テレサとルリナの一時帰宅
それから一ヶ月が過ぎた。
掃除スライムの核の平面化は、かなり難航したが、魔術による形の強制で何とか実現を成功させる事が出来ていた。今は、カノンの部屋のタンスの裏などを掃除しており、問題は起こっていなかった。
ゴーレムの方は、実地試験における問題は発生していない。それぞれがそれぞれの仕事をしっかりと行っており、部品が破損するという事も発声していなかった。
無線での遠距離連絡用魔術道具は、科学研究所の職員達でも成功し、誰にでも使える事が判明した。距離の問題もないため、中継基地の建設と増幅器の設置が始まる事になった。
その関係で、テレサとルリナが一時的に王都に帰ってきていた。別邸に帰ってきた二人をセレーネが迎える。
「お姉様!」
「セレーネ。良い子にしていたかしら?」
「うん!」
飛びついてくるセレーネを受け止めたテレサは、セレーネを抱きしめながら頭を撫でる。テレサの胸に顔を押し付けながらしっかりとしがみついてくるので、しばらくそのままにしていた。
「セレーネ、屋敷に入りたいのだけど」
テレサがそう言うと、セレーネは離れはしなかったが、テレサの横に移動して抱きついていた。これなら歩きにくいが歩ける状態になる。そのまま一旦お風呂に向かって、汗などを洗い流してからセレーネの部屋に戻る。
セレーネはテレサをベッドに誘導して抱きついていた。
「お姉様達はしばらくいるの?」
「明日には発つわ。通信線を埋める作業の確認に来ていただけだから」
「通信線って名前に決定?」
セレーネも軽く報告は受けているが、科学研究所の担当部分に関しては全て理解している訳では無い。最後の報告書でも呼称は仮称の状態になっていたので、最終決定がされたのかも知らなかった。
「それが一番分かり易いもの。悩んでいたようだから、これにするように意見を出したわ」
「わぁ……お姉様らしい。でも、列車の作業は?」
テレサ達が担当していたレールの敷設作業の護衛などの仕事は大丈夫なのかと心配になったセレーネが確認する。
「冒険者に引き継いだわ。こっちの敷設も重要だからという理由ね」
レールの敷設が順調に進んでいる事もあり、他の冒険者に任せるという話になった。その代わり、新しく重要な事業となる遠距離連絡用魔術道具の通信線の敷設などの護衛を任される事になっていた。
遠距離連絡用魔術道具の普及を進めるために最初の一手は安全に進めようというのが国の考えであり、長い間レール敷設の護衛をしていて、被害を全く出していないという実績があるのでテレサが選ばれる事になった。
「むぅ……今日はいられるんだよね?」
「ええ」
「じゃあ、お姉様に見せたいものがいっぱいあるの! 来て来て!」
セレーネはテレサとルリナにスライム達とゴーレムを見せていく。これにはルリナが困惑する状況に陥った。
「ま、魔物って作れましたっけ……?」
「作れたみたいね。それを制御する術を持っていないといけないけれど。これは人を襲わないのよね?」
「そのはず。今は、その実地試験中。問題は起こってないから、今のところ大丈夫だけど、スライムに感情みたいなものが出てるんだよね」
「感情?」
表情が動かないテレサと違い、ルリナはかなり困惑していた。人工的に作った魔物に感情があるという事がどういう事なのか理解出来ていないからだ。
「うん。お礼を言ったりすると、身体がぷるぷるして動くの。普段はそんな事もないし、指示を出してもあまりそういう事をしないのに、褒めたりした時になるから喜んでるんじゃないかなって」
セレーネの話を聞いて、テレサは少し考える。魔物に関する研究をしているわけではないので、答えを知っている訳では無い。なので、考察をする事しか出来ない。
「言葉に反応をしてるのよね?」
「うん。撫でてない時も反応してるから」
「言語の理解は、指示を出す上で必要というのは分かるけれど、問題は反応ね。あの子達がスライムを管理しているという事は……メイドの真似をしているだけじゃないかしら?」
「それも考えたんだけど、ずっと喜ぶしかしないんだよね」
感情は喜のものしか発見されていない。怒っているところも悲しんでいるところも楽しんでいるところも発見出来ていなかった。ただ褒められたりお礼を言われると身体を揺らすというだけなのである。
メイド達は常に怒っている訳でも悲しんでいる訳でもないが、毎日楽しんではいる。だが、普段のスライムの姿が楽しんでいるように見えないので、ただ真似をしているという状態ではないと考えられていた。
「そうなると違うかもしれないわね。実際に喜びを感じているという事かしら。喜び以外を感じていないという事が気になるところだけれど、感情を抑制する事は出来ないのかしら? 感情を持っている事自体が危険でしょう?」
テレサもすぐに同じ結論に至っていた。作っている対象が魔物という事もあり、仮に人と敵対した時に困った事になるという事が容易に想像出来るからだ。
「まぁね。でも、感情が何によって出来てるのか分からないから、下手に封じちゃうと」
「別の感情だけが表に出て来る可能性があって、逆に危険という事ね。だから、まだ試験の途中なのね」
「うん。これまで問題が起こってないから、もう大丈夫な気もしてきたけど、まだ一ヶ月ちょっとだからさ」
感情の有る無しを判別するには、まだ情報の量が足りていない。セレーネはそう考えていた。そして、それはテレサも同意見だった。
「そうね。最低でも一年分の情報は欲しいわね」
「一年かぁ。まぁ、安全確認のためなら、そのくらいの時間は必要かな。その間に別の改良とかを進めておこうなかな」
「それが良いわね」
そんな風に話しているところで、ルリナが小さく手を上げていた。
「どうしたの?」
「あの……スライムの感情の件なのですが、もしかしたら感情の表し方が分からないとかはないでしょうか?」
ルリナの言葉にセレーネとテレサはゆっくりと目を合せる。
「あり得ると思う?」
「何故喜びの表し方だけ決まっているのか分からないけれど、実は感情を持っているという説は十分にあり得るわね」
「う~ん……寧ろ感情を表す方法を作ってあげる方が良いかな?」
「色はどうでしょうか? 嬉しければ黄色、怒っていれば赤、悲しければ青、楽しければ緑という風にすると分かり易いと思います」
「色の変化かぁ……有りかも!」
ルリナの意見を取り入れたセレーネは、色の変化を出す方法を考えていく。テレサも意見を出して手伝っていく。それは、アカデミーの方に行っていたフェリシアが帰ってくるまで続いた。フェリシアが帰ってきた後は、久しぶりに皆の時間を過ごしていった。




