ゴーレムとスライムの報告書
それから一週間の間に、王都近くの中継基地での作業を行う。通いで作業するには微妙な距離感だったので、ナタリアの助言通りに、近くにテントを張って泊まり込みでの作業をしていく事になった。【空間拡張】が掛けられたテントは、お風呂もトイレもあるので、セレーネ自身は特に不便に思う事はなく、作業をしていく事が出来た。そうして、魔術的作業が終わった後、中継基地が完成し、遠距離連絡用魔術道具を無線で利用する事になる。
この試験はセレーネとカノンで行われる。カノンがどんどんと距離を離れていきながら会話を続けるという試験で、中継基地がカバー出来る範囲を調べるものだ。
通信状況は良好で、声も有線の時とほぼ変わらずに届いている。
中継基地が電波を受け取れる範囲は、完全に王都を包み込んでおり、王都内であれば問題なく通信出来るであろう事は間違いなかった。魔力的な問題も特になく、中継基地にも問題が起こっている様子はなかった。
セレーネもそれを確認したので、残りの試験は科学研究所の方で行う事になった。セレーネとカノンでは魔力の量が多すぎるので、魔力が通常程度しかない科学研究所の職員達が調べる事で誰でも使えるという事を強調させるための試験だ。
この作業が終わり次第、電線を繋げて、途中で増幅器を付ける。そして、街の近くなどに中継基地を建設していく事になる。最初は線路沿いに建てていき、電線なども線路沿いに埋めていく事になっている。作業には冒険者による護衛が付く。
遠距離連絡用魔術道具に関しては、全てが上手くいくという事が分かり次第、国家事業の一つにされる。そのため護衛費などは国から出される事になっている。研究所のものにするには、規模が大きすぎる事に加えて予算の問題などもあったからだ。
加えて、いずれはセレーネの手を離れる事を考えているため、セレーネが作り出した魔術陣を組み込める人材を育成中である。
そんな事もあり、再びしばらく暇になるセレーネは、ゴーレムとスライムに関する報告書を受け取っていた。セレーネ達が留守にしている間は、スピカやフェリシアなどがスライムやゴーレムの世話をしていたので、報告書はいくつも溜まっていた。
セレーネは、部屋の中でクロに寄り掛かって報告書を読んでいた。
「ゴーレムに問題なし。雑菌が入り込んだみたいな事もない。抗菌処理は上手く出来てるね。食べ物が急にカビるとかあったらどうしようと思ってたけど良かった。私の方も大きな問題はない。きちんと入れた物の整理をしてくれているし、カノンと同じようにやってくれているから、私の方が迷う事もない。私が欲しいものを言えば、それを取ってきてくれる。今のところ間違いはないから、ほぼほぼ成功と言っても良いかな。
それでスライムの方は……」
セレーネとしては、自分の【空間倉庫】でも確かめられるゴーレムよりもスライム達の報告書を楽しみにしていた。僅かに見せていた感情らしきもの。それが本当に感情なのかどうか。セレーネは、それを知りたがっていた。
「スライムの感情は……基本的に喜びだけ? 褒めたりお礼を言うと、身体を震わせて返事をしているような感じになると。それ以外では、特に感情らしきものは見えない。これは、フェリシアもスピカも同じように報告書で書いてる」
「にゃ~」
「ん? クロも見たの?」
「にゃ~」
セレーネは、クロが頷いたのを見て、これを確認した中にクロも追加した。
「クロは仲良く出来てる?」
「にゃ?」
「スライムと喧嘩してないかって話だよ」
「にゃ!」
クロはキリッとした顔で頷く。そんなクロをセレーネは優しく撫でる。
(スピカの報告書だと、クロが洗濯スライムを転がして遊んでいたって書いてあったけど、クロは気に入らなかったわけじゃなくて、単純に遊んでいただけなのかな。それならクロの遊び相手用に何も効果を持たない膜持ちのスライムを用意して上げようかな)
これに関しては、セレーネ個人のものなので、自分で材料を集めて作り出す事になる。普通であれば、どこかで器具を借りないといけなくなるが、セレーネは屋敷に自前の実験室があるので、簡単に作り出す事が出来る。
「クロはスライム好き?」
「にゃ~!」
「そっか。じゃあ、クロ用に作ってあげるね。大切にしないと駄目だよ」
「にゃ!」
セレーネはクロを撫でてあげてから、自分の実験室に向かって消化液も持たない無害で少し大きなスライムを作り出す。クロが遊ぶ事を考えて膜の硬さは最大まで上げている。
そのスライムを持って部屋に戻ってくると、クロがスライムを転がして遊び始める。乱暴に遊ぶわけではなく、肉球でコロコロと転がすだけの遊びだ。それでもクロは楽しそうに遊んでいた。
スライムの方はクロの傍でコロコロと自分から転がってもいた。ここからスライムにも感情が生まれるのかと考えて、セレーネは定期的に観察する事にしていた。スライムは最終的にクロの枕になった。
(まぁ、良い感じかな。枕になっている間に逃げようともしないし。感情……ゴーレムの皆はまだ芽生えていないけど、何か条件があるのかな。ここら辺はもう少し観察が必要になるかな)
【思考演算】による感情の目覚め。それがスライムだけに起こる事だとは限らない。そう考えているセレーネは、ゴーレムの喜怒哀楽をある程度確かめているのだが、それの成果も出ていない。
(思考機にも同じような事は起こっていないし、環境的な問題だとしたら、二番ゴーレムが同じようになるはず。条件的には私の屋敷で暮らしていて、メイドの皆と接しているという事で合ってるし。そういえば、二番ゴーレムはメイド服が着せられてたっけ。メイドの皆が着せたがったから着せたけど、それでも特に問題は起こってない。感情の目覚めは、【思考演算】を乗せた対象によって変わると考えられるかな。ゴーレムの服かぁ……これもゴーレムの動きを補助する形で考えてみようかな)
セレーネはゴーレムに関して、新しく作るものを決めていった。それはゴーレムの服作り。ただし、本物の布で出来たような服ではなく、ゴーレムの動作をサポートするような服作りだ。
これに関しては、研究室の研究内容になるので、作業は研究室の研究棟で行う事になる。




