ゴーレム作りへ
総合研究室から帰ってきたセレーネは、保湿スライム達をメイド達に渡していく。洗濯スライムと掃除スライムは、カノンの部屋で飼う事になっている。
「膜の硬さが違うから、そこら辺のレポートもお願いね。零番も膜付けようか」
「良いんですか!?」
最初の保湿スライムを瓶に入れているメイドがセレーネに寄る。
「うん。どのくらいの硬さが良い?」
「三番くらいで!」
「ん~了解」
保湿スライムを受け取ったセレーネは、零番に膜を付けて返す。返して貰ったメイドは嬉しそうに零番保湿スライムを抱きしめる。
「ありがとうございます!」
「ううん」
「これレポートです!!」
零番保湿スライムの今日のレポートを提出される。セレーネは、そのレポートに素早く目を通していく。
「体積が変わった様子はない。身体が溶ける事もない。保湿役の生成も問題なく出来てる。うん。良いね。ただこれからは埃を食べる事は出来ないから、そこだけ覚えておいて」
「はい! 身体が出来て良かったね」
メイドがそう声を掛けると、零番保湿スライムが身体を揺らした。
「零番も嬉しいみたいです」
「それは良かった。ん? えっ!? 感情があるの!?」
「初めての事ですけど……想定外ですか?」
「そりゃあね……【思考演算】が感情を学習したって事? 【記録媒体】は備え付けくらいしかないけど、まぁ、そこそこの数は記録出来るから皆を見て感情を学習したって可能性はなくはないかも……」
セレーネはじっと零番保湿スライムを見る。見た目では感情を持っているようには思えない。先程の揺らしも本当に喜の感情を出したのかも分からない。だが、その可能性はなくはなかった。
「感情らしきものを示したら、ちゃんと記録しておいて」
『はい!』
「じゃあ、解散。仕事に戻って」
メイド達は保湿スライム達を連れて、それぞれの仕事に戻っていった。
「カノンはどう思う?」
「仮に感情を持つことが出来るのであれば、かなり危険かと」
「同感。感情制限を付ける事を考えないと」
セレーネとカノンの懸念は、感情を持つことによるスライムなどの反乱だ。加えて、これによってゴーレムにも同じような感情が芽生える可能性がある。スライムでも危ないが、力強いゴーレムが反乱を起こせば危険度は跳ね上がる。
そのため一定以上の感情を抱かないようにストッパーを付けなくてはいけなくなる。これは感情を持つことが確定してから考えるため、一旦置いておく事になった。
「一応、ナタリアにも報告はしないとかな。ひとまず、スライムの研究は実地試験の結果待ちで、明日からはゴーレムの試作を進めていこう。最初は普通の関節タイプの試作だから、集中力が要りそう……研究室に泊まって良い?」
「そのための施設も付いている事ですし良いでしょう」
カノンからの許可を貰ったため、お泊まりの準備をしていく。主にカノンが。
翌日。セレーネはカノンを連れて研究室に入る。実験室に素材を運び込んで製作を始める。素材も既に錬成されているので、基本的に成形していくだけで良い。生産魔術の【金属操作】を使って、設計図通りに成形していく。
最初に作るのは腕だ。関節をどうするかを決めるために調整するからだ。セレーネは集中して作業を続ける。机の上での作業は効率が悪いので、広い地面に部品を広げながら作っていく。最初は工具を使った組み立てになる。十時間程掛けて、セレーネは右腕を完成させた。十時間の間に、カノンが食事を食べさせていたので食事の心配はなかった。
セレーネは魔術陣を刻んで駆動試験を行う。肘関節と手首関節、指関節がスムーズに動く。
「問題なし。人と同じ可動域だと良いかな?」
「挙動の問題がありますので仕方ないかと」
可動域の計算などを考えると、人間の動きを模倣するのが一番手っ取り早い。身体が人間と同じなら尚更だ。
「う~ん……問題なし!」
再度チェックをして、問題が無いことを確認したセレーネは、魔術型の関節の腕の試作を始める。こっちは肘の関節を作らなくて良い分、先程よりも簡単に組み立てる事が出来ていた。
「【座標指定】を【思考演算】で制御する。今は私が【思考演算】の代わり」
セレーネは上腕部品を持って、魔力を流し【座標指定】を発動する。前腕部品に紐付けしているので、前腕部品が上腕部品の動きに従って浮かび上がる。カノンが上腕部品と前腕部品の間に手を入れるが、特に問題がない。【座標指定】の設定を調整することで、上腕部品と前腕部品の間の空間を伸ばす事が出来る。
「ここら辺の計算が面倒くさいかな?」
「スライムと違い、ゴーレムは【記録媒体】をいくつか積むので問題ないと思いますが」
「そこに計算式を記録しておくから、問題はないか。棚とかの高さを考えると、魔術型の方が良さそう?」
「そうですね。低温維持と抗菌の魔術陣を組み込む場合を考えた方が良いと思います。それとどのくらいの重さまで持つ事が出来るか確認しなければなりませんね」
「そっちの干渉は大丈夫。もう考えて作ってあるから。重さの方は、両手を作ってからかな」
セレーネは手に低温維持、全体に抗菌のための魔術陣を刻む。それらが問題なく機能する事を確認する。
「これで良し。うん。ちゃんと動くし、関節も維持されるね。メンテナンス的には、こっちの方が楽かな。さてと、次は脚の方を作って確認しないと」
両手の確認よりも脚が上手く出来るかを確認する事を優先していた。だが、その前にカノンがセレーネの脇に手を入れて立ち上がらせる。
「その前に夕飯とお風呂です」
「えぇ~……」
「えぇ~じゃありません」
セレーネはカノンに連れられて強制的にお風呂と夕飯を済ませた。そこから寝るまでの時間に脚を作るための部品作りを進める。腕を作る作業で大分慣れてきていたので、部品を作る時間は大分減少しているが、それでも寝るまでの時間に完成する事はなかった。
カノンが監視している以上夜更かしは出来ない。なので、セレーネは大人しく睡眠を取ってから朝早く起きて朝ご飯を済ませて再度作業に移る。屋敷から研究室までの移動がない事により、作業時間はいつもよりも多く取れる。
そのため脚の試作も通常版と魔術版二つ作る事が出来た。そして、すぐに駆動試験を行う。
「良し。ちゃんと動くね。脚も膝から距離を置くことが出来る。脚の踏ん張りとか耐荷重とかも調べないとね。それには全部作る必要があるけど。よし! 頑張ろう!」
ゴーレム作りのための材料は揃っているので、セレーネはテキパキと製作していく。




