これから時間を掛けて感情を学習する可能性は否定出来ないとだけ」
スライムと同じように感情を得る可能性は低いと考えられる。だが、これからセレーネ達を見て学習しないとは言い切れなかった。
「ふむ。実地試験の期間はどのくらいを考えている?」
「一年は見た方が良いと考えています」
「そうか」
ここで、ガンドルフが手を挙げる。それだけで大臣達の気が引き締まる。
「材料費に関しては、これで決定か?」
「現在改良案などを考えていますので、まだ確定ではありません。服の設計に関しては見直すつもりです。魔力結晶をチェーンメイルのように編むのは難しいので」
「そうか」
セレーネの答えを聞いて、ガンドルフは少し考え込む。それは大臣達も同じだった。その中でリンドが手を挙げる。
「半年の段階で、うちの別邸にも試験導入出来ないだろうか」
「私は管理出来なくなってしまいますが……」
「異なる環境下で得られる情報も多いだろう。報告に関しては別邸に住んでいる娘にやらせる。ユイとは学友であるから報告もやりやすいだろう」
それを聞いて、セレーネはすぐにユイが管理をする事になると気付いた。ユイであれば、セレーネも接しやすく報告なども密に行えるとリンドは考えていた。
「分かりました。最低限の安全を保障出来る状態になったというのを条件にしてください」
「良いだろう」
他の大臣も後に続こうとしたが、セレーネとの繋がりが薄いため切り出す事が出来なかった。
「王城への配備は一年後だな。セレーネが考える問題点は、ここにもある通りゴーレムを作る職人がいないというところか?」
「はい。現状私しか作れませんので。情報処理魔術に精通した研究者が私しか居ないという事もありますが、それ以上に部品の精密さが大事なので、大量生産という面では少し厳しいかと」
「何か考えはあるのか?」
ガンドルフが確認すると同時に、大臣達の視線が一気にセレーネに集中する。だが、セレーネは全く動揺もせずに答える。
「現在考えているのは、部品を自動で作る設備を作るというものでしょうか。機械を作る工場のようなものを想定していますが、一番の違いは必要な魔術の転写です」
「転写……それはミュゼルが研究している魔術書のようなものか?」
「はい。自動で部品に転写が出来れば、魔術道具を作る際に魔術師を必要としなくなります。問題は部品に正確な転写が出来なければ意味がないという事です。魔術道具は、魔術陣に含まれる術式などが潰れてしまえば効果を持たなくなります。なので、魔術師が作業する必要があるのです」
「実現出来そうか?」
「現状は不可能です。転写は自分でやらなくては、掠れてしまうなどの問題が発生してしまうというのが現状です」
「そうか。実現の見込み出来次第、ナタリアに計画書を渡してくれ」
「はい」
「よし。では、これからも定期的な報告を頼む。こちらも最初に配置する場所などの協議をしておく。今日はもう下がって良い。それとついでだ。ミュゼルのところに行ってやってくれ」
「分かりました。失礼します」
セレーネはカーテシーでお辞儀をしてから部屋を出て騎士に案内されてミュゼルの部屋へと向かった。




